研究課題/領域番号 |
21H04548
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
末益 崇 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40282339)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2024年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
2022年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2021年度: 16,510千円 (直接経費: 12,700千円、間接経費: 3,810千円)
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キーワード | 太陽電池 / 電子輸送層 / バリウムシリサイド / スパッタ / 多結晶 / 分光感度 / ドーピング / シリサイド / ヘテロ界面 / 再結合 / 界面 / ヘテロ接合 / 電子神話力 |
研究開始時の研究の概要 |
2050年に向けた日本の脱炭素化エネルギーシステムにおいて、太陽光発電は主力電源として期待されている。日本の太陽光発電導入量は2019年末で63GW、長期的には300GWの導入が必要とされる。しかし、太陽光パネルの設置は、戸建て住宅等の屋根、野立てが中心で、いずれ導入量の制約に直面する。そのため、車載、ビルの壁面等のフレキシブル形状への利用拡大が必須である。現在、太陽電池の9割以上が厚さ200μm弱の結晶Si太陽電池であり、フレキシブル性が無い。研究代表者は、「資源が豊富な元素」で構成され、「薄膜」かつ「高効率」を達成できるSiベースの新材料で、この課題に取り組む。
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研究実績の概要 |
BaSi2は光吸収係数が大きく、禁制帯幅が1.3eVのため、薄膜太陽電池の光吸収層材料として期待される。これまで種々のBaSi2ヘテロ接合太陽電池で動作が実証されてきたが、その多くがBaSi2をホール輸送層として用いており、BaSi2を光吸収層として用いたのはホモ接合太陽電池に限られる。BaSi2の大きな光吸収係数を活用できるよう、BaSi2と電子輸送層およびホール輸送層とのヘテロ接合を形成し、以下の成果を得た。 1. a-SiCは、電子親和力がBaSi2の値(3.2eV)よりも大きく、また、禁制帯幅も大きいため、BaSi2で発生した光生成電子を電極側に引き抜く電子輸送層として期待される。ガラス基板を用いて、BaSi2/a-SiC/TiN/SiO2構造をスパッタ法で形成し、堆積温度750度で分光感度が2A/Wを超え、これまでで最大値を達成した。また、断面TEM観察により、BaSi2/a-SiC/TiN/SiO2構造を確認した。この成果は、ガラス基板上のBaSi2太陽電池のデバイス構造の設計指針を与える結果といえる。 2. 結晶Si太陽電池のホール輸送層として実績のあるMoO3、WO3を、真空蒸着法およびスパッタ法でa-Si/BaSi2構造上に形成し、酸素割合を光電子分光法により調べた。その結果、a-Si層中の水素量が多いほど、ホール輸送層の酸素組成が化学量論比に近づくことが分かった。これは、Baと酸素が結合しやすいものの、a-Si中の水素によりa-Si中の酸素の拡散が抑制されたことを示している。また、同じ条件でホール輸送層を堆積した場合、a-Si/Siとa-Si/BaSi2を比較すると、後者の方がホール輸送層の酸素組成が減少することも明らかになった。これらの知見は、BaSi2膜にホール輸送層を組み合わせる際の堆積条件に有益な情報を与えるものである。 3. AZO/BaSi2ヘテロ界面での光生成キャリアの再結合を防ぐ目的で、BaSi2の電子親和力(3.2eV)に合わせたZnGeO膜を堆積することに、ZnGeO膜を堆積する際の基板温度を制御することで成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、禁制帯幅3.2eVのn型酸化物半導体AlドープZnO(AZO)を用いてAZO/BaSi2ヘテロ接合太陽電池を作製し、ヘテロ界面での光生成キャリアの再結合を抑制するために、BaSi2の電子親和力(3.2eV)に合わせたZnGeO膜を堆積して、AZO/ZnGeO/BaSi2構造を形成することが目的であった。この研究を進めるうちに、光生成電子とホールを分離する働きがa-SiC/TiN構造でも実証され、この構造がBaSi2にとって電子輸送層として働くことを見出した。また、ホール輸送層として期待されるMoO3およびWO3についても、酸素組成を化学量論比に保つための堆積条件を明らかにすることができた。これらの成果は、BaSi2を光吸収層として利用する太陽電池の実現に向けて非常に重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、 BaSi2に対して電子輸送層またはホール輸送層として働くと考えられる材料とのヘテロ接合を作製し、高い分光感度向上を達成する。具体的には、次の3つのことを実施する。
1. a-SiCは14族元素で構成されるワイドギャップ材料であり、BaSi2との親和性が高く、電子輸送層として働くと考えられる。既に、TiN/SiO2基板上にa-SiC(5nm)を堆積して、その上に、BaSi2膜を高温で堆積することで分光感度が大きくなっている。どの温度で堆積するのが最適か、明らかにする。 2. ホール輸送層として期待されるホール輸送材料群(NiO, WO3, MoO3など)を真空蒸着法でa-Si膜上に堆積する際、a-Si中の水素量により、その上に形成したホール輸送層の酸素の組成が変化することが分かっている。a-Si/BaSi2構造にホール輸送層を堆積し、分光感度が最大になる堆積条件を明らかにする。 3. BaSi2はSiに比べると電子親和力が0.8eV程度小さい。このため、一般的な酸化物(NiO, WO3, MoO3など)とは異なる材料がホール輸送層に適している可能性がある。そのような材料候補を有機ELで研究された材料群の中から選び、真空蒸着法で薄膜を堆積し、物性を調べる。
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