研究課題/領域番号 |
21H04650
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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研究分担者 |
中西 寛 明石工業高等専門学校, 専攻科, 教授 (40237326)
関場 大一郎 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20396807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,770千円 (直接経費: 32,900千円、間接経費: 9,870千円)
2023年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2022年度: 13,000千円 (直接経費: 10,000千円、間接経費: 3,000千円)
2021年度: 20,150千円 (直接経費: 15,500千円、間接経費: 4,650千円)
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キーワード | 水素 / 拡散 / 金属 / 金属水素化物 / 金属酸化物 / トンネル効果 / ゼロ点振動 |
研究開始時の研究の概要 |
表面を介した水素の拡散は,水素吸蔵材料における水素の吸放出や,燃料電池電解質におけるプロトン移動など水素をエネルギーとして利用するプロセスの素過程として重要である.本研究では,パルス水素ビームを用いて非平衡な水素化状態を形成し,そこからの緩和過程を高い時間分解能で測定することで,広い領域の固体中水素のジャンプ頻度測定を実現する.理論計算もあわせて,表面近傍での拡散ポテンシャルを考察し,水素吸収に対する表面効果を明らかにするとともに,水素拡散に対する量子効果の詳細を明らかにする.
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研究実績の概要 |
表面を介した水素の拡散は,水素吸蔵材料における水素の吸放出や,燃料電池電解質におけるプロトン移動など水素をエネルギーとして利用するプロセスの素過程として重要である.また低温では,水素の低質量に起因した量子効果が顕著になるため基礎的な観点からも興味が持たれる.本研究では,低エネルギーイオンビームと抵抗測定を組み合わせたQuench-Recovery(QR)法と共鳴核反応法(NRA)を活用することで,水素拡散の表面効果と量子効果の詳細を解明することを目的としている. 本年度は,前年度までに整備したイオンビームーQR法に抵抗測定を組み合わせ,PdおよびPt中での水素拡散の研究を行った.Pdでは,低速イオンビーム照射により水素が準安定な四面体サイトを占有することを確認し,準安定水素が最安定な8面体サイトに拡散することを見出した.さらに拡散の詳細な温度依存性と同位体効果を調べた.また抵抗の温度依存性を測定したところ,水素化に伴い抵抗極小があらわれることを見出した.Ptは発熱的には水素化物を形成しないことが知られている.水素イオン照射によりPt中に水素を導入すると,NRAにより特異な深さ分布で水素が分布することが判明し,また熱脱離分光によりこの水素化物の熱的安定性を評価した.Pdと同様抵抗測定を行ったところ,抵抗緩和が観測されたことから準安定な状態が実現していると考えられる.抵抗緩和の詳細な温度依存性と同位体依存性を調べた.これらの実験結果をもとに,拡散における電子系の効果,フォノン系の効果について検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低速水素イオンを~10KでPd薄膜に照射したところ,水素導入に伴い抵抗が上昇することが観測された.この試料を一定温度に保持すると,抵抗が徐々に減少することが判明した.抵抗減少は,水素が準安定な四面体サイトから最安定な8面体サイトへ移動することに起因することを明らかにした.抵抗の緩和率から水素のホッピングレートを導出し,その温度依存性と同位体依存性を調べたところ,60K 以上ではH,Dによらず熱活性化型の温度依存性を示すのに対して,60K以下ではHのみ温度にほとんどよらない依存性を示すことが判明した.このことから,低温でHはトンネル効果により拡散していると考えられる.詳細な温度依存性を解析し,低温ではホッピングレートが温度の冪に依存することを見出し,電子系との相互作用の効果であると議論した. 続いて同様の実験をPt薄膜で行った.Ptでも低速水素イオン照射に伴いPt中に水素が導入されることを見出した.NRAにより深さ分布を測定したところ,水素濃度はPtHxと表したときx=0.5で飽和し,さらに表面近傍とやや奥側の2か所に水素濃度の高い領域が存在することが判明した.サブサーフェス領域が特異な安定性を有することを示唆している.水素イオン照射に伴う水素の位置の解析を行ったところ,Pdの場合のような明確な占有位置を示さないことが判明した.Ptの格子を乱して水素が導入されていると考えられる.抵抗緩和速度の温度依存性,同位体依存性を測定したところ,H,Dともに高温では熱活性化型,低温では温度に依存しないトンネル型を示した.トンネル領域が同位体に依存しないことから,Pt格子をまとった集団運動をしていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
Pt薄膜について,緩和速度の実験を終了したため,第一原理計算による理論解析を行う.Pdと同様,格子間安定位置と拡散径路を検討し,拡散の活性化障壁を評価する.さらに水素の量子計算により複数サイトに広がった状態の探索を行う.同位体効果の実験から,Ptの変位を伴う拡散が予想される.Pt原子の変位を考慮した計算法を検討する. Pd,Ptとは異なり,体心立方構造を持つVとNbでは,四面体サイトが最安定であると言われている.VとNbについて水素拡散の実験を行う.Vについては,電子ビーム蒸着により膜厚の異なる薄膜を作製ずみである.水素ガスおよび開発した低速水素イオンビームを用いて水素を試料中に導入し,その深さ分布・濃度を核反応法で評価する.同時に抵抗測定を行い,抵抗緩和の有無を確認する.Pd,Ptと同様に,抵抗緩和の緩和時間から水素ホッピングレート解析を行い,ホッピングレートの温度依存性,同位体効果,さらに水素濃度依存性の測定を行う. 面心立方格子のPd,Ptと体心立方格子のV,Nbについて,拡散に対する構造の影響,プロトンー電子結合の影響,フォノンの影響,非対称ポテンシャルの影響などを総合的に考察し,統一的なモデルの構築を目指す.
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