研究課題/領域番号 |
21H04481
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
Patrick Strasser 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 講師 (20342834)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,640千円 (直接経費: 32,800千円、間接経費: 9,840千円)
2023年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2022年度: 15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
2021年度: 18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
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キーワード | 負ミュオン / ミュオニックヘリウム原子 / 超微細構造 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ミュオニックヘリウム原子の超微細構造を精密に測定することで、負ミュオンの磁気モーメントと質量を高精度で決定する。ミュオン(第二世代レプトン)におけるCPT不変性を、すでに正確に知られている正ミューオンの質量と負ミューオンの質量を比較することで、これまでの約百倍高い精度で検証する新しい物理学を求めている。併せて先行実験の約千倍高精度の超微細構造を測定することで、量子3体系の最新理論計算との突き合わせをおこなう。J-PARCにおける世界最高強度のパルス負ミュオンビームを利用し、光ポンピングによる高偏極ミュオニックヘリウム原子を生成する方法を組合せることで精度を上げこれを達成する。
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研究実績の概要 |
本研究では、ミュオニックヘリウム原子(ヘリウム原子核、負ミュオンおよび電子の束縛状態)の基底状態における超微細構造(HFS)を精密にマイクロ波分光することで、負ミュオンの磁気モーメントと質量を高精度で決定する。正負ミュオンの質量の比較からCPT不変性を検証し、超微細構造の測定値を量子三体系の精密計算と比較して量子電磁力学を検証する。 J-PARC MLF MUSEにおける世界最高強度のパルス負ミュオンビームを利用し、ラビ振動を時間領域で解析する分光法(ラビ振動分光法)とスピン交換光ポンピングによるミュオニックヘリウム原子の再偏極技術を組み合せることで測定精度を向上させる。ゼロ磁場における超微細構造の直接測定と、高磁場中におけるゼーマン遷移の分光による間接測定を行う。 今年度はJ-PARC MLF MUSEにおいてゼロ磁場環境下での3回目のマイクロ波分光実験を行い、3気圧のヘリウム気体標的を用いてミュオニックヘリウム原子の超微細構造を測定することに成功した。この新データと昨年の2回の測定結果を組み合わせることで、ミュオニックヘリウム原子の基底状態におけるHFSを世界最高の精度で決定することに成功し、Physical Review Letters誌に発表した。 これと並行して、高圧ヘリウムセル、ルビジウムを金属蒸気化するヒーター、光ポンピングのための高出力レーザーで構成される実験装置を開発し、最初のスピン交換光ポンピング実験をMLF MUSEで実施して高偏極ミュオンヘリウム原子の生成を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ミュオニックヘリウム原子の再編極技術を用いて分光測定の統計精度を大幅に改善することを目指している。精密分光の測定対象として知られるミュオニウム(正ミュオンと電子との束縛状態)とミュオニック原子(負ミュオンが原子核に束縛された状態)の大きな違いは、ミュオニック原子がカスケード脱励起する過程で起こる衝突的なシュタルク混合による負ミュオンのスピン減偏極である。これにより、基底状態におけるミュオンの残留偏極がミュオニウム(50%)の場合と比較して低い(6%)。そこで、本研究ではレーザー光で電子スピン偏極したアルカリ金属蒸気とのスピン交換衝突でミュオンのスピンを偏極させる(SEOP)。この技術により分光の統計精度をほぼ10倍向上させることができる。 当該年度は研究計画の二年目にあたり、高圧ヘリウムセル、ルビジウムを金属蒸気化するヒーター、光ポンピングのための高出力レーザーで構成される実験装置を開発した。最初の偏極テスト実験をJ-PARC MLF MUSE DラインのD1エリア行い、μSR分光器を用いたミュオン崩壊電子の放出角度異方性測定によって高偏極ミュオンヘリウム原子の生成を確認した。 また、初年度に続き磁気遮蔽中でゼロ磁場におけるミュオニックヘリウム原子の基底状態HFSをD2エリアで測定した。ミュオニックヘリウム原子イオンを中性化するための電子供与源として先行実験で用いられたキセノンに代えてメタン用い、中性のミュオニックヘリウム原子を効率的に生成した。初年度に取得した高圧標的(4気圧および10.5気圧)データの解析を完了し、同時に低い標的圧(3気圧)におけるデータを追加、標的圧力のゼロ外挿によって真空中のHFSを決定した。ミュオニックヘリウム原子の基底状態HFSについて世界最高の精度を得ることに成功し、Physical Review Letters誌に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度である次年度は、今年度の実験で有望な結果が得られたことから、SEOPによるミュオン偏極実験を継続する。ミュオンビームの標的静止効率を高めるためガラスセルを薄型化し、ルビジウムとカリウムを混合してミュオニックヘリウム原子へのスピン移行速度を向上させる手法(ハイブリッドSEOP法)を導入する。今年度の実験と同様に、μSR分光器でミュオン崩壊電子の放出角度異方性を測定することでミュオンヘリウム原子へのスピン偏極移行を確認する。再偏極後のミュオン偏極率を求め、HFS分光実験への波及効果を評価する。また、分光器の電磁石を利用して標的に磁場を印加した状態での測定も行い、SEOPによる偏極移行への影響を評価する。 さらに、J-PARC MUSE HラインのH1エリアで超伝導電磁石を用いた高磁場中の分光測定に挑戦する。既存のマイクロ波共振器を利用した実験に加えて、専用の新しい共振器の設計および製作の準備を行う。
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