研究課題/領域番号 |
21H03745
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
和田 健 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (10401209)
|
研究分担者 |
望月 出海 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (30579058)
兵頭 俊夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 協力研究員 (90012484)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2021年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
|
キーワード | 陽電子 / 低速陽電子ビーム / 陽電子回折 / 表面 |
研究開始時の研究の概要 |
全反射高速陽電子回折(TRHEPD,トレプト)法は,これまで他の手法では不可能だった表面の構造解析に次々と成功をして注目を集めてきた。ところが,陽電子は反粒子のため十分なビーム強度を得るのが困難で測定に時間がかかる。これが,様々な条件で清浄表面を保ったまま多数回測定を繰り返す必要のある実用表面材料研究においてボトルネックとなっている。本研究ではビーム輸送の高効率化と,パルスビームによって検出器が飽和しないようそのパルス幅を桁違いに伸長して平滑化するシステムをTRHEPD用に開発し,この問題を大幅に改善する。
|
研究実績の概要 |
様々な材料開発が盛んに行なわれている表面材料研究において、表面原子配列を明らかにする構造解析は重要である。陽電子回折実験は、いくつかの表面の構造解析で実績を上げてきたが、十分な陽電子ビーム強度を得るのが困難で測定に時間がかかるため、効率的な表面材料開発研究のための短時間測定の実現が望まれている。この問題を解決するために、装置直前まで磁場輸送されてくる陽電子ビームを、回折実験用に非磁場領域に高効率に取り出すシステムのシミュレーションと設計・製作を完了し,動作試験を開始した。これまでは,陽電子ビーム輸送用の磁場コイルからの磁場を、ビームラインを通すための穴を中心にあけた鉄板で遮蔽し,陽電子を下流側の非磁場領域に取り出していた。この方式だと,中心の穴で鉄板に向かってゆるやかに曲線を描く磁力線にそって陽電子の軌道は曲げられ,その多くがビーム輸送用真空パイプの壁面に衝突して失なわれてしまう。本年度は,この鉄板にかえて,真空パイプ中に磁性体薄膜を等間隔で並べてそれらを磁性体のフランジに固定したシステムの開発と動作試験を行なった。このシステムは、磁力線を局所領域で曲げてビームラインの上流側に戻すことで、方向が変化する磁場との相互作用時間を短くし、磁場による陽電子の軌道変化をおさえるものである。 また,ビームのパルス幅がそのくり返し周期に対して4桁も短い(パルス中で高密度となりすぎている)ため,高効率化によって検出器が飽和してしまわないよう,パルスをいったん電磁場でトラップしてから、TRHEPD実験用に15 keVで徐々に下流側に供給することで、このパルス幅を4桁伸長して平滑化するシステムの開発に着手した。本年度は試験用の新しい電極とチャンバーの設計と製作を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置直前まで磁場輸送されてきた陽電子ビームを回折実験用に非磁場領域に高効率に取り出すシステムの開発に関しては、ビーム輸送用の磁場及び静電レンズの電場の計算とビーム輸送シミュレーションを行なって、設計の最適化を試みた。実際に装置を製作し、ビームラインに接続してビーム試験を行なった。非磁場領域へ高効良くビームを引き出せるようになったが、引出し後の静電レンズによるビームの収束には改善の余地があることがわかったので、静電レンズをより収束力のある磁場レンズにかえたシステムのシミュレーションによる最適化を行ない、設計・作成をした。 15 keVのビーム供給が可能なパルス幅伸長システムの開発に関して、課題となっているのは、各パルスをトラップするための電極の放電である。真空中の高電圧放電は、陰極側のトリプルジャンクション(碍子/接続金属/真空空間の3つの境界)の金属面からの電界放出電子によって碍子表面が帯電し、これが成長することによって生じると考えられる。この現象は、各部品形状や表面の状態、真空度など複雑な要因によって生じるもので、シミュレーションのみで解決できる単純なものではない。本研究課題で開発する電極は大型となり試行錯誤が必要となるため、まずは、放電が起こらないよう配慮をした電極とチャンバーを、電場分布の計算を行なって確認をした上で設計し、装置を実際に試作した。 また、新しいパルス幅伸長システム用の高電圧フローティング電源の構成の検討を進め、必要なモジュール類の手配を開始した。 全反射高速陽電子回折実験の効率化に必須の解析プログラムの整備を進めた。 ビームライン全体の陽電子回折実験以外の実験とのシステムの共存のために、ビーム輸送電源の制御システムを整備し、ビーム輸送パラメータの高い再現性を確保すると共に、より精緻なビーム軌道制御を可能にすることで、高効率な実験が可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度改良をした、磁場輸送されてくる陽電子ビームを回折実験用に非磁場領域に高輝度で取り出す新しいシステムを用いたビーム試験を行なう。 ビームのパルス幅伸長システムに関しては、今年度作成したトラップ電極の試作品を用いて、真空排気試験と電圧印加試験を行なう。また、新しいパルス幅伸長システム用の高電圧フローティング電源のシステムを組上げて、動作試験を開始し、その結果を見ながら、実際のビームラインへの実装の検討を進める。
|