研究課題
奨励研究
本研究は抗がん剤による精神的副作用について、その根幹に関与する報酬機能障害に焦点をあて神経細胞レベルでのメカニズム解明を目的とした研究である。報酬獲得に関係する動物実験モデルを応用し、抗がん剤により報酬獲得数が低下した(すなわち報酬機能が障害された)ラットの血液や脳脊髄液を採取し、神経細胞を模した培養細胞に加えることで神経細胞の形態に与える影響を評価する。さらに、報酬に関与する脳内神経伝達物質の1つであるドパミンの取り込み機構についても評価する予定である。
本研究では、抗がん剤のうち白質脳症を生じて認知機能障害を生じることが知られ、うつ病などの精神症状を生じやすい乳がん治療に用いられるシスプラチンを用いてPC12m12細胞の細胞機能に与える影響を評価した。シスプラチンの暴露によって細胞数に変化は認めなかったが巨大細胞が顕著に増加した。さらに、神経突起が細胞体の大きさの2倍以上の長さに伸長させた細胞の数を計測したところ、シスプラチンの暴露によって神経突起伸長細胞数も有意に増加した。
本研究成果は抗がん剤投与患者で生じている抑うつ状態などの精神症状の変化について、抗がん剤そのものの影響を明らかにする手掛かりを提供できたと考えられる。今後、今回の研究成果で認められた細胞の形態変化を説明できる細胞の機能変化を明らかにすることで抗がん剤が精神機能にあたえる影響を明らかにしていきたい。