研究課題/領域番号 |
21H03802
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 真寿美 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30431307)
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研究分担者 |
野々山 貴行 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (50709251)
田中 伸哉 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70261287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2021年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
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キーワード | がん幹細胞 / ハイドロゲル / ポーラスゲル / 癌治療法 / がん幹細胞ニッシェ / がん治療法 |
研究開始時の研究の概要 |
がんの根絶には、がん組織におけるがん幹細胞の誕生・生存機構の解明が必須である。我々は近年、高強度ハイドロゲルを用いてがん幹細胞を迅速に誘導するリプログラミング現象を見出した(Nature Biomed. Eng. 2021)。これは、高機能ハイドロゲルが分化したがん細胞を未分化ながん幹細胞へ初期化することを可能としたものである。本研究では高強度ポーラスゲルを最適化して3次元がん組織モデルを創出し、がん組織の多種細胞間の時空間的相互作用、およびがん幹細胞が誕生・生存・形質転換する動的分子機構を解明する。最終的にはがん幹細胞を根絶し得る治療標的分子を同定し、がん制圧に向けた基盤の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
がんの再発は、がん治療に耐性を示すがん幹細胞が生き残ることによって起きる。癌幹細胞は癌組織中の低酸素や低栄養、および傍血管部位などの特殊な微小環境(癌幹細胞ニッチ)で産生・生存すると考えられているが、その詳細な機序は未だ不明な点が多い。研究代表者らは、近年、高強度ダブルネットワークゲル(DNゲル)上にがん細胞を播種すると、24時間以内に迅速にがん幹細胞が誘導されるリプログラミング(初期化)現象を見出した(Nat. Biomed. Eng., 2021)。当該技術を基盤として、本研究ではがん組織におけるがん幹細胞の誕生・生存機序の解明を目指す。 令和4年度は、ハイドロゲルに癌幹細胞ニッチの環境を付加することで、癌幹細胞が生成・生存される効率について解析した。ヒト膠芽腫細胞は、低酸素模倣環境下では幹細胞マーカーの発現量が変化しなかった一方、低栄養模倣環境下では細胞が凝集し幹細胞マーカーの発現量が上昇したことから、低酸素下よりも低栄養環境によってリプログラミングが促進される可能性が示唆された。また、膠芽腫細胞は血管内皮細胞由来分泌蛋白影響下では細胞形態、幹細胞マーカー発現量共に変化が見られなかったが、血管内皮細胞との共培養では細胞に重層・凝集傾向が認められ幹細胞マーカー発現量も増加したことから、膠芽腫のperi-vascular (傍血管) nicheでは、血管内皮細胞との直接接触がリプログラミングを促進している可能性が示唆された。 以上より、ヒト膠芽腫細胞では低栄養環境および血管内皮細胞との直接接触がリプログラミングを促進する可能性が示唆された。膠芽腫では特徴的な微小血管増生や糸球体様血管束が認められ、その周囲ではpalisading necrosis(低酸素、低栄養環境)が認められることから、癌幹細胞が生成・生存しやすい環境が整っていることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内において癌幹細胞は癌微小環境との相互作用によって誕生し、血管近傍や免疫細胞との接触領域、低酸素環境に存在し、各環境(ニッチ)によって異なる性質を有する (不均一性)と考えられている (J Clin Invest 2017:127;415-426) 。令和4年度は、ヒト膠芽腫を研究対象とし、ハイドロゲルに癌幹細胞ニッチの環境と考えられている低酸素、低栄養、血管内皮細胞分泌蛋白存在下、血管内皮細胞との直接接触の環境を各々付加した上で癌細胞を培養することで、各環境において癌幹細胞が生成・生存する効率について解析した。その結果、ヒト膠芽腫細胞では低栄養環境および血管内皮細胞との直接接触がリプログラミングを促進する可能性が示唆された。これは、癌幹細胞ニッチにおいて、膠芽腫幹細胞がどのような多種細胞間ネットワーク及び微小環境下において生成されるかを示す研究成果であり、当該年度の目的を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
①3次元がん組織モデルでのがん幹細胞の誕生・生存維持・形質転換(不均一性獲得)過程の時空間的解明 令和3年度および4年度の研究成果を発展させ、3Dポーラスハイドロゲルをベースにした3次元がん組織モデルをさらに最適化してがん幹細胞ニッチを再現し、がんの進展に伴うがん幹細胞の誕生・生存維持・組織のヘテロジェネイティ創出メカニズムを時空間的に解析する。具体的にはヒト膠芽腫を研究対象とし、異なる蛍光波長で標識したがん細胞、血管内皮細胞、アストロサイトを3次元がん組織モデルで共培養し、蛍光多重バイオイメージングを用いて、がんの進展に伴って変化する異種細胞間相互作用の動態を解明する。がん幹細胞が誕生する時空間的解析においては、Sox2プロモーター下でドライブされるGFPを組み込んだがん細胞を用いて、がん細胞からがん幹細胞にリプログラミングする動態を解析する。 ②3次元がん組織モデルにおけるがん幹細胞標的治療薬の同定 臨床検体を使用し、上記で明らかとなったがん幹細胞の誕生・生存・維持に重要な分子について免疫組織化学染色によって発現を確認する。がん幹細胞での発現が確認された分子について、特異的阻害剤を用いてがん幹細胞の誕生を阻止できるかを検討する。さらに、マウスへの同所移植実験において、生体内がん組織での抗腫瘍効果を検討する。 最終的に、がん幹細胞の誕生・生存機構を標的とした次世代型のがん個別化医療の基盤技術を構築する。
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