研究課題/領域番号 |
21H04672
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 正彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80241579)
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研究分担者 |
鬼塚 侑樹 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80848036)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 16,120千円 (直接経費: 12,400千円、間接経費: 3,720千円)
2021年度: 18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
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キーワード | 電子・分子衝突 / 衝突立体ダイナミクス / 同時計測電子分光 / 配向分子 |
研究開始時の研究の概要 |
電子衝突は最も基本的な反応素過程の一つであり、今や質量分析法など、科学・技術で欠かせないイオン化ツールとして広く利用されている。しかし、如何にしてイオンが生成したかという物理化学的理解は未だ揺籃期にある。例えば、電子が分子と衝突する時、分子の空間的配向や衝突径数に依存して、電子衝突の確率や衝突の物理化学的内容が異なるのではないだろうか。本研究の目的は、そうした基本的な問いに分子一般を対象として応える「電子・分子衝突の立体ダイナミクス」という研究分野の本格的な創成と確立である。これにより、電子・分子衝突の量子力学的描像と俯瞰的描像の双方を一挙に捉え、科学・技術の広範な分野に基盤的概念を提供する。
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研究実績の概要 |
電子が分子と衝突する時、入射電子ビーム軸と分子軸との角度や衝突径数の大きさに依存して、衝突の確率や衝突の物理化学的内容が異なるのではないだろうか。本研究の目的は、そうした基本的な問いに応える「電子・分子衝突の立体ダイナミクス」という研究分野の深化と展開である。 上記の目的を達成するため、本研究計画初年度の2021年度においては、非共鳴レーザーパルス電場により生成する回転波束の時間発展シミュレーションの詳細な検討により、申請段階当初のものと比較して格段に優れた実験原理を着想した。そして、当該原理を踏まえ、研究代表者が現有していたレーザー設備(120 fs, 5 kHz, 4 Wのチタンサファイアレーザー)の5kHzから1 kHzへの周波数変更、および実験装置真空槽の設計と試作を行った。研究計画二年目の2022年度においては、膨大な量の荷電粒子のシミュレーションを行い、その結果をもとに電子エネルギー分光器とイオン分光器を設計し、試作を行った。そして、電子エネルギー分光器とイオン分光器各々に新規購入した位置敏感型二次元検出器を組合せることにより、マルチチャンネル型電子エネルギー分析器およびマルチチャンネル型イオンエネルギー分析器として整備した。また、地磁気遮蔽を行うパーマロイを設計製作し、前年度に整備した実験装置真空槽に導入を行った。本研究計画三年目の2023年度においては、真空槽内の磁気遮蔽度をさらに高めるためのヘルムホルツコイルを設置し、理想的な実験環境を達成した。さらに、2022年3月16日に発生したM7.4の福島県沖の地震により稼働不可となった現有レーザーの代替品が納入された2023年9月以降、予備実験を開始し、各種実験パラメータの調整を図っている。 以上のように、本研究計画が目的とする「電子・分子衝突の立体ダイナミクス」研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は予期していた以上に極めて順調である。その最大の理由は、上記の回転波束シミュレーションを通じて、本研究計画申請時に想定していた実験と比較して、遥かに容易な実験技術で遥かに高品質の実験データを得るための新しい実験原理の着想に至ったことである。非弾性散乱電子および解離イオンの電子衝突で生成する荷電粒子のトラジェクトリ―計算の結果は、この着想を具現化すれば、実験データ統計の3桁違いの改善に止まらず、電子遷移毎に分けて実験データを得るための電子エネルギー分解能など他の多くの実験パラメータの質的向上が果たせることを示唆する。そこで、その新しい実験原理の着想に基づいて、パルス電子銃、超音速パルス分子線源、半球型エネルギー分析器、飛行時間型イオン検出器等の装置要素の設計と試作を終え、実験装置をシステムとして完成させた。 一方、レーザー電場による分子配列度の大幅な向上を図るために行った、研究代表者が現有のレーザー設備(120 fs, 5 kHz, 4 Wのチタンサファイアレーザー)の高強度化も予期した通りに実現できた。すなわち、5 kHzから1 kHzへとレーザーの周波数変更を行った結果、利用できるレーザー光強度が5倍となった。これに関しては、2022年3月16日に発生したM7.4の福島県沖の地震により、上記レーザーが稼働不可となったが、国の地震復旧支援により、2023年9月に代替品が納入された。現在は、予備実験を開始し、各種実験パラメータの調整を図っている、 以上のように、本研究計画の目的をより高度に達成するための実験に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、明確である。すなわち、装置設備群を組み合せてシステムとして完成させた実験装置を用いて、分子の配列度、パルス電子線のビーム強度、散乱領域の大きさ、電子およびイオン分析器の分解能など実験条件を最適化しつつ、窒素分子やヨウ化メチル分子等を対象として、「電子・分子衝突の立体ダイナミクス」実験測定を遂行することである。その後は、非共鳴レーザーパルス電場により高度に分子配列させ易い分子を対象とした実験を次々に行う。 一方で、実験結果と比較し得る理論計算を行う。この目的に、研究代表者が長年に亘って交流してきた海外の電子散乱理論家との共同研究の実現を試みる。実験と理論の比較から、入射電子ビーム軸と分子軸との角度や衝突径数の大きさに依存して、衝突の確率や衝突の物理化学的内容が異なる様を視覚化できると共に、その物理的理解も得られると期待される。 以上の方策に従って、本研究計画が目的とする「電子・分子衝突の立体ダイナミクス」研究の深化と展開を図る。
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