研究課題/領域番号 |
21H04435
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 宇史 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (10361065)
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研究分担者 |
相馬 清吾 東北大学, 材料科学高等研究所, 准教授 (20431489)
中山 耕輔 東北大学, 理学研究科, 助教 (40583547)
菅原 克明 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70547306)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2022年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
2021年度: 14,950千円 (直接経費: 11,500千円、間接経費: 3,450千円)
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キーワード | エキゾチック準粒子 / 角度分解光電子分光 |
研究開始時の研究の概要 |
グラフェンにおけるディラック粒子の発見を契機として、物質中における様々なエキゾチック準粒子の探索が急ピッチで進んでいる。これらの準粒子を含む物質は、量子力学的効果が比較的大きなエネルギーと空間スケールで発現する量子物質と呼ばれ、新たな量子物理現象やデバイス研究の重要な基盤物質と考えられている。本研究では、低エネルギー光を用いた空間分割角度分解光電子分光と原子層薄膜作製分子線エピタキシーの複合装置を開発して、種々のエキゾチック準粒子を直接観測し、実験的実証に基づいて新たな量子物質を探索・確立し、特異な量子物性の発現機構を解明することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、角度分解光電子分光(ARPES)-分子線エピタキシー(MBE)複合装置の開発と、それを用いたエキゾチック準粒子の探索を行った。2光子ARPESシステムでは、光路系の調整を行うことで、空間分割ARPES測定に加えて高精度でスピン偏極バンド構造の決定ができるようになった。MBE装置の最適化調整を完了し、種々の原子層物質における高精度ARPES測定を行った。 本装置や高輝度放射光を用いて、主に以下に示す研究成果を得た。MBE法とトポタクティック法を用いてグラフェン上にVS2原子層薄膜を作製することに成功し、全ブリルアンゾーン領域におけるエネルギーギャップと特殊な周期を持つ電荷密度波を観測し、これらが「高次フェルミ面ネスティング」と呼ばれる新奇な機構で発現することを見出した。カゴメ超伝導体RV3Sb5(R=K, Rb, Cs)の電子構造をARPESによって決定した結果、表面の終端によって劇的に異なる電子状態が、アルカリ金属の種類によらず普遍的であることを見出した。原子層TiTe2を作製して表面への元素吸着や欠損制御によってキャリア制御に成功した結果、同族のTiSe2とは大きく異なり、電荷密度波がフェルミ面のネスティングに起因することを明らかにした。MoTe2原子層では、バルクでは不安定な1T構造を持つ原子層が通常とは異なり30度回転して成長していることを明らかにした。電子状態の可視化と第一原理計算により、MoTe2中の伝導電子がモアレポテンシャルによって劇的な変調を受けたことによるエネルギー利得が、元来不安定な1T構造を安定化する直接原因となっていることを見出した。また、NdBiにおける反強磁性ドメインに依存して質量が変化するディラック電子バンドを観測することで、反強磁性トポロジカル絶縁体の実証に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ARPES-MBE複合装置の開発においては、高品質の原子層薄膜作製と空間分解・スピン分解ARPES実験を高度に連携した実験ができるようになった。NdBiにおける反強磁性ドメインに依存したディラック電子バンドの観測は、磁化をもたない反強磁性状態においても、スピンの配列方向に依存してディラック電子が有限の質量をもつことを初めて示したものであり、今後、反強磁性トポロジカル絶縁体におけるディラック準粒子を利用した新たな物性創発やデバイス化への道を拓くと期待される。また、カゴメ超伝導体で明らかになった表面終端に依存した電子構造の劇的な違いは、特異な表面物性を理解する上での重要な知見を与えるものである。さらに原子層MoTe2の成果は、「原子層どうしをどのようにひねってモアレ模様を作っても原子層それ自体が持つ結晶構造は変化しない」というこれまでの常識を覆し、「モアレ模様によって新しい結晶を創製する」という従来とは全く異なる研究の方向性を示すものである。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ARPES-MBE複合装置の開発とそれを用いたエキゾチック準粒子の探索を、主に以下の内容について行う。 (1) 空間分割ARPES装置の開発: 昨年度に引き続き空間分割ARPES実験装置の整備を行い、高い空間分解能とスピン検出効率を保ったままで安定した測定ができるようにする。 (2) 原子層薄膜作製MBE装置の開発: 原子層薄膜MBE-ARPES複合装置の整備を完了し、エキゾチック準粒子を内包する原子層薄膜の作製とその場構造評価を行う。 (3) マヨラナ準粒子の母体となる超伝導ヘテロ構造の開拓: マヨラナ準粒子探索のプラットフォームとして最近注目されているカゴメ超伝導体と、カゴメ超伝導体をベースとするヘテロ構造の電子構造を高精度で決定し、新規物性発現の可能性と準粒子との関連を明らかにする。 (4) 磁性トポロジカル物質におけるアキシオンの探索: アキシオンを内包すると期待される反強磁性絶縁体において空間分割ARPES測定を行い 、反強磁性ドメインを分離した表面およびバルクの電子状態の解明を行い、トポロジカル性と複合対称性との関係を明らかにする。 (5) 結晶対称性に基づいた多重ノーダル準粒子の実証: 新奇ノーダル準粒子が内包されると期待されるトポロジカル半金属候補物質において、空間分割ARPESによってバルク、表面、およびエッジ状態を分離観測し、新型準粒子のバンド構造の決定を目指す。さらに、力学的歪みを利用して1軸圧力を試料に印加し、モット絶縁体や、対称性に保護されたディラック電子系において、圧力印加による準粒子の質量変化を検出する。
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