研究課題/領域番号 |
21H03447
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60090:高性能計算関連
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
伊田 明弘 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(地球情報科学技術センター), 副主任研究員 (80742121)
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研究分担者 |
横田 理央 東京工業大学, 学術国際情報センター, 教授 (20760573)
塙 敏博 東京大学, 情報基盤センター, 教授 (30308283)
岩下 武史 北海道大学, 情報基盤センター, 教授 (30324685)
大島 聡史 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 准教授 (40570081)
星野 哲也 名古屋大学, 情報基盤センター, 准教授 (40775946)
平石 拓 京都橘大学, 工学部, 専任講師 (60528222)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2021年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | H行列法 / 行列近似 / 数値線形代数 / 並列計算 / 混合精度演算 / 近似計算 / 低ランク / 高性能計算 / アルゴリズム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、科学技術計算およびデータ科学計算に必要な数値線形代数の行列演算について、格子H行列に基づき実行するアルゴリズム群を開発する。 格子H行列は、研究代表者らが提案した低ランク構造行列法の一種であり、従来型のH行列では困難なアルゴリズムの開発を見通し良く行うことができる。計算に必要な密行列演算を格子H行列による近似演算に置き換え、計算機メモリと演算量の大幅な削減により、計算の大規模化・高速化を実現する。 アルゴリズム開発は、最新の計算機アーキテクチャで構成されるクラスタ計算機を意識して行う。実装に際しては、混合精度演算・動的負荷分散などを含め最適な手法を研究する。
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研究実績の概要 |
格子H行列を用いた数値線形代数系の構築を目的とし、固有値計算、LU分解、QR分解などを実行する新しいアルゴリズムの研究・開発を行った。多くの成果が得られた中でも、主要なものとして、BLR(Block Low-Rank)行列の固有値計算法が挙げられる。格子H行列の特殊な場合であるBLR行列について、全固有値を計算するアルゴリズムを開発した。開発したアルゴリズムの計算複雑度を、BLR行列を特徴付ける行列サイズ・ブロックサイズ・各ブロックの階数(ランク)を変数として見積り、最適な条件を検討した。最適条件下で提案アルゴリズムの計算量が従来の密行列の場合に比べて大幅に低減させられることを理論的に示した。また、数値実験を用いて、計算時間が理論通り計算量に比例すること、および、固有値と固有ベクトルの誤差が階数を増やすにつれて密行列に近づいていくことを確かめた。 格子H行列法の適用範囲の拡大に取り組んだ。従来、格子H行列を含む低ランク構造行列法は境界要素解析(時間項を含まない空間領域の積分方程式法)への適用が想定されていた。時空間領域積分方程式法に適用範囲を拡張すべく、FDP(Fast Domain Partitioning)法と格子H行列法を組み合わせた手法を開発し、従来手法の計算量を開発手法では大幅に低減させられることを理論的に示した。さらに、3次元弾性波動伝播解析を提案手法で行う計算コードを開発し、理論に近い計算時間で解析が行えることを確かめた。 格子H行列法の高性能実装に関する研究においても多くの成果が得られた。主要な成果としては、タスク並列言語Tascellを拡張し、分散メモリ環境における行列分割構造生成の並列実装を提案した。3次元電場解析に対する約1億要素を用いた数値実験において、最大8ノード×36ワーカーで良好な高速化を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は格子H行列に対し、 (1)新しい数値計算アルゴリズムの研究開発、(2)適用範囲拡大の研究、(3)高性能実装法に関する研究、の3つの研究項目に大別される。研究項目(1)については、固有値計算法、LU分解法、QR分解法に関する新しいアルゴリズムを提案し、4件の学会発表(内、国際会議発表3件)を行った。また、得られた成果について3本の論文を査読付き論文誌に投稿した。研究項目(2)については、時空間領域積分方程式および地震周期解析へ格子H行列法を適用する研究成果3件について学会発表を行った。研究項目(3)については、H行列分割構造生成の分散メモリ並列環境実装、最新CPUアーキテクチャ向けH行列・ベクトル積最適化、BLR行列のQR分解実装法、等々の研究を行い、7件の学会発表(内、国際会議招待講演3件、国際会議一般発表1件)を行った。 全ての研究項目について、多くの研究成果が得られており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
格子H行列の新しい数値計算アルゴリズムについて、これまでに行った固有値計算法、LU分解法、QR分解法の研究開発を引き続き実施する。これまで、各アルゴリズムの研究開発はノード内での計算に主眼を置いていたが、提案手法が行列サイズ数万以上で真価を発揮すると見込まれることから、分散メモリ並列計算アルゴリズムの開発を促進する。また、提案手法は近似計算手法であることから、計算された固有値や分解結果行列の計算精度が常に問われることが予想されるため、精度保証付き手法の研究にも着手する。更に、固有値計算手法については、これを発展させ、固有値のみでなく指定した固有値に対する固有ベクトルを計算するアルゴリズム計算する固有値問題解法の研究を進める。 格子H行列の適用対象拡大の研究に関しては、現在進行中の地震周期解析および破壊解析に加え、超電導解析や電子状態計算など他の候補への適用を模索する。 高性能実装法に関する研究に関しては、H行列分割構造生成の分散メモリ並列環境実装、最新CPUアーキテクチャ向けH行列・ベクトル積最適化、BLR行列のQR分解実装法に加え、混合精度演算の活用法とFPGA実装法の研究を実施する。また、格子H行列法はMPIプロセス間の負荷均衡を犠牲にして通信負荷を低減させる手法であるため負荷が不均衡になる弱点があるが、これを補うべく、各MPIプロセスに割り当てるコア数を変更し、各コアの計算負荷均衡を実現する研究を行う。
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