研究課題/領域番号 |
21H04676
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
斉藤 真司 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2024年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
2022年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2021年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
|
キーワード | 高等植物 / 光捕集アンテナタンパク質 / 励起エネルギー移動 / クロロフィル分子 / 電子状態計算 / 分子動力学シミュレーション / エキシトン / ダイナミクス / 電子状態 |
研究開始時の研究の概要 |
光合成系は光エネルギーを化学エネルギーに変換する。光合成の最初の過程は反応中心への光エネルギーの捕集であり、全ての天然光合成系は非常に高い励起エネルギー移動効率を示す。本研究では、植物の光捕集アンテナタンパク質LHCIIに対する適切な理論計算に基づき、不均一環境にある色素分子の励起状態によるエネルギー地形上のエネルギー移動ダイナミクスを解析し、効率的な励起エネルギー移動の分子機構を解明する。さらに、光合成細菌との比較により、進化にともなう励起エネルギー移動の分子機構の普遍性と特殊性に関する知見の獲得も目指す。
|
研究実績の概要 |
LHCIIは三量体タンパク質であり、その単量体はそれぞれ8個のクロロフィル(Chl)aと6個のChl bを含む。この複合体における励起エネルギー移動(EET)は、これらのChl分子を介して行われる。したがって、EETのダイナミクスを分子レベルで調べるには、LHCIIの中で異なる環境に存在するクロロフィル(Chl)aやChl bの励起エネルギーとその揺らぎに関する情報が不可欠である。Chl分子の電子状態計算には通常、(時間依存)密度汎関数理論((TD)DFT)計算が用いられるが、TD-DFT計算による共役分子系の励起エネルギー再現には限界がある。本研究では、Chl aおよびChl bの励起エネルギーを正確に計算するため、複数の溶媒中での(TD)DFT計算のパラメータを最適化した。さらに、EETダイナミクス分子論的に解析するため、分子動力学(MD)計算が必要である。しかし、従来のMD計算では、Chl aおよびChl bの励起エネルギーと分子間相互作用を適切に表現できない。これを克服するため、我々は電子状態計算を再現可能なMD計算用パラメータの開発を行い、LHCII中の全Chl分子の基底・励起状態を表す(TD)DFT計算を正確に再現するパラメータを決定した。また、Chl分子間の電子相互作用を記述する新たな関数も開発した。 このパラメータと関数を使用したMD計算により、LHCIIの吸収、蛍光、円二色性スペクトルの実験スペクトルをほぼ再現することが確認された。これにより、LHCII系のEETダイナミクスを分子論的に理解するための全ての情報を提供することが可能となった。この成果は、効率的なEETダイナミクスの分子論的機構の解明に向けた重要なステップであり、今後、以上の成果を論文として纏めるとともに、効率的EETダイナミクスの分子論的機構の解明を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、励起エネルギー移動(EET)の分子機構の解明を目指しており、とくに複雑な構造を持つLHCII中のクロロフィルa(Chl a)およびChl bの励起エネルギーおよびその揺らぎを適切に評価することが重要である。この目的のために、我々はすでに、複数の溶液中でのChl a及びChl bの励起エネルギーを同時に再現するTD-DFT計算のパラメータを決定し、Chl aやChl bを取り巻く環境の違いによる励起エネルギーの変化を適切に記述することに成功している。さらに、適切な量子化学計算の結果を再現する分子動力学(MD)計算のパラメータ開発にも成功し、LHCII間の色素分子間の相互作用の詳細なパラメータ決定を行うことができた。これにより、膜中のLHCIIのMD計算を行い、LHCIIの吸収、蛍光、および円二色性スペクトルの解析を通じて、我々のパラメータの妥当性を検証することが可能となった。以上の成果から、LHCIIにおける効率的なEETダイナミクスの分子機構の解明に向けた研究が、概ね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
LHCIIにおける効率的な励起エネルギー移動(EET)ダイナミクスの分子機構を解明することを目指し、我々はLHCII内のクロロフィルa(Chl a)およびChl bの励起エネルギーおよびその揺らぎなどの分子パラメータの決定に向けた準備研究を進めてきた。これまでの成果として、EETダイナミクスの解析に不可欠な揺らぎの量を分子論的に求めるための分子動力学(MD)計算のためのパラメータ開発に成功している。今後は、膜内LHCIIの長時間にわたるMD計算を行うことにより、適切な量子化学計算に基づくダイナミクスを実現することが可能になる。さらに、MD計算の結果をもとに、LHCII内の全色素の励起エネルギーの揺らぎ(再配向エネルギーや色素と周囲環境との相互作用の時定数を含む)を詳細に解析できるようになる。これらの情報を活用して、LHCII内のEETダイナミクスをより深く解析することが可能となり、効率的なEETダイナミクスの分子スケールでの機構の解明に向けた大きな一歩を踏み出すことが期待される。ここで得られる結果と、FMOタンパク質におけるEETダイナミクスを比較することにより、両者のにおけるEETダイナミクスの普遍性と特殊性などを明らかにしたい。
|