研究課題/領域番号 |
21H04536
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分18:材料力学、生産工学、設計工学およびその関連分野
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
高橋 可昌 関西大学, システム理工学部, 教授 (20611122)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
40,950千円 (直接経費: 31,500千円、間接経費: 9,450千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 30,810千円 (直接経費: 23,700千円、間接経費: 7,110千円)
2021年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
|
キーワード | 水素脆性 |
研究開始時の研究の概要 |
金属材料の水素脆性は、如何なる機構によって生ずるのか?いくつかの重要なナノ素過程は提唱されていても、それらがどのように作用した結果、マクロに観測される延性低下に繋がるのかについては未解明の点が多い。本研究では、電子顕微鏡像、力学場、水素イメージ等、複数のミクロ情報を取得し、これらを同時再生することによってこの疑問に直接答えよう、という従来には無い実験解析に挑戦する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、金属材料における水素脆性の仕組み(動的プロセス)をナノスケールで実験的に解き明かすことを目的とする。具体的には、走査透過型電子顕微鏡(STEM)内部に形成した水素ガス環境中で負荷試験を行い、破壊過程のSTEM像、荷重変化、及び破壊時における電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を詳細に記録する、というものである。 四ヶ年計画の三年目(2023年度)は、まずEELSによる水素検出について大きな進展があった。パラジウム(Pd)を用いたガス環境中での実験では、金属相から水素化物相への相変態をその場で生じさせ、さらに水素化合物特有のEELS信号を分離することで、試料中の水素化物相のマッピングにも初めて成功した。その結果、結晶粒界は必ずしも水素化の優先サイトにならない点が確認された。一方、水素環境下における破壊特性評価の面では、当初計画の代替実験として始めた破壊実験(マクロ試験片による水素吸蔵材の強度試験)を本格的に進めた。その結果、水素吸蔵は破壊靭性値の「上昇」をもたらし、さらに吸蔵量によっては強度と延性を同時に維持しうる、という従来的な水素脆性観を覆す興味深い事象が確認された。現在、このように特異な強度特性の再現性確認と合理的な説明(微視的モデル)を考察中である。上記二つの実験結果は、どちら一つを取っても極めて重要かつ示唆に富むものであり、水素―結晶欠陥相互作用の織りなす多様な(新たな)側面を捉えていると言えよう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行上、一つの鍵となる要素技術(EELSによる水素検出)については、過去三年間の試行が結実した。TEM内負荷試験の代替実験として着手したバルク結晶材の水素吸蔵・破壊試験については、予想外の結果(水素吸蔵による破壊靭性値の上昇、及び特異な延性発現)を確認した。これらは、本研究の立案時には考えも及ばなかった事象であり、水素―結晶欠陥相互作用の多様性(新規性)を捉えている可能性がある。当初計画は既存の水素脆性説の詳細解明に力点を置いたものであったが、新たに派生した上述の点は、より広い視野から水素脆性機構をレビューすべきであることを示唆しているものと見られる。以上の経過に照らして、本研究の進捗は順調(ないし期待以上)であると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
まずEELSによる水素検出については、確立しつつある技術(Pd水素化特有のスペクトル分離)の感度向上・改良を行いつつ、結晶中における欠陥と水素偏析の関係について調査を継続的に行う。特に、個別転位を対象とした計測を本格的に試みる予定である。バルク試験片を用いた代替負荷実験については、前述の特異現象(水素吸蔵による破壊靭性向上、強度・延性の両立)の再現性を確認するとともに、異なる材料系(Pd-X合金)の評価結果と比較することで、その微視的機構について考察する予定である。
|