研究課題/領域番号 |
21H04661
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分30:応用物理工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
船戸 充 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70240827)
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研究分担者 |
石井 良太 京都大学, 工学研究科, 助教 (60737047)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,990千円 (直接経費: 32,300千円、間接経費: 9,690千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2022年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2021年度: 13,650千円 (直接経費: 10,500千円、間接経費: 3,150千円)
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キーワード | 結晶成長 / InリッチInGaN / ScAlMgO4 / 可視長波長LED / 高効率化 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の窒化物半導体の研究進展は著しいが,活性層のIn組成を増加させた緑色よりも長波長域でのLEDの効率低下現象は未解決である.本研究は,有機金属気相成長法によりScAlMgO4基板上に高品質InリッチInGaN系量子井戸構造を作製し,高効率な緑色・黄色・赤色LEDを実現することを目的としている.結晶学的な観点からは,格子定数が大きく異なるInNとGaNの混晶であるInGaNでは,非混和性すなわちスピノーダル相分離が生じやすいが,格子整合した下地基板上において,非平衡な低温でのコヒーレント成長が可能な条件ではその限りではないと考えており,「新しい結晶学」への展開を目指している.
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研究実績の概要 |
窒化物半導体をベースとした可視全域での高効率LEDの開発は,次世代マイクロLEDディスプレイのために不可欠な課題と位置付けられている.本研究は,(0001)面でIn(0.17)Ga(0.83)Nと格子整合するScAlMgO4に着目し,この基板上に緑色から赤色域にて高効率発光するInGaN系LEDを開発することを目的としている. 従来,厚み数100 nmの In(0,17)Ga(0.83)N単層膜をScAlMgO4基板上に形成し,量子井戸発光層の下地層としている.この下地層の上にIn(x)Ga(1-x)N/In(0.17)Ga(0.83)N量子井戸構造 (x>0.17),p-GaNを順次作製しLED構造としたところ,波長700 nmで発光を電流注入で得ることに成功した.ただし,発光出力は,定格20 mA駆動時に数十nWと低く,これを改善するために,クリアすべき課題が多数存在する状況だと考えている.その一つとして,本年度は,InGaNとScAlMgO4基板の界面に注目し,その制御によってInGaN層の結晶性や平坦性が改善できることを見出すとともにそのメカニズムを検討した.具体的には,窒化物半導体のAl原料のみを基板上に供給すると比較的結晶性の高いAlN界面層が形成され,それにより,その上の(In)GaN成長層の特性が改善することがわかった. 改善したInGaN層上にInGaN/InGaN量子井戸を作製し,下地の改善に伴い発光強度が増大することを確認した.また,基板そのものの特性も検討を進めた.GaNをScAlMgO4基板に結晶成長し,その結晶性(貫通転位密度)や反りを定量した.反りGaN膜厚依存性の実験を再現するパラメータセットを提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ScAlMgO4基板上への窒化物半導体の有機金属気相成長に関して,基板と成長層界面の制御による(In)GaN層の特性改善を試みた.具体的には,ScAlMgO4基板にAl原料を供給し,雰囲気のN2ガスとの反応によってAlNを形成しておくと,(In)GaN成長層の結晶性が改善することを見出した.従来の低温バッファ層は,多数の欠陥を含むアモルファス的な構造になるが,本研究のAlNは,結晶性がそもそも高いことが原因であると考えた.また,AlNはN極性であり,直上のInGaNはIII族極性であったことから,界面で結晶の不連続が生じ,AlN内の結晶の不完全性が上層に伝搬しにくいメカニズムがあるのではないかと考えられる.また,InGaNを成長したとき,AlN層の挿入により,X線回折の半値幅が2800秒程度から1500秒まで改善した.その結果として,InGaN層上に作製したInGaN系量子井戸では,室温発光強度が1.5倍程度増強した. また,基板メーカと共同で2インチ基板上へのGaN成長を実施し,その反りを評価した.サファイア上と比較して,ScAlMgO4上では反りが約半分になることを実験的に確認した.デバイス用の基板として有用な特性である.さらに,計算のフィットにより,実験結果を再現するScAlMgO4の材料パラメータセットを提案することができた. 本研究で得られた成果により,OPIC-LDC 2022 (2022年4月),SPIE Photonics West (2023年1月),応物学会結晶工学分科会(2022年6月)で招待講演を行ったほか,IMID 2023や日本学術振興会R032委員会での招待講演が決まっており,対外的にも広く認知されている. 以上のように,目標とする可視長波長発光デバイスの高効率発光に向けて,おおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
界面制御の例として,昨年度はAl原料による基板の成長前処理を実施し,界面でのAlNの形成と(In)GaN成長層の品質の改善を見出した.ただし,まだ品質や表面平坦性に改善の余地があるため,引き続き,そのための手法を検討する.具体的には,AlN層の堆積条件の検討による界面制御を通じた高品質化の可能性とそのメカニズムの検討,超格子構造の利用,低温緩衝層の利用などを試みる.例えば,AlN層については,理想的にはAlNを1分子層レベルの厚みにして,格子整合という特長を活かしたまま高品質化を達成するべきであり,その目標に向けた界面形成条件の確立が重要であると考えている. InGaN下地層の結晶品質の改善を図りつつ,その上にIn(x)Ga(1-x)N/In(0.17)Ga(0.83)N量子井戸構造(x>0.17)を作製し,その特性と下地層の特性との関連を明らかにしていく必要がある.量子井戸の特性が改善されれば,内部電界,臨界膜厚などの基礎的な物性の解明を通じて,より高効率で発光する構造の設計・試作につながると期待される.また,最終的なデバイスの構成の加に向けては,pnダイオードを基本としていることから不純物制御が不可欠である.残留不純物の特定やその低減手法の確立,さらにはドーピングによる不純物制御を検討する.これらの検討により,InGaNベースの発光素子構造の特性向上に寄与できると考えている.
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