研究課題/領域番号 |
21H04396
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分7:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
中村 良太 一橋大学, 社会科学高等研究院, 教授 (00717209)
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研究分担者 |
井深 陽子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (20612279)
YAO YING 公益財団法人アジア成長研究所, 研究部, 上級研究員 (30810915)
Wang Hongming 一橋大学, 社会科学高等研究院, 非常勤研究員 (20867048)
Khin Thet・Swe 一橋大学, 社会科学高等研究院, 特任助教 (90881722)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2024年度: 12,220千円 (直接経費: 9,400千円、間接経費: 2,820千円)
2023年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2022年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2021年度: 12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
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キーワード | 医療経済学 / 費用対効果 / 医療システム / 閾値 / 医療政策 / アジア / 因果推論 |
研究開始時の研究の概要 |
公的医療における効率的な資源配分は世界的に重要な政策課題である。医薬品、医療機器、医療人材の配置等に関して費用対効果評価を活用した予算配分の仕組みを各国が導入している。費用対効果評価の価値は、評価結果を判断するための基準(閾値)が適切に設定されているかに懸かっている。ほぼすべての国において現状運用されている閾値は科学的根拠に乏しい。本研究では、日本、ブータン、シンガポール、タイにおける費用対効果の閾値を行政データ等から定量的に導出し、また閾値を変更した際の医療資源配分への効果を推定する。研究成果の政策インパクトを最大化させるべく、関連する各国政府機関等と連携して研究を進める。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本、ブータン、シンガポールにおける医療費と健康に関する行政データを用いて費用対効果の閾値を導出する。各医療システムにおける単位予算投入による健康改善への因果効果や、健康への支払用意額を推定した。また、閾値の変更が新薬等への予算配分に与える影響の評価を行った。タイにおいて閾値が変更された効果を定量的に分析した。国際共同研究の推進に向けて、SAPPHIREの年次会合を対面で開催した。 日本においては、レセプト情報・特定健診等情報データベースと人口動態統計の個票のデータ提供を受け、分析用データの整備と構築に向けた作業を行った。この作業にあたっては名寄せ等の作業を外部業者に委託した。この業者と綿密に議論を重ね、最終的な分析用データのフォーマットを決め、予備的なデータ分析を開始した(担当:中村、Yao、井深、Wang)。 ブータンにおいては、一次医療圏ごとの死亡・疾病発生状況や、全ての医療機関への予算配分等のデータの収集と整備の作業を行った。本年度でデータ整備作業をほぼ完了した。また、国民健康調査の実施において保健省への支援を行い、データ収集と整備を完了させた。日本においてデータ分析を進め、健康への支払用意額の推定を終えた。結果を保健省担当者や海外の専門家と共有し、修正点や追加分析について検討した(担当:中村、Yao)。 シンガポールにおいては、医療費および死亡率等のデータを保健省に対してデータ利用申請が承諾され、データ整備と分析の作業を本格化させた。分析計画を策定し、共同研究者に対して分析支援を行った(担当:中村)。 タイにおいては、National List of Essential Medicine Committeeと共同で、費用対効果の閾値の変更が、製薬企業による新薬の価格付けや保険収載確率に与える影響を推定した。結果を論文として取りまとめ、国際査読誌に投稿した(担当:中村)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本における研究では、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベースのデータ提供が想定よりも遅れたため、その分研究の進捗が遅れた。一方、データ分析計画の策定や委託業者との連携による分析データの構築準備作業は遅延なく進んでいたため、データ到着と共に予備的分析を進めることができた。データの確認・修正作業は随時行ってきており、分析に大きな問題は見当たらない。海外の専門家と本研究の進捗や計画について議論しており、研究の方向性については問題なく進んでいると考えている。 ブータンにおける研究では、医療費と健康アウトカムに関する行政データの整備に多くの時間と人員を割いたが、本年度中に作業をほぼ終わらせることができたので、今後は分析に集中する体制が整ったと言える。地域ごとの医療費を把握するための分析の過程で、全国レベルでの医療予算を各地域の実態に合わせて割り振る作業を終わらせた。例えば、保健省の人件費や設備投資データを各一次医療圏に割り振る作業である。健康への支払用意額の推定については、国民健康調査の完了と共にデータを取得し、ほぼ分析を終えた。支払用意額が個人の社会経済特性や地理的特性、また健康行動などとどのように関連しているかの分析も進めており、順調に進捗していると言える。 シンガポールにおける研究では、医療費および死亡率等のデータを保健省に対してデータ利用申請が承諾されたことで分析を本格化させることができる。この分析は共同研究チームの若手研究者が担当しているため、日本チームはその支援を続けてきた。 タイにおける研究については、費用対効果の閾値の変更の効果の定量評価を論文に取りまとめ国際誌への投稿まで終わらせることができたため、当初の計画よりも一年以上早く研究を終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
費用対効果の閾値の導出に関する実証研究では各国の別チームによる研究が進んでおり、昨年に引き続き、文献レビューや進行中の研究チームとの連携を含めて情報収集に努めつつ研究を行う。また、Strengthening Active Partnerships for Policy and Health Intervention Research and Evaluation (SAPPHIRE)の年次会合の対面での開催を継続し、国際共同研究体制の強化をはかりたい。 日本における研究では、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベースと、人口動態統計における年齢・性別で分けた市町村別死亡率のデータを合わせて、医療支出の変動が死亡率等の変化に与えた効果を推定する。また、単位当たりの医療費支出と質調整生存年との関係を定量化し、これを以て日本の費用対効果の閾値として提言する。 ブータンにおいては、過去10年の一次医療圏ごとの健康アウトカムと医療予算データを併せたパネルデータを構築し、医療予算と健康アウトカムとの因果関係の推定を行い、これを費用対効果の閾値として定式化する。また、健康への支払用意額により定式化した閾値と比較することで、異なるアプローチによる閾値がどう異なり、両者をどう政策に活かすべきか検討する。 シンガポールの研究では、引き続き現地の共同研究者のデータ分析支援を行い、同国における費用対効果の閾値を導出する。その成果を論文として取りまとめる作業を行う。 タイにおける研究では、費用対効果の閾値の変更のインパクト評価の論文を査読誌への掲載に向けて改訂する。また、本論文で用いたのと同じタイのデータを、同時期に閾値変更のなかった国の価格データ等と比較することで、国際的な医薬品の価格付けの動向に関するデータ分析を行うことを検討している。
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