研究課題
奨励研究
本研究は、高等学校を中心とする学校教育の現場で、生徒に、より汎用的な能力を、特に「法教育」の分野において育むものである。「法教育」の分野は、令和 4 年度から年次進行で実施される高等学校学習指導要領の改訂で、一層充実される見込みであり、本研究の意義は大きいと考える。これまでの「法教育」教材は実定法を前提に法的手続きを知識として理解させるものが中心であったが、本研究で開発する教材は法や正義の概念自体を考えさせる、より開かれたものである。これは、法的主体の在り方を扱う公民科新科目「公共」に対応したものであるとともに、 18 歳で成人となるこれからの高校生に必要な資質を涵養する研究である。
H.L.A.ハート(Herbert Lionel Adolphus Hart,1907-1992)の思想を参考に、法哲学的視点を導入した法教育教材を開発した。この教材を活用した授業の分析・評価を通じて、法の根本的な理解の下で法によらない解決策も含めて吟味させることが、法的主体としての在り方を実現させる可能性があることが示唆された。この結果は、比較対象とした既存の法教育教材による授業が、学習者に、規範教育的なものとして受け取られたことと対照的であった。
法哲学的視点を導入した法教育教材を高校生向けに開発することは、今後の公民科教育において、大きな意義があると考えられる。高等学校公民科新科目「公共」において、実定法が定めた価値に無批判に従うだけではない、法的主体としての在り方が、倫理的分野との関連の中で、これまで以上に求められるからである。また、そのような法的主体としての在り方を根本から学習者に考えさせることは、法化社会の進展や18歳成年の実現を迎えようとしている現状から鑑みても、日本の未来に貢献する研究になり得る。