研究課題/領域番号 |
21H04408
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
二井 仁美 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (50221974)
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研究分担者 |
阿久津 美紀 学習院大学, 文学部, 所員 (50823449)
家村 昭矩 名寄市立大学, 保健福祉学部, 特任教授 (10412876)
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
石原 剛志 静岡大学, 教育学部, 教授 (10340043)
竹原 幸太 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30550876)
坂本 紀子 聖徳大学, 教育学部, 教授 (40374748)
片桐 正敏 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (00549503)
長瀬 正子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (20442296)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
33,410千円 (直接経費: 25,700千円、間接経費: 7,710千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2022年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2021年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
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キーワード | 教護院 / 児童自立支援施設 / 児童福祉アーカイブ / 退所者 / 社会的自立 / 感化院 / アーカイブズ / 奥田三郎 / 家庭学校 / 留岡清男 / 少年教護院 / 予後調査 / 児童福祉施設 / 児童福祉アーカイブズ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、児童福祉アーカイブズに基づき、教護院の事故退所者と予後不良者の軌跡を検討し、教護院退所者の社会的自立に関する実態と課題を明らかにすることをめざしている。教護院は「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童」を対象とする児童福祉施設であり、1997年の児童福祉法改正により児童自立支援施設と改称された。教護院の事故退所者とは、施設での不適応や指導困難などのため他の施設へ措置変更になる者や、無断外出や病気、死亡等の事由による退所者である。これらの退所者を取り囲む社会状況とその軌跡を検討することは、社会が抱える課題の析出に繋がり、再犯防止と児童福祉のあり方を考える参照情報を提供するものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、児童自立支援施設が所蔵する児童福祉アーカイブズに基づき、教護院退所者(前身の感化院・少年教護院退所者も含む)の社会的自立の諸相を歴史的に明らかにすることをめざしている。 2023年度は、まずこれまでの研究成果を『北海道家庭学校 110年 北の大地の暮らしと教育』として刊行した。同書では、北海道家庭学校の歴史を描き出すとともに、同校校長と同校樹下庵診療所医師の協力により、1914年から2014年までの北海道家庭学校(社名淵分校を含む)入所者データベースを分析した。とくに、退所者の自立に関して、1972年から約40年間の入所児童のうち615名分の退所後の状況を検討し、非行内容に暴力性がない者、退所時に就労した者、「情緒の安定」に関する入所時の寮長の評価の高い者、「非認知的能力」や「社会情緒的スキル」に関わる寮長の退所時評価の高い者等は、退所後の少年院入所率が低い傾向にあるなどの知見を得た。他方、非行及びその予後と関連が深いとされる項目(家庭の貧困、虐待の有無、身体的虐待の有無、施設経験の有無、初発非行年齢の高低、窃盗、性非行、重大事件の既往、精神疾患の有無、知能指数等)と少年院入所率の間には有意差がないという結果を得た。また、奥田三郎「卒業生のゆくえ」調査の検討にもとづき、感化法・少年教護法施行期における家庭学校社名淵分校入校者の入校前の状況と退校後の状況に関して時期毎の特徴を明らかにする研究、アーカイブズ学における評価・選別に関する研究、教護院の寮舎運営における夫婦小舎制の歴史に関する研究等、学会や出版物においてその成果を発表した。さらに、東京都立萩山実務学校所蔵資料目録を作成作業を推進し、同施設および国立武蔵野学院等、各機関において関係資料調査を実施するとともに、研究成果の中間報告を行う研究会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、『北海道家庭学校110年 北の大地の暮らしと教育』を発刊し、家庭学校社名淵分校創設以来の歴史を明らかにするとともに、教護院退所者の予後について、夫婦小舎制の寮長の「主観的」というべき判断が退所後の少年院入所率と統計的に有意差が認められる関係にあることなど、新しい知見を獲得することができた。また、それらの研究成果を、「社会的養護のトップランナーをめざす『小さな会』」主催の研究会において報告し、50名以上の児童自立施設や児童養護施設等の職員および児童福祉・司法福祉研究者等と、今日の児童自立支援施設のあり方に関わるディスカッションを行った。 第二に、北海道家庭学校創立40周年、50周年記念事業として実施された家庭学校社名淵分校開設後、同校に入校し退校した者についての奥田三郎「卒業生のゆくえ」調査記録を検討し、社名淵分校入所者の入校前と退校後の状況について、第二次感化法施行期、第三次感化法施行期、少年教護法施行期(戦時下・戦後)に区分したうえで、時期毎の特徴を把握し、学会において研究報告を行った。 第三に、児童福祉アーカイブズの基礎的研究として、国際的な研究動向をふまえアーカイブズ学における評価・選別に関する研究成果を発表した。 第四に、教護院の寮舎運営における夫婦小舎制に関する成果が『「子どもたちが望む「家庭支援」』、教育福祉研究と甦育論についての研究成果が『融合分野としての少年法』において公刊された。 第五に、東京都立萩山実務学校、国立武蔵野学院、東京家庭学校等、各関係機関において史料調査を行い、本研究に必要な情報について検討し、研究の現状と課題を確認した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているとの評価にいたった。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、東京家庭学校、北海道家庭学校、萩山実務学校において児童福祉アーカイブズ構築作業を行うとともに、国立武蔵野学院において関係史料調査を継続する。その際、劣化が甚だしい史料群(とくに東京家庭学校所蔵音声資料)はデジタル変換を行う。 第二に、感化院・少年教護院・教護院における退所者の社会的自立におけるアフターケアの様態について、家庭学校社名淵分校・北海道家庭学校における奥田三郎「卒業生のゆくえ」調査関係記録(Bカード)を用いて児童福祉法施行期のインケア・リービングケアの様態の検討を行い、退校者の社会的自立の諸相を解明する。とくに、事故退校者・予後不良者の状況について注視して検討する。 第三に、昨年度の研究成果に対する多角的検討を行う。北海道家庭学校の予後調査記録分析によると、非行内容の暴力性の有無、退所時就労の有無、「情緒の安定」に関する入所時の寮長の評価、「非認知的能力」や「社会情緒的スキル」に関わる寮長の退所時評価、無断外出回数等が、退所後の少年院入所に相関することが認められた一方、非行及びその予後と関連が深いとされる項目(家庭の貧困、虐待の有無、身体的虐待の有無、施設経験の有無、初発非行年齢の高低、窃盗、性非行、重大事件の既往、精神疾患の有無、知能指数等)において有意差が見られなかった。この結果を、教育史学・教育福祉学、司法福祉学・児童福祉学・障害児教育学・障害児心理学・アーカイブズ学等の視点から、どのように捉えることができるのか。教護院退所者の社会的自立について総合的検討を推進するため、児童福祉アーカイブの整備作業と各施設における史料調査と併行して、研究会を開催する。その際、感化院・少年教護院・教護院出身者の社会的自立に対するサポートの制度とその実態に関して検討を行う。 各研究分担者は、学会・研究会・論文執筆等により、その研究成果を発表する。
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