研究課題/領域番号 |
21H03290
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59010:リハビリテーション科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澤本 伸克 京都大学, 医学研究科, 教授 (90397547)
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研究分担者 |
稲富 宏之 京都大学, 医学研究科, 教授 (10295107)
岡田 知久 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30321607)
青山 朋樹 京都大学, 医学研究科, 教授 (90378886)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 記憶 / 前頭葉 / fMRI / パーキンソン病 / 軽度認知障害 / 記憶障害 / 前頭葉機能 |
研究開始時の研究の概要 |
剖検で認知症疾患を示す脳内病理変化が認められるのに、生前に認知機能低下を免れる人々が存在することから、認知予備能の概念が提唱されている。正常加齢でも記憶力が低下するが、記銘時に前頭葉を賦活する言語化を活用することで記憶課題の遂行能力が改善することから、認知予備能の脳内機構の候補の一つとして前頭葉が注目されている。本研究では、記憶力が低下するが前頭葉機能が比較的保たれているパーキンソン病の軽度認知障害患者と、健常高齢者を対象として、神経画像ガイド下で、記銘時に言語化を活用して前頭葉を賦活する遂行方略を教示する。この方略を認知トレーニングで修得するリハビリテーションによって、記憶力の改善を目指す。
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研究実績の概要 |
パーキンソン病(Parkinson disease: PD)では、記憶障害がみられることが稀ではない。しかし、前頭葉機能が保たれているPD患者では、手がかり刺激を与えることで正答できる場合がある。こうした患者では記銘力が保持されていることが推定され、想起過程を強化することで、記憶障害が軽減できる可能性がある。そこで本研究では、PDの軽度認知障害(PD with mild cognitive impairment: PD-MCI)患者を対象として、記銘力障害の病態を解明すると共に、記憶障害が前頭葉機能によって代償される機構を解明する。また、記銘力障害を示すPD患者の認知症への進展リスクを検討する。これまでに我々は、先行する疫学研究と同様、京都大学医学部附属病院受診中のPD患者群でも記憶障害の頻度が高いことを確認した。PD-MCIでHopkins Verbal Learning Test Revisited (HVLT-R)による30分後の遅延再生記憶が障害されていた患者のうち、約半数は前頭葉機能が保たれていた。このグループの患者は遅延再生後に手がかり刺激を与えると、認知機能が保たれたPD (PD with cognitively normal: PD-CN)患者とほぼ同程度の正常レベルの正答率を示した。今後は、PD-CN患者に手がかり刺激を与えた際に賦活される前頭葉領域を同定する。その上で、その領域を利用すべき脳内ネットワークの見本とし、神経画像ガイド下で同じネットワークを動員する遂行方略について検討する。そして、この方略を認知トレーニングで訓練して修得するリハビリテーションを開発することで、記憶障害の軽減を目指すことができないか、検討していく。この手法は、認知予備能の神経機構の解明にも寄与することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに我々は、先行する疫学研究と同様、京都大学医学部附属病院受診中のPD患者群でも、遂行機能障害や作業記憶障害など前頭葉機能の障害と並んで、記憶障害の頻度が高いことを確認した。超高磁場7テスラMRIを用いた詳細な脳構造の解析によって、記憶障害があり手がかり刺激を与えても正答できないPD患者では、頭頂後頭葉・側頭葉を中心に大脳皮質の菲薄化が認められた。一方、記憶障害が前頭葉機能によって代償されているPD患者では、大脳皮質の菲薄化は明らかでなかった。したがって、PD患者における記銘力障害に、大脳後方領域を中心とした皮質神経細胞の変性が関わっている可能性が考えられた。今後は、記銘力障害を示すPD患者の経過を縦断的に追って、認知症への進展リスクを検討する。また、今年度は、遂行機能や作業記憶など前頭葉機能によって代償される機構を、脳機能画像を用いて検討する。その上で、適切な遂行方略をとるための作業療法士による介入を行う方法や、神経画像による前頭葉の賦活をどのようにして確認するかを検討する。先行する研究から、認知予備能の脳内基盤として、前頭葉が重要な役割を果たす可能性が指摘されてきた(Barulli et al., Trends Cogn Sci 2013)。その神経機構は十分には明らかにはなっていないが、機能が保たれた脳領域の代償的な動員が関与するというNeural Compensationの機序が、仮説の一つとして提案されている。本研究の結果は、PD-MCI患者の記憶障害が、前頭葉の代償的な動員によって軽減する可能性を示唆しており、認知予備能の脳内基盤として、前頭葉が働いている可能性を示唆しているものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
先行する疫学研究と同様、京都大学医学部附属病院受診中のPD患者群でも記憶障害と並んで、遂行機能障害や作業記憶障害など前頭葉機能の障害頻度が高かった。一方、PD-MCI患者のうちHopkins Verbal Learning Test Revisited (HVLT-R)で評価した遅延再生記憶が障害されていた方のうち、約半数は前頭葉機能が保たれていた。このグループの患者の多くは遅延再生後に手がかり刺激を与えると、認知機能が保たれたPD患者とほぼ同程度の正常レベルの正答率を示した。 1) 介入方法の検討 超高磁場7テスラMRIを用いた詳細な脳構造の解析によって、記憶障害があり手がかり刺激を与えても正答できないPD患者では、頭頂後頭葉・側頭葉を中心に大脳皮質の菲薄化が認められた。一方、記憶障害が前頭葉機能によって代償されているPD患者では、大脳皮質の菲薄化は明らかでなかった。したがって、PD患者における記銘力障害に、大脳後方領域を中心とした皮質神経細胞の変性が関わっている可能性が考えられた。今後は、記銘力障害を示すPD患者の経過を縦断的に追って、認知症への進展リスクを検討する。また、今年度は、遂行機能や作業記憶など前頭葉機能によって代償される機構を、脳機能画像を用いて検討する。その上で、適切な遂行方略をとるための作業療法士による介入を行う方法や、神経画像による前頭葉の賦活をどのようにして確認するかを検討する。 2) 介入の実施と主要評価項目 上記の検討結果に基づいて、50名のPD-MCI患者と50名の健常高齢者を対象として、介入試験の実施を計画する。主要評価項目は、介入前後でのHVLT-Rの遅延再生の得点とする。繰り返しの効果を除外するため、介入前後の評価はHVLT-Rの異なるフォーム (異なる単語リスト)を用いる。研究室所属の医学研究科大学院生との協力体制のもと、研究を推進する。
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