研究課題
基盤研究(A)
現在火星は寒冷・乾燥化した惑星であるが、約40億年前は温暖な時期があり、表面では大規模な水循環が存在していたことが明らかとなっている。NASAの火星探査車はかつての湖沼に降り立ち、初期火星に存在した水環境および生命の痕跡を探査している。本研究では、我々が独自に開発した手法をNASA火星探査車により得られる分析データに適用することで、初期火星に存在した液体の水の水質を定量的に復元する。復元した水質に基づいて初期火星に水(や生命)の存在を可能にした環境条件を解明する。
NASA探査車パーシビアランスは火星のかつて湖だったジェゼロクレーターにて生命の痕跡を探査している。リモートセンシングによる観測から、ジェゼロクレーターには水の作用で生成した粘土鉱物が存在することが確認されており、その鉱物種や化学組成を同定できれば、過去のジェゼロクレーターに存在した水質を知る手掛かりになる。今年度はこれまでに開発したパーシヴィアランスとほぼ同様の仕様を持つ時間ゲートラマン分光計を用いて未知試料のラマンスペクトルから、粘土鉱物種を分類同定する手法の検討を行った。スメクタイト4種、タルク、蛇紋石2種および無水ケイ酸塩2種、さらに炭酸塩鉱物2種、全23試料を対象に、一般的な顕微ラマン(以降ノーマルラマン)分光測定および時間ゲートラマン測定を行い、得られたスペクトルの系統的な比較を行った。その結果、ノーマルラマンでは各試料で得られたラマンピークから、鉱物種レベルまで層状ケイ酸塩を分類できることを示した。一方、時間ゲートラマン測定では、パーシビアランスの仕様条件である露光時間では、ほとんどの層状ケイ酸塩試料で鉱物に由来するラマンピークは得られないことを示した。現在パーシビアランスはジェゼロクレーターにおいて粘土鉱物をラマン分光分析において見出していないが、その理由は現行の仕様では検出できない可能性が示唆された。パーシビアランスによる探査から、ジェゼロクレーターには稀産であるもののマグネシウム炭酸塩鉱物が存在することが確認されている。本年度は水溶液からのマグネシウム炭酸塩鉱物の生成挙動に関する検討も行った。その結果、水溶液からの沈殿で生成するマグネシウム炭酸塩の溶解度は強い温度依存性があり、ゼロ度付近の低温条件では生成が大きく抑制されることを明らかにした。この結果は火星における炭酸塩の稀産性を説明する可能性がある。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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