研究課題/領域番号 |
21H04729
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分39:生産環境農学およびその関連分野
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
野々村 賢一 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (10291890)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,600千円 (直接経費: 32,000千円、間接経費: 9,600千円)
2024年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2023年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2022年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2021年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 減数分裂 / 植物 / 生殖 / エピゲノム / 細胞壁リプログラミング / イネ / 小分子RNA / エピジェネティクス / 細胞壁 / カロース / 葯 |
研究開始時の研究の概要 |
生殖細胞は、ゲノム撹乱要因であるトランスポゾンの不活化によりゲノム恒常性を維持する一方、新たな遺伝子組み合わせを創出して次世代に伝達する。この過程で重要な役割を担う減数分裂では、クロマチン修飾がリモデリングされ、それが減数分裂組換え頻度や位置の決定に寄与する。同機構に関連する遺伝子の改変は、優良形質と一緒に劣悪形質遺伝子が導入される「連鎖の引きずり」の解消など、育種効率向上につながる。本課題では、イネの葯における減数分裂染色体のエピゲノム制御に着目し、減数分裂特異的に発現する小分子RNAが体細胞から隣接する生殖細胞に移行し、細胞非自律的にエピゲノム制御に加わる可能性の検証を目的とする。
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研究実績の概要 |
イネの葯で減数分裂特異的に発現する小分子RNAを中心とした細胞間シグナル因子による、細胞非自律的な減数分裂染色体のエピゲノム制御機構の解析を目的とする。 イネ減数分裂期の生殖細胞核への高度な蓄積が確認されたAGO4aタンパク質の機能欠損変異体(ago4a変異体)を作成し、機械的に単離した減数分裂期の雄性生殖細胞を用いたゲノムワイドバイサルファイトシーケンス(GWBS)により、減数分裂進行に伴うDNAメチル化の変化を正常体とago4a変異体で比較した。その結果、(1) 減数分裂特異的小分子RNAとして知られる24塩基長phasiRNAの前駆体ゲノム領域(24PHAS領域)が減数分裂初期から終期(四分子期)にかけてDNAメチル化が上昇すること、(2) (1)で検出された24PHAS領域のDNAメチル化は部分的にAGO4aに依存することなどを見出した。昨年度にAGO4aが24塩基長phasiRNAと結合する結果を得ており、今回の結果と一致した。 しかし、24塩基長phasiRNA分子種の多さを考慮するとAGO4a/phasiRNA依存的にメチル化を受ける24PHAS領域の数は期待を遥かに下回っていた。そこで、AGO4aのパラログであるAGO4bとの二重変異体の作成に着手した。 昨年度、活性酸素(ROS)生成酵素RBOHの変異体解析から、減数分裂直前の葯におけるROS濃度の上昇が、正常な減数分裂開始・進行に重要な役割を果たす可能性を見出した。今年度は、rboh変異体における減数分裂異常を再確認するとともに、RBOH遺伝子/タンパク質の発現時期・部位を特定する目的でRBOH-GFPを発現する形質転換イネの作成に着手した。 また、葯における小分子RNA小胞輸送のイメージングのため、小分子RNAレポーターおよび細胞外小胞膜特異的タンパク質レポーターを発現する形質転換イネの作成に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に実施したGWBSは、機械的に単離した減数分裂期の雄性生殖細胞を対象としている。減数分裂特異的な24塩基長phasiRNAの多くは、雄性生殖細胞と接するタペート細胞(体細胞)で生産されることが代表者の過去の研究から明らかとなっているが、GWBSの結果から、24塩基長phasiRNAおよびAGO4aタンパク質は、減数分裂中の生殖細胞におけるゲノムDNAのメチル化に寄与する可能性が示された点は、本課題の当初の予想と合致するもので、新規性が極めて高い成果が得られたと自負する。 ただ、イネゲノム中に100ヶ所以上存在する24PHAS領域の一部でしかAGO4依存的なDNAメチル化の上昇が検出できなかった点は期待を下回るものであった。しかし、その結果も見越した上でAGO4aパラログの変異体も作成しており、二重変異体を2023年度中に確立できたことから、当初計画の遂行から若干遅れるものの、全体的には概ね順調に推移していると考えている。 一方、カロース合成酵素GSL5の変異体解析を実施し、減数分裂直前における生殖細胞の細胞壁リプログラミングが減数分裂進行に与える影響を明らかにすることに成功し、著名な植物専門誌に成果を発表した。また、減数分裂直前の葯におけるGSL5発現の上流因子としてROS生成酵素RBOHが機能している可能性を、rboh変異体の解析から見出すことができた。既にRBOH-GFP発現イネの作成にも着手しており、小分子RNAレポーターおよび細胞外小胞レポーター発現イネの作成と合わせて、計画は極めて順調に推移している。 上記から、本課題は予定通り順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度作成したAGO4二重変異体では、それぞれの一重変異体ではみられない表現型が観察されたため、本課題で当初予想していた減数分裂期における変異表現型も一重変異体より顕著になる可能性が十分期待できる。そこで、二重変異体を用いて減数分裂染色体の挙動解析、および単離した雄性生殖細胞を用いたGWBSおよびトランスクリプトーム解析などを実施する予定である。 また、24塩基長phasiRNAの生合成に関わる遺伝子の変異体作成も進めており、一部の変異体では葯における24塩基長phasiRNAの蓄積量が減衰していることも確かめている。これらの変異体も上記と同様の解析を行うことを予定している。 ROS生成酵素RBOHについては、減数分裂直前の葯における機能解析は未だ報告がない。RBOH遺伝子/タンパク質の発現時期・部位の詳細な解析やトランスクリプトーム解析などによる下流遺伝子の探索、生殖細胞壁リプログラミングにおける機能、減数分裂への影響などを詳細に解析し、成果を論文発表する予定である。小分子RNAレポーターおよび細胞外小胞レポーター発現イネの作出に成功した場合、rboh変異体と組み合わせて、RBOH依存的な生殖細胞壁リプログラミングが、細胞外小胞依存的な小分子RNA、特に減数分裂特異的24塩基長phasiRNAの細胞間コミュニケーションに与える影響を調査する予定である。 上記の成果を合わせることでAGO4、減数分裂特異的24塩基長phasiRNA、そして生殖細胞壁リプログラミングが、減数分裂の開始・進行に果たす役割の解明を目指す。
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