研究課題/領域番号 |
21H04657
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分30:応用物理工学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
笹木 敬司 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (00183822)
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研究分担者 |
藤原 英樹 北海学園大学, 工学部, 教授 (10374670)
Pin Christophe 北海道大学, 電子科学研究所, 特任助教 (50793767)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2023年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2022年度: 15,470千円 (直接経費: 11,900千円、間接経費: 3,570千円)
2021年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
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キーワード | 局在プラズモン / 金属ナノ構造体 / 光マニピュレーション / 光渦 / 光角運動量 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ナノ空間に光が局在したプラズモン場の振幅・位相・偏光の分布や共鳴スペクトルを自在に成形し、光と物質の相互作用を極限制御することを目的として、局在プラズモンの増強効果・共鳴特性・偏光特性・角運動量特性等と金属ナノ構造体の形状(サイズ・空間自由度・回転対称性・キラリティー等)の関係について理論・シミュレーション解析を行い、設定した特性を最大限に発揮する金属ナノ構造体を設計する。作製したナノ構造体により、1)単一分子・ナノ粒子光トラッピングの極限性能の実現、2)広帯域・高吸収率を併せ持つ光電変換システムの構築、3)ナノ局在場の角運動量を制御して選択則を破る光遷移ダイナミクスの実現を目指す。
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研究実績の概要 |
1)プラズモニック構造体の最適設計 光から局在プラズモンへの運動量・スピン角運動量・軌道角運動量の転写・変換・保存等の特性を理論的に解析し、プラズモン場の振幅・位相・偏光の分布や共鳴スペクトルを自在に成形して光と物質の相互作用の極限制御を実現する金属ナノ構造体を設計した。また、我々がこれまで培ってきた解析法の知識・経験・ノウハウに基づいて電磁界シミュレーションアルゴリズムを高度化し、局在プラズモンの増強効果・共鳴特性・偏光特性・角運動量特性等と金属ナノ構造体の形状(サイズ・空間自由度・回転対称性・キラリティー等)の関係について詳細に解析して金属ナノ構造体の最適形状をデザインした。 2)太陽エネルギー変換用の広帯域・高吸収率ナノ構造体の設計 我々は、プラズモニック構造体とファブリペロー干渉計の強結合系を構築することにより、太陽光に含まれる可視から近赤外領域の光を高効率(高量子収率)で光電変換できることを実験的に明らかにしてきた。この光電変換プロセスではプラズモン共鳴による光吸収増強効果を利用しているが、共鳴を強めてプラズモン場の増強度を上げるとスペクトル線幅は細くなり、逆に共鳴スペクトルをブロードにすると緩和時間が短くなって共鳴ピークは低くなる。高効率の太陽エネルギー変換を目指すためには、局在プラズモン場の増強度の向上と共鳴スペクトルの広帯域化を同時に実現する金属ナノ構造体の設計が要求される。これまでの研究では、プラズモニック構造体として金ナノディスクの周期配列構造を用い、ディスク径や周期の条件出しを行なってきたが、本研究では、最高のエネルギー変換効率を実現する最適金属ナノ構造を設計・作製した。最適条件としては、光照射領域全体の平均強度を可視から近赤外領域に渡って積分した値を設定し、広い波長領域の計算が必要となるので時間領域差分法を用い電磁界シミュレーションの高速化を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計算機システムの高度化と太陽エネルギー変換用プラズモニック構造体の作製を精力的に実施し、「研究実績の概要」に記載した2つの研究項目を実施することができた。プラズモニック構造体の最適設計については、これまで、プラズモニック構造体の金属を構造設計する場合に解が発散するという問題があったが、最適化に必要な補間関数として非線形補間手法を利用することによって解の収束性が格段に向上し、金属ナノ構造体の最適設計に成功した。これは、ナノギャップ局在場の電場増強度を最大化する金属ナノ構造の形状デザインが可能になり、太陽エネルギー変換用の広帯域・高吸収率ナノ構造体の設計として大きな進展である。また、太陽エネルギー変換用プラズモニック構造体において量子コヒーレンスの効果について理論的・実験的解析が進展し、最適構造の設計指針において更なる検討が必要であることが新たに分かった。このことは、光エネルギー変換効率を大幅に増強するために重要な情報である。
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今後の研究の推進方策 |
スピン・軌道角運動量を自在制御可能な最適ナノ構造体の設計 回転対称性を持つ金属多量体ナノギャップ構造に光渦ビームを照射し、多重極プラズモンモードを励振して近接場干渉を制御することにより、光渦の運動量(波数)・スピン角運動量(偏光)・軌道角運動量(螺旋波面)を局在プラズモンに転写し、光形状情報を保持しながら回折限界を超えてナノへのダウンサイジングが実現できることを我々は実証している。具体的には、金属三量体構造に円偏光(0次の光渦)を照射するとシングルナノサイズのキャップ空間に円偏光局在場が形成され、また、五量体構造に1次の軌道角運動量を持つ光渦が入射するとナノ局在場に軌道角運動量が転写されることが示されている。ただし、光渦を三量体構造に照射しても軌道角運動量は局在化できず、スピン・軌道角運動量の空間自由度(回転対称性)により多量体の個数に条件が付くことが理論的に明らかになっている。しかしながら、空間自由度だけの考察であり、最適な多量体の形状・配置や周囲の構造については全く解っていない。本研究では、ギャップ領域の電場空間分布をラゲールガウス関数で直交展開し、対象とするスピン・軌道角運動量モードの強度空間積分を目的関数として最適ナノ構造デザインを実行する。これによって高次軌道角運動量の局在プラズモン場を形成できる金属ナノ構造体の形状設計も可能となる。また、設計した最適ナノ構造体を用いてスピン・軌道角運動量を制御したナノ光渦局在場を形成し、分子の電子波動関数に角運動量を転写して禁制遷移の高効率・選択的励起など選択則を完全に打ち破るナノ物質光遷移ダイナミクスを実現する。具体的には、我々が独自に開発した低温系(10 K)高解像度顕微分光システムを用いて、単層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の禁制・許容遷移の自在制御に挑戦する。
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