研究課題/領域番号 |
21H04644
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分28:ナノマイクロ科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 上級研究員 (80586917)
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研究分担者 |
安藤 康伸 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (00715039)
久間 晋 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50600045)
今井 みやび 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (50845815)
岩佐 豪 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80596685)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
43,680千円 (直接経費: 33,600千円、間接経費: 10,080千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2021年度: 30,290千円 (直接経費: 23,300千円、間接経費: 6,990千円)
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キーワード | 光学選択則 / 近接場光学 / 走査プローブ顕微鏡 / エネルギー変換 |
研究開始時の研究の概要 |
量子状態間遷移における選択則は、光エネルギー変換や光学計測技術の基礎となる極めて重要な法則である。電磁場が分子スケール(~1 nm)に局在すると、物質との相互作用が伝搬光(波長数100 nm)とは大きく異なると考えられるが、ナノスケールの光と物質の相互作用における選択則の詳細は未だに解明されていない重要な課題である。本研究では、独自開発してきた先端的な実験・理論・データ解析技術を集め、ナノ光学における選択則を高精度に記述する。さらには、従来禁制であった光励起過程を開放し、低エネルギー駆動可能な新しい光エネルギー変換過程の開拓を行う。
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研究実績の概要 |
研究代表と分担者の今井は光STMを用いて、近接場における光機能性分子の吸収・発光特性を単一分子レベルで観測することにより、近接場におけるスピン選択測および振動励起の選択則の解明に取り組んでいる。振動選択則に関しては、重金属を含まない分子で高精度の近接場光励起の単一分子フォトルミネッセンススペクトルを取得した。また、分子が吸着する絶縁体薄膜との相互作用によって、電子遷移の共鳴エネルギーや振動ピークが変化することも発見した。重金属を含む分子ではスピン三重項励起状態への交換交差を単一分子レベルで直接計測することに成功した。また、重金属を含む燐光材料において近接場光励起のフォトルミネッセンスや光電流計測を行うことで光励起特性について明らかにした。分担者の久間は、近接場スペクトルにおける選択則解明の比較対象となる伝搬光吸収・発光過程における高精度スペクトル測定を実施した。STM測定環境下と同様の極低温・低摂動条件を満たす超流動ヘリウム液滴内包状態および気相孤立状態下のスペクトル測定を進めた。分担者の安藤は、近接場分光データに対するスペクトル自動解析技術の高度化に向けた基盤研究・開発に取り組んでいる。本年度は、スパースモデリング的手法を応用することで、ピーク本数を自動最適化や、物理モデル推定に関する技術検討を行った。近接場光学の理論に関しては、任意の空間構造を持った電場に対する一般化遷移モーメントおよび一般化振動子強度を高速に計算する手法を開発し銅ナフタロシアニン(本研究でターゲットにしているフタロシアニン系の一種)の光STM励起の選択則を解明すると共に、振動子強度最適化の方法について提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表と分担者の今井は光STMを用いて、近接場における光機能性分子の吸収・発光特性を単一分子レベルで観測することにより、近接場におけるスピン選択測および振動励起の選択則の解明に取り組んでいる。分担者の今井はこれまでに、光STMを用いて燐光材料の励起状態を単一分子レベルで明らかにしてきた。特に、光STMの光源として波長可変レーザーを用いて単一分子を状態選択的に光励起する手法開発に取り組み、スピン禁制である光学遷移プロセスが生じていることを突き止めた。分担者の久間は、フタロシアニン分子を対象とした極低温スペクトルの測定を実現し、特に気相バッファガス中の回転運動を伴う高精度な電子励起スペクトルを得た。回転構造解析により電子遷移周波数を0.001cm-1以下の精度で決定した。引き続き測定したメタルフタロシアニンの解析を進めている。分担者の安藤は、これまでに開発したEMアルゴリズムに基づくスペクトル自動解析技術にスパースモデリング的手法を応用することで、ピーク本数を自動最適化できることを実証した。また、メタルフタロシアニンの回転モードに関する物理モデル推定に関する議論を開始し、自動化のための基礎技術開発を進めた。前年度までに光STM励起の選択則に必須の一般化遷移モーメント/振動子強度の計算手法を終えており、現在は近接場光をより実験系に近づけるために計算電磁気学の一種である有限差分時間領域法(FDTD法)を用いたSTM探針周りの電場計算に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
実験面では、引き続き分光データを取得し議論を進める。光STM実験では、探針直下に局在する~1 nmの近接場光を用いて、単一分子の精密分光を行う。分担者の今井は光STMを用いて、近接場における燐光材料の吸収・発光特性を単一分子レベルで観測することにより、近接場におけるスピン選択測を解明する。昨年はプラチナフタロシアニン単一分子にレーザー照射することで一重項第一励起状態を選択的に形成し、発光と光電流生成の観測に成功した。今年度は、レーザー波長を精密に制御し、スピン三重項励起状態の直接的な近接場光励起の観測に挑戦する。分担者の久間は、伝搬光極限での選択則の検証のために、極低温のヘリウム液滴に内包されたフタロシアニン分子の精密蛍光測定を行う。昨年度は、ヘリウム液滴同様の極低温を気相においても実現するバッファガス冷却法によるフタロシアニンの吸収スペクトルの測定にも成功した。本年度は、伝搬光極限を精査するのに適したこれらの系における蛍光測定の精密化により、近接場光の比較系としての信頼できるスペクトルデータを提供する。分担者の安藤は、実験で得られたスペクトル計測結果と分子の回転構造の関係を、既存の解析ソフトウェアとマルコフ連鎖モンテカルロ法を組み合わせることで、統計的に妥当なパラメータ推定手法を開発に着手し、経験則に頼らない解析方法の検討を行う。分担者の岩佐は、双極子近似を超えた領域における、近接場光と分子の相互作用に由来する選択則の解明を行う。前年度に、近接場と分子の相互作用項を用いた一般化遷移モーメントを計算する手法を開発してモデル近接場とモデル分子への適用からその有用性を示した。本年度はこれを用いて実験に用いた近接場および分子系に適用する。実際の金属探針周りの近接場を計算電磁気学に基づいて求め、実験で用いられている分子の近接場光励起の選択則を解明する。
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