研究課題
基盤研究(A)
太陽系には小型岩石惑星(地球型)、巨大ガス惑星(木星型)、中型氷惑星(海王星型)という異なる型の惑星がある。木星や火星の衛星への探査計画や系外惑星の衛星観測など、太陽系内外の衛星のデータ拡充が今後期待されている。我々は世界で唯一、全ての型の惑星の衛星形成の理論研究を行ってきた経験から衛星系形成の本質は「固/液/気相が混在する周惑星円盤の相変化も伴う温度・力学進化であり、各相の組成の多様性が衛星系の多様性を生む」という着想を得た。本研究ではこの着想のもとに高精度数値計算を実施し、従来の円盤説、巨大衝突説、潮汐捕獲説を統一して全ての型の惑星の衛星形成の総合モデルを構築する。
円盤の化学組成と相状態: 惑星は一般に中心から鉄、岩石、氷、大気の層構造を持ち、天体衝突で飛び出す物質の組成や相状態は、惑星や衝突天体の組成や質量により大きく変わる。周惑星円盤の組成および各成分の蒸発率を統一的に求めるために、様々な化学組成、質量の惑星に対して、蒸発や凝縮といった現実的な相変化を組み込んだ高精度衝突数値計算を、パラメータを変えて系統的に実行した。その結果、氷成分を多く含む惑星同士の衝突で形成される周惑星円盤においては、大型の衛星の集積は極めて制限されることが定量的にわかった。このことは、天文観測サーベイがすでに始まっている、太陽系外の惑星のまわりをめぐる衛星を考える際には重要である。この結果の第一報は高インパクトファクターを持つ学術誌 Nature Communications に発表した。今後もさらに詳しい解析を続けたい。小天体の潮汐捕獲と円盤形成 : 小天体は惑星に近づくと潮汐変形でエネルギーを失って、惑星重力場に捕獲されると同時に破壊されて、破片円盤を作る可能性が高い。潮汐破壊時にも温度は上がり、放出された破片粒子は当初は楕円軌道を持つので、破片同士の衝突速度は大きく、その衝突でも加熱を受ける。このような加熱過程を詳しく調べるために、重力N体数値シミュレーションを行った。その結果、氷を主成分とする天体の破壊によって作られた氷粒子の破片円盤であっても、加熱は十分には強くなく、そこに含まれていた有機物の多くは残ることが示された。今後、この結果を詳しく解析していきたい。
1: 当初の計画以上に進展している
衝突する天体の組成の違いによって、どのような衝突円盤が形成されて、どのように衛星が形成されるのかについての衝突シミュレーションにおいては、当初考えていたよりもクリアな結果が出て、最初の結果のとりまとめの論文がすでに Nature Communications 掲載された。小天体の潮汐捕獲と円盤形成に関わる重力N体シミュレーションにおいても、当初目標とした加熱現象の他にも、土星のようなリングと衛星が同時に形成されていく可能性が見えてきており、そのような形成過程はこれまで全く考えられておらず、重要な結果になる可能性が高いため。
想定していた以上に重要なシミュレーション結果が、プロジェクトの初期段階で得られているので、論文化を優先的に進めるとともに、応用課題のスタートも前倒しで進めていきたい。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
Nature Communications
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http://www.elsi.jp/ja-JP/news_events/highlights/2022/large_moons_may_be_a_clue
http://www.elsi.jp/ja-JP/news_events/highlights/2021/earths_peculiar_chemical_composition