研究課題/領域番号 |
21H03825
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90120:生体材料学関連
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
望月 慎一 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (10520702)
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研究分担者 |
高原 茉莉 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 助教 (40804563)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
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キーワード | 薬物送達システム / がんワクチン / 抗原提示 / ペプチド / 多糖 / ヒアルロン酸 / 免疫療法 / 抗原ペプチド |
研究開始時の研究の概要 |
近年、がんワクチン療法では免疫抑制(ブレーキ)を解除するチェックポイント阻害剤が実用化され始めたが、それでも奏効率は3割程度とされる。ブレーキ解除後のCTLの感受性(アクセル)を向上させるための新たな原理に基づく有効な戦略が求められている。本申請では、がん細胞に特異的に認識される多糖を利用し、がん細胞の免疫細胞に対する感受性の向上のために、抗原性の高い外来抗原ペプチドを送達することで、がん細胞の抗原性の改変を試みる。多糖と外来抗原ペプチドから成るコンジュゲート体を作製し、受容体への親和性の評価、がん細胞の外来抗原提示誘導を試みる。
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研究実績の概要 |
がんワクチンは生体が自ら持つ免疫機能を活性化してがん細胞を攻撃する治療法であるが、使用されている抗原が自身由来ということもあり、その抗原性は決して高いわけではない。本研究では、がん細胞に特異的に認識される多糖を利用し、がん細胞の抗原性改変に基づく有効ながんワクチンの開発を試みる。 2022年度にヒアルロン酸(HA)と抗原タンパク質のオボアルブミン(OVA)との縮合反応によりコンジュゲート体を作製し、HAの分子量の異なるもの、HAとOVAの組成が異なるコンジュゲート体を得た。CD44との結合能を水晶発振子を用いて蛍光修飾した各コンジュゲート体のがん細胞への取り込みを評価したところ、高密度なコンジュゲート体がCD44に対し非常に強い親和性を示し、細胞にもよく取り込まれた。免疫応答を評価したところ、OVA特異的CTLを含む脾細胞とコンジュゲート体処理したがん細胞を混合させたところ、培養上清中に非常に高濃度のインターフェロンガンマを検出した。これは、がん細胞がHAを介してOVAを取り込み、その一部を抗原として提示していることを示している。これより、本研究の基本概念となる外来抗原を人為的に送達させることで細胞の抗原性が変化することを証明された。 また、抗原としてタンパク質ではなく、ペプチドを用いてもコンジュゲート体の作製を試みた。ヒアルロン酸のカルボキシル基にN- (6-Maleimidocaproyloxy) succinimide (EMCS)を導入し、システインを付加させた抗原ペプチドとの反応を試みた。NMRによりペプチドの量を定量したところ、HA1本あたり約8個のペプチドが結合したコンジュゲート体を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.0×105のHA4分子とOVA3分子から成るコンジュゲート体(4HA-3OVA)をマウス大腸がん細胞(CT26)に添加し、24時間培養した。そこにマウスにCpG-DNAとOVAを免疫して得た脾細胞(OVA特異的CTLを含む)を添加し、さらに24時間培養し上清中のインターフェロンガンマ(IFN-g)をELISAで定量した。コンジュゲート体処理したウェルからは非常に高濃度のIFN-gを検出することが出来た。一方、HAとOVAの混合物で処理したウェルからはほとんど検出されなかった。これは、がん細胞がHAを介してOVAを取り込み、OVAの一部が細胞表面上に提示され、それをOVA特異的CTLが認識したことを意味している。また、がん細胞と脾細胞を混合後、48時間後にがん細胞の様子を顕微鏡観察したところ、多くのがん細胞が死滅している様子が見られた。同時に上清中に含まれる乳酸脱水素酵素(LDH)の量を測定したところ、コンジュゲート体処理したウェルでは約半分のがん細胞が死滅していることも分かった。 抗原をタンパク質からペプチドに変えても同様に抗原性の改変が可能か、HAと抗原ペプチドから成るコンジュゲート体の作製を試みた。HAのカルボキシル基にN- (6-Maleimidocaproyloxy) succinimide (EMCS)を導入し、OVAペプチドのN末端にシステインを付加させたペプチドを用意し、混合させた。反応はNMRにより定量を行い反応点に対し全てペプチドが修飾されていることが分かった。EMCSの導入量により結合させるペプチドの量を調整可能であることも分かった。がん細胞にコンジュゲート体を投与したところ、ペプチドが提示される様子も免疫染色により確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
作製したHA-OVAコンジュゲート体ががん組織に取り込まれるか動物実験を行う。マウスにCT26細胞を皮下移植し、10日後に蛍光修飾したHA-OVAコンジュゲート体を投与する。数時間後に腫瘍を摘出し、その蛍光値から取り込まれたコンジュゲート体の量を算出する。OVA単体よりも効率よく取り込まれるようになったか評価する。同時にがん組織の凍結切片も作製し、蛍光顕微鏡観察により、組織のどこにコンジュゲート体が取り込まれているのか定性的評価も行う。 OVAペプチドを結合させたコンジュゲート体においても、修飾率の違いによるCD44への被認識能を評価するために、水晶発振子を用いた親和性評価を行う。基盤に固定したCD44分子に対し、OVA-ペプチドコンジュゲート体を添加し、その振動数変化からペプチド付加による親和性の変化を評価する。がん細胞の抗原性の改変評価として免疫応答を観察する。がん細胞を事前にコンジュゲート体処理する。そこにCpG-DNAとOVAペプチドで免疫したマウスより得た脾細胞(OVA特異的CTL含む)を添加し、24時間後に培養上清中のIFN-gをELISAで定量する。担がんマウスに対してコンジュゲート体を投与し、数時間後にがん組織を摘出する。凍結切片作製後、抗体染色によりOVAペプチドを提示しているがん細胞の割合を定量する。
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