研究課題/領域番号 |
21H03839
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90130:医用システム関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中根 和昭 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教授 (10298804)
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研究分担者 |
山本 浩文 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (30322184)
横山 雄起 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60615714)
橘 理恵 大島商船高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (90435462)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2021年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
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キーワード | ホモロジー法 / クロマチン解析 / ビッグデータ / ホモロジー / クロマチンパターン / 細胞診断 / 遠隔診断 / ホモロジープロファイル法 / データの構造化 |
研究開始時の研究の概要 |
クロマチンパターンに代表されるように、医療現場に現れる画像のほとんどは構造化されていない。本研究ではホモロジープロファイル法を用いて画像データを構造化してAI等の最新技術で解析を進める。 ホモロジ量は数学的には二次元の特徴量であるため、現在AIで用いられている特徴量からは導出できない上に、「接触」という物理現象に結びついているため、医学理論・医師の感覚と一致したアルゴリズムの設計が可能であり、教師データによらないロバストなシステム構築が可能であると考えられる。本研究は実証的基盤を整備する。。
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研究実績の概要 |
肺癌の治療方針などを定める際には、細胞診断は必須の検査である。細胞診断は、細胞検査士などの専門家による主観的な判断による部分が大きく、客観的な指標による均てん化は喫緊の課題である。診断の主な基準となる「クロマチンパターン」は非常に複雑であるため、診断を行う細胞検査士には長期間の訓練が必要である。これに対して、自動診断支援技術の開発も進められているが、クロマチンは細胞核内に3次元的にランダムに分布しているため、深度情報も解析には必須であり、AI的なアルゴリズムを用いた画像処理法では実用化は非常に難しい。 ホモロジーとは図形の接触の程度を定量化する数学的概念である。画像は「白と黒の二値化」することで「図形」に変換できるが、本手法は【二値化するパラメータを連続的に変化させて「図形」のホモロジー量の変化(プロファイル)から画像の特徴量を得る】というものである。ここでは輝度により二値化が行われるが、光学的に考えると、現れた二値化画像は焦点面から上下にずれた対象物の射影像の重ね合わせとみなすことができる。このため、プロファイルは3次元情報を含んでいる。また、ホモロジーの位相不変性から、微分幾何学的な情報を失った焦点面からずれた対象物に対しても位相情報はロバストである。しかも、この手法は一旦二値化するため、医療施設間の染色の異なりに対して、簡単に調整ができるうえ、計算負荷が非常に低い。このため、通常のパソコンでも機能する。 このことは画像そのものを外部に送信する事は必須でないため、個人情報の保護した上でのネットを通じた遠隔診断にも応用可能である。本手法の研究をさらに 進めることで、日本のみならず、病理医の少ない地域に対しても、医療サービスを展開することが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
病変部分は通常の組織構成システムから逸脱しているため、組織の接触の状態が正常とは異なっている。その異なり方はランダムネスが色濃く現れ、無限の形態が出現する。このためAIの様に教育ベースのアルゴリズムでは、対応が難しい。また、一般的に認知されているのとは異なり、数学的に二次元(画像)のランダムネスの定義はないため、そのような画像をそれを上手く解析する手段が模索される。本研究では位相不変性を有効に用いることで、新たな解析技術を提案している。ただし、どの特徴量が現象の本質を表現しているかについては、対象ごとに異なるため、工夫が必要である。 本研究については、科研費の予算によりホモロジー・プロファイル法を実装したシステムの作成を行った。本システムは医療従事者との深いコミュニケーションの上で設計されているため、彼らの「感覚的なもの」が、そのまま数値化されている。すなわち計算結果が彼らの診断と整合性が高いため、非常に好評である。さらに、共同研究者の医学的な知見からのアドバイスによりGUIは、計算機に慣れない一般の医療従事者でも、簡単に使いこなせるシステムになっている。現在までで、倫理委員会の許可を得たうえで、大阪はびきの病院のサンプルを用いてテストしたところ、肺細胞の小細胞癌・腺癌・扁平上皮癌の区別がつくことが分かった。現在論文として出版準備中である。 クロマチンパターンの変化は原理的には他の癌種に対しても適用可能である。当初目的としていた肺がん以外に、他の部位でも共同研究者とテスト中である。また前立腺や肺の組織にも応用することが可能であり、モダリティの異なるCT画像の解析にも応用が可能でとするエビデンスが得られ、こちらも論文出版準備中である。特に、薬効によるクロマチンパターンの変化の定量化について、実験を行い有意義な結果が得られたため、学会等で発表を行う。
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今後の研究の推進方策 |
現在作成中のアプリケーションには細胞核のクロマチンパターンの計測や細胞質の面積の計測(NC比の計算)など、診断に必要な機能が備えられている。このため、国内外を問わず学会等で、現在までの結果や原理等を発表することで、本手法を広く理解してもらい、興味のある研究者との連携を図る。協力してくれる研究者には知財権について十分配慮したうえで本アプリケーションを貸与し、肺細胞に対しての更なるPOCの確認と、ほかの部位への応用を模索する。同時に診断ワークフローに組み込めるようなシステムに改良を加える。また遠隔診断に対しての応用を視野に入れたGUI等の開発も行う。 癌化すればクロマチンに変化が出るのは周知の事実であるが、逆にクロマチンが正常に近く変化すれば、癌の治療に対して効果があったと見做すことができる。本手法はクロマチンの状態を定量評価(画像データの構造化)を行うことができるため、薬剤の濃度などの条件の適切な選択を行う上で、有効である。代表者の所属する研究室では、抗がん剤の開発も行っており、本年度はホモロジー法によりこの画像データの構造化が可能となった。今後、各種の抗がん剤に対して適用することで、それぞれの薬効の定量化を図り、体系的な研究を行う。 癌をはじめとする病理画像はどうしてもランダムネスを包含している。このため、AI等の教育ベースのアルゴリズムでの解析は難しい。現在はこれを回避するために位相不変性を用いているが、確率論的な思考も大切であると考えている。現在は簡易的に確率微分方程式の拡張を用いているが、理論的に整備されているわけではないため、不明確な部分が存在する。本研究期間内にいくつかの成功例を増やしていき、数理理論・計算理論的な発展研究にも指向していきたい。
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