研究課題/領域番号 |
21H04603
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
成島 尚之 東北大学, 工学研究科, 教授 (20198394)
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研究分担者 |
佐原 亮二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究センター, グループリーダー (30323075)
小笠原 康悦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (30323603)
上田 恭介 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40507901)
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科, 教授 (50292222)
伊藤 甲雄 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (90609497)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
40,040千円 (直接経費: 30,800千円、間接経費: 9,240千円)
2024年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2021年度: 19,890千円 (直接経費: 15,300千円、間接経費: 4,590千円)
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キーワード | 抗ウイルス / スパイクタンパク質 / 酸化チタン / 光触媒 / チタン / 抗菌 / 第一原理計算 / コロナウイルス |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナウイルス感染のトリガーとなるスパイクタンパク質の不活化に関する評価方法を確立し、不活化する材料表面創製プロセス・材料表面設計の学理を構築することを研究目的としている。ウイルスの遺伝子変異が起こっても変化しないスパイクタンパク質を有する複合タンパク質合成技術と代表者らが独自に構築してきた可視光照射下で強い有機物分解能を発現する光触媒活性TiO2膜作製プロセスをベースに、材料工学的観点からコロナウイルス感染の抑制を図る。特殊な設備を必要としない独自の抗ウイルス性評価方法を世界に先駆けて確立し、抗ウイルス材料表面創製を通して21世紀型ウイルス共生社会の構築に貢献する。
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研究実績の概要 |
令和4年度は以下の4項目に関して研究を遂行した。 (a) 新型コロナウイルススパイクタンパク質の受容体結合部位を有する融合タンパク質(以下単に融合タンパク質)の定量方法の確立:融合タンパク質を定量するためには、TiO2表面から容易に溶液中に脱離するものと表面に強く吸着して溶液中に脱離しないものの両者を分析する必要があった。いずれの融合タンパク質も、定量分析自体はELISA法により行うことが可能であった。 (b) 光照射に伴う融合タンパク質不活化挙動の把握:二段階熱酸化法により作製した炭素含有アナターゼ型TiO2膜表面に播種した融合タンパク質へ紫外光を照射したところ、回収される融合タンパク質の量が減少した。SiO2表面上では紫外光照射に伴う減少は観察されていないことから、TiO2の光触媒活性に伴う融合タンパク質不活化が強く示唆される。 (c) 計算材料学的手法によるTiO2のバンドギャップの精密評価方法の確立:密度汎関数法を用いた平面波-擬ポテンシャル法電子状態計算プログラムVASPおよび全電子混合基底法を基礎とした第一原理計算プログラムTOMBOにより、炭素・窒素の熱力学的に安定な存在状態におけるルチル型TiO2のバンドギャップを評価した。その結果、炭素および窒素の添加によりルチル型TiO2のバンドギャップエネルギーは2.0 eV付近まで低下することが分かった。 (d) スパッタリング法による窒素添加TiO2膜の作製:令和3年度に導入した反応性スパッタリング装置を用いて、窒素導入TiO2膜の作製に成功した。導入する窒素分圧を変化させることで窒素の化学状態が変化することを見出した。XPS分析より、プラズマガス中の窒素分圧上昇に伴い窒素の存在状態が酸素置換サイトから侵入型サイトへ変化することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示した4項目について進捗状況を自己点検する。 (a) 融合タンパク質の定量方法の確立: TiO2表面から脱離した融合タンパク質と吸着したままの融合タンパク質の両者を定量分析する手法を確立した。しかしながら、分析手法の高効率化・更なる高度化が求められている。本項目に関しては「やや遅れている」と評価せざるを得ない。 (b) 光照射に伴う融合タンパク質不活化挙動の把握:紫外光照射に伴うTiO2表面上での融合タンパク質の不活化を示すことができた。研究の方向性の妥当性を示すものである。本項目に関しては「概ね順調に進展している」と評価する。 (c) 計算材料学的手法によるTiO2のバンドギャップの精密評価方法の確立:アナターゼ型TiO2と同様の手法により、ルチル型TiO2のバンドギャップに及ぼす炭素および窒素添加の影響を評価することができた。酸素分圧が炭素・窒素の存在状態に影響を及ぼすので、実験的にTiO2のバンドギャップを制御できる可能性が示唆された。新しい研究の方向性を示す結果であり、本項目に関しては「当初の計画以上に進展している」と評価できる。 (d) スパッタリング法による窒素添加TiO2膜の作製:スパッタリング条件によりTiO2中の窒素の存在状態を制御できた。(c)の結果と合わせて優れた抗ウイルス性を有するTiO2膜の設計指針となる結果である。本項目に関しては「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、吸着まで考慮したTiO2上での融合タンパク質定量分析精度を向上させることが最優先課題となる。再現性や簡便性を追求し、合理的な融合タンパク質の高精度定量手法を確立したいと考えている。この手法が確立されれば、可視光照射に伴うTiO2表面での融合タンパク質不活化の検討が可能になる。令和4年度に確立した融合タンパク質定量方法でも可視光応答は確認できるが、本研究の大きな目的の一つである融合タンパク質の定量技術の一般化を考えれば、定量方法の高精度化は重要である。 計算材料学的手法により、TiO2のバンドギャップと酸素分圧や炭素・窒素の存在状態との関係を把握することができた。炭素・窒素の存在状態を実験的に制御できるのかを検討するレベルに差し掛かっている。TiO2作製手法としては膜質制御性に優れる反応性スパッタリング法に期待している。現時点では窒素の添加に留まっているので、炭素の添加、炭素と窒素の共添加まで研究を進める。TiO2膜作製、分析技術、第一原理計算を適切に融合させつつ、研究を進展させたい。
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