研究課題/領域番号 |
21H04730
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浦木 康光 北海道大学, 農学研究院, 教授 (90193961)
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研究分担者 |
重冨 顕吾 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20547202)
鈴木 栞 北海道大学, 農学研究院, 助教 (20867155)
堤 祐司 九州大学, 農学研究院, 教授 (30236921)
玉井 裕 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50281796)
綿岡 勲 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 准教授 (70314276)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2021年度: 22,230千円 (直接経費: 17,100千円、間接経費: 5,130千円)
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キーワード | リグニン / 人工多糖類マトリックス / 成長反応 / QCM-D / 細胞壁ミメティックス / ヘミセルロース / アセチル基 / 蛍光共鳴エネルギー移動 / キシログルカン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、先ず、木材から抽出したセルロースとヘミセルロースを用いて、初期細胞壁の構造を模倣した多糖類マトリックスを人為的に再構築する。さらに、このマトリックス中で、ポプラで発見された細胞壁ペルオキシダーゼを用いて、リグニンの形成反応を行う。この形成過程の解析、特に、成長反応過程を“木化”に関与する物質との空間配置と関連させて解析することに因り、リグニンの構造と生成環境との相関を明らかにすることが本研究である。
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研究実績の概要 |
本年度は、以下の2項目について、検討を行った。 1.アセチル基を保有しているグルコマンナン(GM)の抽出と、このGM存在下での人工リグニンの作製:エゾマツから120℃の熱水を用いてGMの抽出を試みた。これまでの1時間抽出から15分抽出に変更することで、アセチル基を有したGMの粗抽出物を得ることができた。この粗抽出物の水溶液を、針葉樹のセルロースナノファイバーでコートしたQCM-Dのセンサに流入し、さらに、西洋わさびペルオキシダーゼ、針葉樹のモノリグノールであるコニフェリルアルコールを過酸化水素と共に流入した。その結果、粗GMが吸着したセンサでは、人工リグニンの形成が観測されなかった。このことは、アセチル基を有するGMがリグニンの形成を阻害することを意味していた。そこで、細胞壁形成におけるGMの機能を解明するために、GMはキシランの吸着場という学説を検証を試みた。アセチル基を有するGMはアセチル基の無いGMに比べ、多量のキシランを吸着させることが示され。細胞壁形成におけるGMの合目的性が解明できた。 2.人工リグニン‐多糖類複合体(LCC)中での人工リグニンの成長反応:フェルラ酸を結合させたキシログルカンを、配向セルロース上に吸着させた多糖類マトリックスを調製した。このマトリックス中のフェルラ酸を反応起点としてリグニンの高分子化反応を、rCWPO-Cとモノリグノール類(コニフェリルアルコールとシナピルアルコール)を用いて試みた。その結果、キシログルカンに共有結合した人工リグニンは、マトリックスの無い緩衝液中で調製した人工リグニンより、分子量ならびにβ-O-4結合の割合は小さかった。これは、細胞壁上に共有結合で固定されたモノリグノールの成長反応が、多糖類により妨げられた結果と予想され、LCCの早期の形成はリグニンの成長反応に大きな影響を与えることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ヘミセルロース(針葉樹のガラクトグルコマンナンと広葉樹のグルクロノキシラン)、特に、ヘミセルロース中のアセチル基が、細胞壁形成及びリグニン形成にも重要なことを明示した。具体的は、グルクロノキシラン中のアセチル基は、広葉樹のリグニン形成(木化)に重要な官能基であることを示した。一方、ガラクトグルコマンナン中のアセチル基はリグニン形成は阻害するものの、リグニン形成に重要なグルクロノキシランをセルロース上に堆積させるのに重要な役割を担っていることを示し、細胞壁形成におけるヘミセルロースの合目的性を明らかにすることに至った。この研究の進展は、研究計画当初通りの進行といえる。 しかし、リグニンモデル高分子を用いた高分子化反応の条件確立には至っていないので、今後の課題であるが、これも計画当初に予想された進行の一つであり、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に、新たな課題として想起された以下の項目を今後解明する。 1.CWPO-Cを用いたリグニンモデルオリゴマーおよび単離リグニンの高分子化 昨年の研究では、b-O-4結合のみから成るリグニンモデルオリゴマーのCWPO-Cによる高分子化を試みたが、重合が進行しないことが示された。そこで、この重合反応系にアセチル基を有するキシランを添加して、リグニンの成長反応、特に、巨大分子化に関するキシランの機能を明確化する。同時に、木材から単離した磨砕リグニンや工業リグニンを原料として、同様な検討も行い、重合場としてのキシランの応用性も調べる。 2.球状人工リグニンと単離リグニンの相関関係の解明 木材から単離したリグニンが低粘度であることが、既に報告されている。これは、リグニンが溶液中ではアインシュタインの剛体球に近い溶液構造をとっているためと推定される。一方、アセチル基を有するキシラン中で生成した人工リグニンも巨大な球状の形態となった。この相関を明らかにするために、人工リグニンに対する良溶媒および貧溶媒を、先ず、探索する。次いで、これらの溶媒中での粘度挙動、特に、マークホーウィンク‐桜田の式の指数aを求め、人工リグニンの溶液構造を推定する。同時にこれまで継続して行ってきたX線小角散乱の測定も行い、それらの結果から、この構造と人工リグニンの球状構造との関係について明らかにする。
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