研究課題/領域番号 |
21H03768
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90010:デザイン学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
ソン ヨンア 法政大学, デザイン工学部, 准教授 (20831423)
城 一裕 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (80558122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2021年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | speculative ethics / more-than-human / ACI / 発酵 / 微生物 |
研究開始時の研究の概要 |
現代のグローバルな環境危機に対応するためのデザインの議論の中で,動植物,微生物,そして自然環境を含む「人間以外の自然存在」(more-than-human)に対するケアの視点を取り込んだ,脱人間中心的な倫理に基づいたデザイン理論の構築が要請されている.本研究では,思弁的倫理(speculative ethics)と呼ばれる理論的枠組みに沿って,不可視の微生物と人間の相互ケアの関係性を育むためのデザインの方法論を実践し,理論モデルの検証を行う.そのために,日本の伝統的な発酵食文化のプロダクトである糠床を技術的に拡張したデザインの実験評価を通して,人と発酵微生物の相互ケアの枠組みを明らかにする.
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研究実績の概要 |
本課題では微生物を中心に、モアザンヒューマン(人以上)生命種と人の関係性を支援する技術のデザインを、「相互ケア」の概念を通して研究することを目的としている。そのために、研究代表者らが構築してきた糠床ロボット「Nukabot」を起点とし、展示や実験を通して調査を進めている。2022年度においては、情報処理学会論文誌のインタラクション特集号に、CHI21で発表した内容を日本語で解説しつつ前年度に21_21 DESIGN SIGHTでの展示を経て得られたデータ解析を紹介する論文を投稿し、採択され、年度末に公開された。また同論文の内容をもとに、2022年度のインタラクション学会にて招待講演を行った。日本科学未来館では、新しいバージョンが安定稼働するまでメンテナンスを繰り返し、腐敗が起きやすい夏場を超えた頃から、これまでの実験で得たphatic communion(連帯を生み出すことを目的とする儀礼的な挨拶や発話行為)の必要性という観点から、人工知能と人工生命を研究するCrosslabs社のOlaf Witkowski氏らとディスカッションを繰り返した。その結果、Crosslabs社の協力を得て、GPT-3技術を用いてNukabotとphaticな会話を交わすことのできる機能を実装し、日本科学未来館の展示に展開した。また、下北沢の発酵食専門店「発酵デパートメント」店舗内で、無期限のNukabot展示を行えることになり、2台めのNukabot バージョン4を制作し、未来館と同じGPT-3版を設置した。また、糠床微生物転移実験用のデータを分析し終え、微生物学分野に向けた英語論文を伊藤光平氏らと執筆し、投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においては、これまでの取り組みをまとめた査読付き論文が採択され、招待講演を行ったことにより、インタラクション学会においても様々な研究者の方々から多数の有益なフィードバックを得ることができた。特に理工学系の研究者が多く集まる同学会において、人文学の課題認識と理工学系の方法論を交えた本課題について、肯定的な意見や質問を多数いただけたことは僥倖であった。また、本課題を通して調べてきた人と技術の倫理的関係について分担執筆した共著書籍『AI・ロボットと共存の倫理』(西垣通・編)が岩波書店より刊行された。そして、日本科学未来館、そして発酵デパートメントという二箇所での新型Nukabotの展示を12月より開始し、さらに大規模言語モデルに基づいたGPT-3技術を用いた機能実装を行い、次の中朝的実験の準備を進めることができた。両所をあわせてすでに4万件を超える音声入力の有効データが集まっており、GPT以前と以後の傾向比較を開始することができた。NukabotにGPT機能を実装してから一ヶ月後にはChatGPTが世界中で話題になり、研究者同士や非専門家と生成系AIの功罪について議論することが増えたが、その経験からもまた、同じ学習済み生成トランスフォーマー(GPT)技術を用いることのHCI研究上の意味を深く考えさせられることになった。また、前年度に準備を行っていた微生物学実験の論文も執筆を終え、年度末には国際論文誌に投稿し、同時にプレプリント版を査読完了に先駆けて公開することができた。この成果は、翌年度におけるHCIの英語論文執筆時において引用し、議論を深めることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度末において、上記で述べた①情報処理学会論文の投稿と採択、②日本科学未来館と発酵デパートメントでの展示開始とGPTを用いた会話機能の深化、そして③糠床と人の微生物相解析の論文執筆と投稿を終えることができた。最終年度となる次年度においては②を基にした実験を実施し、国際学会への論文投稿を行う予定である。
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