研究課題/領域番号 |
21H04437
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
有田 亮太郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80332592)
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研究分担者 |
鈴木 通人 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10596547)
袖山 慶太郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, グループリーダー (40386610)
是常 隆 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90391953)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,510千円 (直接経費: 32,700千円、間接経費: 9,810千円)
2023年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2022年度: 14,300千円 (直接経費: 11,000千円、間接経費: 3,300千円)
2021年度: 18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
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キーワード | 反強磁性体 / 磁気構造予測 / 第一原理計算 / 物質設計 |
研究開始時の研究の概要 |
クラスター多極子理論をハイスループット計算と組み合わせ、社会に革新をもたらす機能反強磁性体の探索・設計を行う。さらに探し出された機能磁性体についてデバイスへの応用を視野にいれた詳細な計算を行い、エレクトロニクス、スピントロニクスに続くマルチポロニクスの確立を目指す。 探索対象物質の磁気構造がわかっていない場合がほとんどであるため、結晶構造の情報だけを使って磁気構造を予測することから始める。磁気構造が定まったものから輸送係数などの応答関数の計算を自動実行し、マルチポロニクス材料候補となる物質について低電流による高速スピン反転や高速磁壁運動などの可能性を視野にいれた計算を行う。
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研究実績の概要 |
(1) 結晶構造の情報を使った磁気構造予測については、これまで、磁気構造の発生に伴ってユニットセルが大きくならない場合に注目してきた。この方法は今年度、パイロクロア酸化物のうち、磁気構造が実験的によく理解されていなかった物質や遷移金属をインタカレートした遷移金属ダイカルコゲナイドなどに適用され、実験結果の解釈に大きく貢献した。一方、従来の方法を拡張し、磁気構造の発生に伴ってユニットセルが大きくなるケースも取り扱えるようにする試みにも取り組んだ。データベース作成に関しては、数千種類の磁性体のうち、磁気転移温度の高いものを約300種類取り出し、これらに対して磁気構造予測の自動計算を開始した。今年度は磁気構造の発生に伴ってユニットセルがかわらない磁気構造のみに注目することとした。準安定状態の中には寿命が十分長く、興味深い物性を示す磁気構造がありうるので、エネルギーが十分低い磁気構造はすべてリストすることとし、異常横伝導を示すなど、応用の可能性のある物質のカタログの作成に着手している。 (2) 応答関数の計算については、スキルミオンなど、実空間のサイズが大きな磁気構造への適用を念頭におき、実空間で計算する手法の開発と応用に取り組んだ。特にトポロジカルホール効果に着目し、どのようなサイズのスキルミオン格子の時に最もホール効果が大きくなるか、という問題を考察した。 (3) マルチポロニクスデバイスにむけたシミュレーションとしては、反強磁性体におけるスピントランスファートルクの問題や、トンネル磁気抵抗の問題についてのモデル計算を行なっている。これらは次年度以降、第一原理計算に立脚したより現実的な計算に対する指導原理を与えるものになる。 このほか、合金の問題を取り扱う第一原理手法の開発にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)磁気構造予測については、磁気構造の発生に伴ってユニットセルが大きくなる場合の方法論開発に区切りがつき、論文が投稿された。ユニットセルが大きくなる場合は磁気構造予測の探索範囲も広くなり、ユニットセルが不変な場合に比べ、計算規模がより大きくなるので、当初の計画通り、データベース構築の初期段階ではユニットセルが大きくならない場合に注力し、その範囲内で新しい機能性反強磁性体を探索している。特に寿命の長い準安定状態の探索については対称性次第でデバイスへの応用が視野に入るのでエネルギーの低い安定解については漏らさずリストしている。ユニットセルが大きくなる場合に計算コストが増大する問題については、これまでに開発した有効スピン模型導出法を併用することについて検討を始めている。 (2)スキルミオン格子のように実空間で大きなサイズの磁気構造の応答関数の計算については当初計画されていなかった進展があった。この研究は強磁性スキルミオンについてなされたものであるが、反強磁性スキルミオンの場合などへの発展が期待される。 (3)マルチポロニクスデバイスにむけたシミュレーションとしては、当初計画されていた磁壁のシミュレーションの他、トンネル磁気抵抗の問題についてのモデル計算が行われた。反強磁性デバイスにおけるトンネル磁気抵抗は強磁性デバイスの場合に比べてこれまで十分な考察がなされておらず、デバイス開発に向けた指導原理も完全に確立していない。現在行われているモデル計算は当初予定されていなかった成果に繋がると期待される。 以上、計算コストの問題も含め、当初想定された範囲を逸脱することなく順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)現在計算を進めている遷移金属をインタカレートした遷移金属ダイカルコゲナイドでは母物質の種類やインタカレートする元素の種類を変えることで多彩な磁気構造が実現する。そこでこの物質群を例に取り、ユニットセルが大きくなる場合の磁気構造予測のベンチマーク計算を開始する。特にスピン有効模型を第一原理計算の結果をもとに構築し、そこから磁気構造を予測するアプローチについて、第一原理計算から直接磁気構造予測を行うアプローチと詳細な比較検討を行う。データベース作成については、これまで同様データの数を増やしていく。転移温度が高いものについては応用の観点からも関心を集めると思われ、論文として出版することを目指す。データベースの項目として、スピン有効模型のパラメータを含めることについても検討を行う。 (2)応答関数の計算については、昨年度までに開発した手法のより広範な応用に取り組む。ホール係数のほか、ネルンスト係数の計算も行う。 (3)マルチポロニクスデバイスにむけたシミュレーションについては、現在進めているコリニアなフェリ磁性状態の計算が一区切りついた段階で論文を出版する。さらに非自明なノンコリニア磁性状態に対し、多極子をキーワードにした物質設計の可能性を探り、次年度の研究につなげる。 (4) 磁気構造予測、有効模型導出などをテーマとする教科書の執筆をおこなっており、この完成、出版を目指す。
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