研究課題/領域番号 |
21H04738
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
八木 信行 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80533992)
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研究分担者 |
東田 啓作 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10302308)
杉野 弘明 山口大学, 国際総合科学部, 講師 (30751440)
阪井 裕太郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30849287)
鈴木 崇史 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (40897667)
大石 太郎 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (80565424)
有賀 健高 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90589780)
若松 宏樹 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (90722778)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,600千円 (直接経費: 32,000千円、間接経費: 9,600千円)
2024年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2023年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2021年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
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キーワード | 水産物価格 / マーケティング / 道具的価値 / 関係価値 / ネイチャーポジティブ / AI / 水産物消費 / 応援買い / 生態系の価値 / 農業遺産 / 道具的的価値 / 関係性価値 / 水産物 |
研究開始時の研究の概要 |
規格品である工業製品とは異なり、天然産品である水産物は多様性を有しているため、大量規格品と同列に扱おうとすると需要と供給のミスマッチが生じやすい。実際日本ではマグロなどの高級魚は過剰利用され資源減少が問題となっている一方で、大衆魚は消費者の魚離れが問題になり、不人気魚は買い手がつかず港で投棄されている。そこで本研究は、消費者調査や市場統計分析などを通じ、水産物や、これを産出する生態系や産地の社会組織の意義などの多様な価値を人間がどう感じるかを心理学的手法等を用いて研究し、消費者の多様なニーズを生産側が利用できる仕組みを作り、水産物の市場での需給ミスマッチ問題等を解決することを目指す。
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研究実績の概要 |
水産物は、規格品である工業製品とは異なり多様性を有している。この中、グローバルな規模でクロマグロなどの高級魚は過剰漁獲が問題となる一方で、日本のローカルレベルではシイラやアイゴなどの不人気魚は水揚げ港で投棄される例も多い。資源を有効に人類が活用するためには、AIなどを活用して顧客の個人的な商品嗜好を個別に分析し「おすすめ商品」を提示するアプローチが存在する。本研究ではこの基盤となる情報や考え方を体系的に整備するため、人間が自然環境や食物に対して感じる多様な価値観がどこから生じているのかを本質的に解明することを目指す。 本年度は、多様な価値と消費者行動の解明の一環として、日本の水揚げ港における未利用魚の実態調査、および新聞報道のテキスト分析を実施した(現在出版準備中)。加えて世界農業遺産・日本農業遺産などの認定が農林水産物の付加価値を上昇させるのか、バレンシア工科大学(スペイン)と連携し研究を開始した。更に海洋生態系保全に配慮した水産物の付加価値を消費者に伝達する手法などについてストックホルム大学(スエーデン)と連携して研究を行った。また価値の時系列的変遷と将来予測については、現代的な価値の1つである地球温暖化防止に焦点を当て、水産物に関するカーボンフットプリント計算を実施し、これを表示することで消費行動が変化するか等の研究を開始した(出版準備中)。またAIの活用による多様な消費者層へのアプローチ手法に関しても、水産物の市場価格の予測に向けた機械学習モデル構築を行った(田頭ら2023)とともに、生産現場においてもインドネシアのエビ養殖場を対象にエビの成長曲線を機械学習で予測しするモデル構築を試みた(出版準備中)。 これらについては、環境の価値とこれを保全しようとする消費者行動の関係を解明する上での重要な知見であり、全体を総合して有用な成果が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年には査読論文を8編、査読付き書籍(日本水産学会による編集)を1編、またの無査読の出版物を6編それぞれ出版した。これに鑑みれば、全体として順調に成果が上がっていると考えている。特に国際的な先行研究においてあまり触れてこなかった「鮮度」について、これに関する小売店側の行動、および消費者側の行動について研究を実施し、成果が得られた。具体的には東京都特別区においてランダムに抽出した鮮魚店やスーパー等100店舗の店頭においてマイワシおよびマアジを購入し、購入直後に市販機材(フィッシュアナライザー)を用いて購買した魚の鮮度を数値化した。この結果、小売店は高鮮度の魚を高価格で売る店と、高脂肪の魚を高価格で売る店など、販売戦略が異なっていることなどが明らかとなり(阪井ら2023)、今後、魚の鮮度を論じる研究の基盤を築くことができた。 また本科研費の研究チームは昨年まで日本の消費者が福島の原発事故以降に「応援買い」という形で被災地の水産物を積極的に購入する意欲を有している点を初めて見出し英文および和文で発信しており、更に2022年はこれらを総合した内容のものを日本水産学会が企画編集する書籍上で出版した(鈴木・八木(2022))。いずれも本研究での知見が存在したために論考が可能となった内容で、学問の進展、社会実装双方の側面において貢献ができる成果が得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究が当初の予定通り進んでいるため、当初の予定通り以下の3課題を推進する。 (1)多様な価値と消費者行動の解明の課題においては、様々な価値について類型化を行い、各価値のトレードオフ構造(各価値の競合関係や補完関係)などの把握を行う。特に、自然の恵みに関するnon-anthropocentricな価値をどう把握するのか、さらには人間が存在するために発生させるanthropocentricな価値の中でも関係価値(relational value)をどう把握するのかについて、FAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産チーム、およびバレンシア工科大学等関連する各国研究者等と連携し国際的な研究を推進する。 (2)価値の時系列的変遷と将来予測の課題においては、水産物の産地価格、卸売価格、小売価格の変動を統計的に解析し、季節変化や年次的な変化を考察する。また、既存統計だけに頼る従来の方式に加え、長期にわたる新聞記事などのテキスト分析などを併用する。ここでは、関係価値(relational value)と道具的価値(Instrumental value)の時間による変化のしやすさなどを解明する。さらにはカーボンフットプリントなどの近年の価値に関する研究も引続き取組む。 (3)AIの活用による多様な消費者層へのアプローチ手法の開発の課題においては、過去のスーパー売上げデータ(例えばPOS:Point of Salesデータ)などを活用し、AI等を用いた食品の需要予測を行う。また需要予測と供給予測をマッチングさせるための原則について環境心理学の理論を活用して研究する。またAIの活用は流通側面だけでなく、生産現場における予測および評価にも使用する。フードマイレージ、エコラベル、応援買い、アグロツーリズムなどをキーワードに、これらが、どの消費者層にどのような条件下で影響するのかなどを解明する。
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