研究課題/領域番号 |
21H04482
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西口 創 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10534810)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
40,820千円 (直接経費: 31,400千円、間接経費: 9,420千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2022年度: 17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2021年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | 素粒子実験 / 放射線検出器 / ミューオン / ビーム計測 / 分光計 / ガス検出器 |
研究開始時の研究の概要 |
大強度加速器を用いた高統計・高精度実験が、エネルギーフロンティア実験と相補的な成果を上げている。ところが、比較的低いエネルギーでの実験では、入射粒子が検出器の構成物質で電磁散乱してしまう影響により、粒子の検出精度が制限されるという問題がある。これを回避する強力な手段が検出器の軽量化である。 そこで準備研究により、真空中で動作可能な極めて薄い膜厚の比例計数管を開発、世界で最も低物質量な素粒子飛跡検出器を実現した。 本研究では、これをソレノイド電磁石と組み合わせることで、世界で最も軽い素粒子スペクトロメータ (分光計)を実現し、素粒子標準理論を超える新しい物理を探索する画期的なアプローチを可能にする。
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研究実績の概要 |
素粒子標準理論を超える新物理に優れた感度があると期待されるミューオン=電子転換過程探索実験の感度を向上させるため、飛跡検出器の高感度化を目指す。特に、同過程の信号事象は105MeVという低エネルギー電子であるため、飛跡検出器の構成素材の低物質量化が実験高感度化の鍵を握る。そこで本研究では、先に準備研究で実現した真空中で動作可能な20ミクロン厚・9.5mm径ストローによる比例計数管を多数実装して大型化した、「真空中で動作可能な飛跡検出機」を複数製作し、ミューオン=電子転換過程探索実験における電子分光計の準備を完了することを目指す。また、準備研究では実現に及ばなかった12ミクロン厚・5mm径という薄膜・小口径ストロー比例計数管を実現し、究極の軽量化飛跡検出器の実現を目指す。これにより、J-PARCで実施予定のミューオン=電子転換過程探索実験の感度を最終的に10,000倍向上させることを目指す。そのため、20ミクロン厚・9.5mm径の導電性薄膜ストローを用いた飛跡検出器を建設する。 飛跡検出器に導電性薄膜ストローを実装する際、ストロー膜は検出器の電極を構成するため、その位置は精度良く実装される必要がある。しかし、20ミクロンという薄膜であるため、その位置精度を保証するためには適正な張力を印加する必要があり、準備研究の結果、ストロー1本あたりおよそ1kGの張力が必要となる。飛跡検出器には1機あたり480本のストローが実装されるため、大きな応力が生じることになる。そこで、ストローを多数実装するための圧力容器が必要になるため、R3年度にはこの圧力容器と、圧力容器内にストローを精度良く保持するための位置保証ジグを製作した。ストローの実装はこれをただちに開始し、検出器の製作は順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度は、研究計画に則り導電性薄膜ストローによる飛跡検出器の製作を進めた。飛跡検出器に導電性薄膜ストローを実装する際、ストロー膜は検出器の電極を構成するため、その位置は0.1mmよりも良い精度で実装される必要がある。しかし、20ミクロンという薄膜であるため、その位置精度を保証するためには適正な張力を印加する必要があり、準備研究の結果、ストロー1本あたりおよそ1kGの張力が必要となる。飛跡検出器には1機あたり480本のストローが実装されるため、大きな応力が生じることになる。そこで、ストローを多数実装するための圧力容器が必要になるため、R3年度にはこの圧力容器を製作した。圧力容器は、円筒形の真空ベッセルとして製作し、内筒・外筒・側面プレート2つの合計4つのパーツにより構成され、その全てを製作した。 飛跡検出器の圧力容器の内部には、全てのストローを位置精度良く保持し、且つそれぞれのストローに印加した張力を精度よく保持するためのストロー固定ジグを設置する。これら圧力容器及びストロー固定ジグの製作が完了した後、速やかにストローの実装を始めた。 一方、導電性薄膜ストローをより薄くより細くすることを目指した新型ストロー開発研究は、CERN(スイス)及びJINR研究所(ロシア)での共同研究として進める計画であったが、新型感染症の流行に起因する渡航制限により、大きな進展は得られず、主に実装方法の最適化についてリモート会議での検討を進めることに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度に製作した検出器圧力容器へのストローの実装を続け、これを完成させる。完成した検出器へは、活性ガス導入機構・高電圧印加機構を製作して検出器へ導入した上で、検出器の試運転を始め、放射線源や宇宙線を用いた基礎特性測定を実施する。以上と並行して、次の飛跡検出器モジュールのための圧力容器及びストロー固定ジグの製作を開始する。このように、検出器へのストローの実装作業と、その次の検出器モジュールの圧力容器製作は並行して進めることで、研究計画を着実に進めることが出来る。本研究で開発する飛跡検出器は真空中で動作させる必要があるため、検出器の信号読み出し回路の真空中での放熱は重要な開発要素であり、活性ガス導入機構は回路冷却を同時に実現するように開発する。 R4年度末には、J-PARCで準備中のミューオン=電子転換過程探索実験(COMET)用に建設中の専用陽子ビームラインの試運転が予定されている。これはビーム強度を最小に絞った上で、ビームラインの動作確認をするものであるが、その際に発生する2次粒子(パイ中間子、ミューオン、電子)をソレノイド磁石で輸送する。この2次粒子ビームを、R4年度末までに完成しているストロー飛跡検出器へ照射することで、ビーム照射試験を実施する。この時点では、検出器システムはまだ未完成であるが、ビーム照射試験の結果により、その時点での課題等を洗い出す。 一方、(感染症の流行状況に依存するが)海外との往来が再開され次第、CERNでの新型ストロー開発の共同研究を再開する。まず、12ミクロンストローの安定した支持機構の開発、特にストローの端部を封止した上で電流導入を担うエンドプラグの試作を進める。エンドプラグが完成した暁には、これらを複数実装する新型ストロー飛跡検出器の試作機の製作を進める。
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