研究課題/領域番号 |
21H04695
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,340千円 (直接経費: 31,800千円、間接経費: 9,540千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2022年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
2021年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
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キーワード | 蓄エネルギー機能 / 双安定性 / 実践的MI / 水素キャリア高分子 / Liイオン伝導体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,電気エネルギーの高速蓄積や水素の可逆的貯蔵などエネルギーに関わる機能性高分子を対象として,実践的マテリアルズ・インフォマティクス (MI)と相補させながら,(1) 電気エネルギーの高速蓄積に関わる新概念の提案と実証,(2) 水素キャリア高分子の学理構築,(3) MIによるイオン伝導性高分子の革新 を目指して推進する。 これらを総合して,新たな蓄エネ機能高分子を開拓するための斬新な方法論と,with/afterコロナの時代に求められる材料創製の高効率化や将来的なAIスマートラボに適合する実践的MIの手法を開拓し,経験知や実験手技に拠らないものづくり手法の基礎を確立する。
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研究実績の概要 |
本研究では,二次エネルギーの可逆的な貯蔵に関与する電荷や水素の貯蔵を担う有機高分子,Liイオン伝導性高分子などを対象として,エネルギーの変換・輸送・蓄積機能を発揮する斬新な蓄エネルギー (蓄エネ) 機能性高分子の分子設計とそれらの有機二次電池,全固体電池,太陽電池などへの応用に関する基礎を明らかにすることを目指して研究している。研究期間を通じた根幹となる考え方として,蓄エネ過程における無定形から秩序構造の動的誘起や,特徴あるCT錯体のLiイオン伝導など,高分子の無定形構造と配向・組織構造のはざまにおいて見出した興味深い現象を追究することに注力している。この知見を起点として,蓄エネ機能を発現する有機高分子の分子設計に関する基本的考え方であるエネルギー貯蔵の「双安定性」 (bistability) の概念を,実験データを基盤とした実践的MIの手法も取り入れながら拡張することにより,革新的エネルギー変換機能を担う有機エネルギーマテリアル化学を確立することを目的としている。 本研究の探究対象である「双安定性」とは,酸化・還元の両状態,あるいは水素付加体・脱離体の化学的安定性を指す。有機高分子でエネルギーの可逆的な蓄積機能を発現させるには,単一分子レベルでの電子授受の可逆性に加え,厚みを持った物質 (モノ) 全体で「双安定性」を実現しつつ電荷を出し入れする必要がある。このような考え方を,水素貯蔵にも適用し,水素付加体・脱離体の「双安定性」を持たせることにより,新しい水素キャリア高分子を創出してきた。 本年度は,エネルギー蓄積密度の向上に継続して取り組み,レドックス当重量や質量水素密度を因子とした分子設計の有効性を示した。特に,有機系レドックスフロー電池の高エネ密化に資するメディエーション効果の実例と機構を明らかにした。また,全固体電池を構成する革新的なLi固体電解質を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,エネルギー貯蔵に関わる「双安定性」の追究と並行して,出力特性を支配すると考えられるエネルギー蓄積過程の秩序構造の誘起に特に注目して研究した。その結果,前例のない含硫黄脂肪族系高分子のLiイオン伝導をpolymer-in-salt条件で見いだすことができた。予想外の知見として,このような条件下ではLi塩が必ずしも解離していないように見えることをラマンスペクトルの詳細な解析などから明らかにし,従来のPEO系よりソフトな塩基であるスルフィド高分子が形成する固体の中を,弱い配位系を与える対イオンの助けを借りつつLiイオンがホッピング伝導する機構が導かれた。これは,研究開始時に構想した「無定形と配向・秩序構造の間に想定される新機能」の実例であると考えられ,まったく新しい有機系Li固体電解質へ実例拡張できたことは,当初の計画を超えた顕著な成果であると考えられる。このような,既存モデルでは説明できないLiイオン伝導体の実現は,Liイオン移動が配位高分子のセグメント運動に律速されないため高伝導度を与える可能性のある画期的メカニズムであり,本研究のアイデアを今後さらに展開するための基盤を与えている。 また,シミュレーション困難な組成物のデータ科学による実用精度での性能予測についても継続的に展開し,これまで構築してきた実験データ基盤の機械学習を従前のLiイオン伝導度予測から新たに光学特性予測に展開できることを明確にした。これを用いて,非晶質高分子の屈折率を正確に予測できるようになりつつあり,これまで光学材料として検討されてこなかったチオウレア含有高分子の有用性を明らかにした。その高屈折率・高アッベ数により,実デバイスの光取り出し効率向上につながる省エネ技術であることを実験的に明らかした成果は,実践的MIの方法論の新たな応用を示すものとして,従来の期待を超えた成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究目標である「電極活物質やイオン伝導膜など蓄エネ機能もつ有機物に出力密度の限界は存在するか?」 の問いに核心においた「有機エネルギーマテリアルの化学」を,今後は以下の切り口で展開する。 これまでの電荷・水素の可逆的貯蔵を担う高分子やLiイオン伝導性高分子など広くエネルギーの変換・輸送・蓄積機能を持った高分子の設計と応用に関する研究をさらに展開し,実践的MIの方法論を幅広く活用した革新的Li固体電解質の開拓などに取り組む。有用な新規物質の開拓が実践的MIにより加速されることの実例を,本年度に見いだしたpolymer-in-salt条件の含硫黄脂肪族系高分子におけるLi塩の組成・種類の予測と実験的実証を経て機械学習にフィードバックすることで幅広く拡張する。高いLiイオン伝導度を与える化学構造を導く手法により,従来イオン伝導性高分子として想定されなかったCT錯体に関する検討を継続し,特に,芳香族ポリエーテルを電子供与体とするCT錯体で,高分子固体電解質でのLiイオン伝導度の最高値更新を狙う。従来のPEO系Li電解質モデルでは説明できないイオン伝導特性を,セグメント運動束縛モデルに拠らない新しい方向性を明示するものとして追究し,「無定形と秩序構造のはざまに誘起される過渡的な規則構造」がイオン輸送経路を与えていることを,イオン伝導度測定による活性化エネルギーの解析,スペクトルを用いたLiイオンの配位場構造の解析などから解明,上記の「問い」に対する具体的アプローチをはかる。また,研究期間の最終年度前年度にあたるため,電気エネルギーの高速蓄積と水素キャリア高分子の学理構築を目指した研究全体の取りまとめと成果定着に向け,実践的MIの有用性の確立に注力するとともに,材料創製の高効率化や将来的なAIスマートラボにも適合し,経験知や実験手技に拠らない革新的ものづくり手法として確立する。
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