研究課題/領域番号 |
21H04704
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90379587)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
2023年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2022年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
2021年度: 22,230千円 (直接経費: 17,100千円、間接経費: 5,130千円)
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キーワード | シトクロムP450 / デコイ分子 / 高難度酸化反応 / 結晶構造解析 / 人工酵素 / 人工金属酵素 / ガス状アルカン / 水酸化反応 / 進化分子工学 / バイオリアクター / 鉄ポルフィリン錯体 / 金属酵素 / ヘム / 酸化反応 / 菌体内反応 / 外膜蛋白質 / 高難度水酸化反応 |
研究開始時の研究の概要 |
鉄ポルフィリン錯体(ヘム)を活性中心とする金属酵素のシトクロムP450(P450)の中でも活性が高いことで知られる巨大菌由来のP450BM3を用いて,ガス状アルカンやベンゼンなどの不活性な有機基質を高効率に水酸化可能な,強力なバイオ触媒系を創出する.長鎖脂肪酸水酸化酵素のP450BM3に,長鎖脂肪酸に構造を似せた「デコイ分子」を作用させると様々な小分子アルカン類を水酸化可能になる.P450BM3とデコイ分子複合体や反応中間体の結晶構造解析から得られる構造情報を反応場設計に反映させることにより,温和な条件下で小分子アルカン類を高効率に水酸化可能な「P450-デコイ分子」反応システムを創出する.
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研究実績の概要 |
ヘム鉄を活性中心とする金属酵素のシトクロムP450(P450)の中でも最も活性が高いことで知られる巨大菌由来のP450BM3を用いて,ガス状アルカンやベンゼンなどの不活性な有機基質を高効率に水酸化可能な,強力なバイオ触媒系を創出することを研究目的として研究を進め、本来の対象基質である長鎖脂肪酸に構造を似せた「ダミー基質」(「デコイ分子」)を作用させると様々な小分子アルカン類を水酸化可能になる反応系の酸化反応活性の更なる向上に取り組んだ。精製酵素を用いて、プロパンの水酸化を達成したが、P450BM3を過剰発現させた大腸菌をそのまま用いる反応系によって、プロパンをプロパノールに高効率に変換できることを確認した。また、大腸菌をそのまま用いる反応系のベンゼン水酸化活性をカラーアッセイによって評価する評価系を確立し、P450BM3を進化分子工学的手法によって改変することで、デコイ分子存在下で高いベンゼン水酸化活性を示す酵素反応系の構築に成功した。P450BM3のヘム鉄をマンガンを有する錯体に置換したのち、P450BM3の還元ドメインを酵素的に連結する手法を確立したが、得られたMnP450BM3の水酸化活性を、変異導入と組み合わせることで、ヘム鉄を活性中心とするP450BM3と同等レベルまで向上できることを明らかにした。合わせて、マンガンを活性中心とする反応では、オキシジェンリバウンドが優位に遅くなることを明らかにした。ヘム鉄の鉄イオンをモリブデンに置換した人工P450BM3が、P450BM3の酸化活性種であるCompoundIモデルとなり、結晶構造解析によって可視化できることを報告したが、この技術を利用して、スチレンのエポキシ化反応の反応直前の状態を結晶構造解析によって明らかにすることができた。構造解析によって、結晶構造からエナンチオ選択制を予測できることも実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
デコイ分子を用いる手法と進化分子工学的手法を組み合わせることによって、更なる高活性化を目指しているが、デコイ分子存在下で進化させた変異体が、これまでに高い活性を示さなかったデコイ分子の結合に応答して、ベンゼン等の水酸化を進行させることができるだけでなく、これまでに開発した類似骨格のデコイ分子よりも高い水酸化活性を示した。また、P450BM3の活性中心である、ヘム鉄の鉄イオンをマンガンに置換した人工P450が、鉄イオンと同等の酸化活性を示すことを初めて実証した。鉄イオンをモリブデンに置換した人工P450を利用して、通常は検出不可能な「酸化反応前駆体」の結晶構造解析にも成功している。さらに、活性は低いものの、野生型P450BM3が、触媒的なメタン水酸化が可能であることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
デコイ分子を用いる手法と進化分子工学的手法を組み合わせることによって、更なる高活性化が可能であることを実証することができた。新規デコイ分子の開発を進め、非常に高い活性を示すデコイ分子をいくつか開発することに成功している。野生型のP450BM3に対して有効であったこれらのデコイ分子存在下で、P450BM3を進化分子工学的手法によって進化させることで、更なる活性の向上と、反応効率(カップリング効率)改善に取り組む。菌体をそのまま用いる反応系に利用可能なデコイ分子を、大腸菌の外膜蛋白質を改変することによって拡張することに成功しているが、膜透過性を付与することで、一般的な大腸菌であっても高い活性を示す新規膜透過性デコイ分子の開発を進める。結晶構造解析では、結晶化促進デコイ分子を開発したことで、ほとんどすべてのP450BM3の結晶化が可能となっている。この技術を活用して、網羅的な結晶構造解析により、高活性デコイ分子の特徴を低活性なデコイ分子との比較において明らかにする。金属置換P450BM3については、マンガン置換P450BM3が、通常のヘム鉄を有するP450BM3と同等の水酸化活性を示すことを明らかにすることができた。野生型P450BM3は、ヘム鉄を活性中心とする反応に最適化された酵素であるといえ、これをマンガンを活性中心とする反応に適したP450BM3に進化分子工学の手法により改変し、デコイ分子存在下で、ヘム鉄を活性中心とする反応系よりも高い活性を示す人工P450を創出する。また、マンガンを活性中心とする反応の特性を生かした物質変換反応へ適用する。
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