研究課題
基盤研究(A)
弥生時代前期までに水稲稲作は鹿児島本土に伝播している。種子島には弥生時代中期の文化は達しているが、同時代後期から古墳時代までは広田遺跡に代表されるような特異な文化が展開していた。日本書紀により、種子島では7世紀には水稲稲作が行われていたことはわかっている。弥生時代中期に水稲稲作は種子島で受け入れられたのか、その後の種子島における生業はどのようなものであったのか。7世紀の水稲稲作は前時代のものが元となっているのか、あるいはその頃九州からもたらせたのか。このような問いに答えを見出そうというのが本研究の概要である。本研究では、考古学的方法に加えて、理化学的な方法をも用いて、これらの問いに答える。
2022年度はまず4月28日から5月8日間に小浜貝塚の発掘調査を実施した。トレンチを3箇所に設定し、それぞれ第1トレンチ、第2及び第3トレンチとし、この3つのトレンチを中心に発掘調査を行った。そのうち、第1トレンチは撹乱を受けていたので第2と3トレンチを中心に調査を行なった。小浜貝塚は砂丘に位置するが、今回の発掘調査は砂丘の上面からではなく、端部斜面の発掘調査を実施した。その結果第2トレンチからは曽畑土器を1片回収したが、弥生及び古墳と思われる層からは夥しい量の貝を含む貝層のみが確認された。第3トレンチからは小規模な発掘面積ではあったが、オオツノハタが多く検出され、さらに覆石土壙墓を想像させる遺構と思われるものが検出された。しかし、発掘期間中に第3トレンチを完掘することはできなかった。発掘調査と同時にそれぞれの研究者は放射化分析、土器脂肪酸分析、脊椎動物遺体、貝類遺体、古環境復元のための貝類のサンプリング、石器付着デンプン粒分析のための石器のサンプリング及びフローテーションのための土壌サンプリングを行なった。上記の期間において第3トレンチを完掘できなかったことから、8月7日から17日にかけてこのトレンチを完掘する目的で発掘調査を実施した。今回も同様にオオツタノハや弥生・古墳時代相当期の土器を検出することができた。発掘調査と同時に上記期間にサンプリングした土壌のフローテーション処理を行なった。また古人骨のサンプリングも試みられた。さらに今回もフローテーションのために土壌をサンプリングした。今回無事完掘することはできたが発掘期間最終日にこのトレンチが撹乱を受けていることが判明した。それゆえ来年度は砂丘端部ではなく、上面から発掘調査を行う予定である。これらの発掘調査調査やサンプリングとは別の日程で土器圧痕の調査も実施した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の春に実施した発掘調査においては概ね予定通りの進捗状況であった。ただ、上記したように最初の発掘期間中に第3トレンチを完掘できなかったので、8月に再度このトレンチを対象に発掘調査を実施した。この期間も概ね予定通りに発掘調査を行うことができ、目的の土器やオオツタノハなどを検出することができた。また夏に実施した調査でも短期間ではあったが貴重な遺物などを検出することができた。しかし、最終日において最下層からプラスチック製の蓋が検出され、第3トレンチで撹乱が起こっていることが判明した。それゆえ、現在までの進捗状況は予定通り進んでいない。
上記したように昨年度は3つのトレンチで発掘調査を行ったが、そのうち2トレンチが撹乱を受けていた。残る1トレンチは貝類の層は確認できたが、人工遺物を回収することはできなかった。小浜貝塚において、昨年度の発掘調査方法(砂丘の側面)は限界があることが昨年度の調査で明らかになった。そのため、今年度は大掛かりであるが、重機を利用して砂丘の上面から発掘調査を実施する。過去の発掘調査において、小浜貝塚には平安時代の文化層と弥生後半から古墳時代にかけての文化層および縄文時代前期の文化層が存在することが明らかになっている。今年度は砂丘の上面からの発掘調査により平安時代および弥生時代後半から古墳時代を対象に調査する。また、縄文時代前期の文化層は砂丘の上面からはかなり深いところにあり、そのため、この時代の調査をするためには砂丘上面ではなく、砂丘横の平地面から調査を開始する(昨年度の調査により、この平地面から約70cmの深さで曽畑式土器を1辺回収した)。今年度はこれらの3つの文化層より検出された土器などを含む人工遺物の詳細な分析を行う。また、これら3文化層を対象として、植物遺体分析、脊椎動物遺体分析、貝類遺体分析、石器付着の澱粉粒分析、土器付着の脂肪酸分析および人骨が回収されれば、人骨の分析を実施する。また、時間的余裕ばあれば土器圧痕分析および放射化分析を行う。さらに古環境復元のために二枚貝の安定同位体比および微細構造解析を実施する。本来なら今年度が最終年度であり、発掘調査報告書を刊行する年であったが、新型コロナウィルス感染症の流行により、プロジェクトの予定が1年づつずれてしまった。今後の研究の推進方策としては、今年度の上記の調査・分析をもとに来年度、発掘調査報告書を刊行する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (33件) (うち国際共著 11件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 5件、 招待講演 18件) 図書 (8件)
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