研究課題/領域番号 |
21H04741
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
野方 靖行 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (10371535)
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研究分担者 |
広瀬 雅人 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (10809114)
平井 悠司 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (30598272)
室崎 喬之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40551693)
小林 元康 工学院大学, 先進工学部, 教授 (50323176)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2024年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2023年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
2022年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
2021年度: 14,690千円 (直接経費: 11,300千円、間接経費: 3,390千円)
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キーワード | 付着生物 / 水中接着 / フジツボ / コケムシ / 生物模倣材料 / 幼生 |
研究開始時の研究の概要 |
海洋生物の中には、フジツボ類やコケムシ類のように付着生活を送るものが多種存在する。それらの生物は人類が未だ達成できていない水中接着を容易かつ短時間に達成している。また、異なる分類群の海洋生物が水中接着を実現しているが、それぞれ進化の過程で獲得した水中接着様式は異なると考えられる。本研究では、海洋生物が実現している水中接着に着目し、生物学的手法による詳細な観察と、工学的・材料科学的な視点からの解析も交えて、水中接着メカニズムを明らかにすることを目的とする。同時に、獲得した知見を活用し、生物の水中接着プロセスに学んだ水中接着模倣や付着防止など応用技術の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
飼育した付着生物幼生を用いた付着実験や観察を実施した。 1)水中接着様式解析:カメフジツボはウミガメやガザミに付着する寄生性フジツボである。ウミガメやカニの甲羅は親水性であり、カメフジツボの幼生は親水性表面への付着性に優れていると考えられる。そこで、カメフジツボのキプリス幼生を用いて、極性の異なるプラスチック板を用いた付着実験と共に、一定期間飼育後の剥離力測定を実施した。その結果、フジツボキプリスの付着率や剥離力は、材料間で大きな差は見られなかった。一方、変態直後の幼稚体では、疎水性プラスチック上の付着個体の剥離が多く観察されたことから、キプリス幼生時に生産するセメントタンパク質の付着力は疎水性表面への付着力が弱い可能性が示唆された。 2)水中接着物質の物性解析:アカフジツボキプリス幼生のセメントタンパク質の固化メカニズムの解明を目指し、分析用のセメントタンパク質の収集を継続した。また、リジルオキシダーゼ阻害剤であるβアミノプロピルニトリル(BAPN)を用い、アカフジツボキプリス幼生の付着実験を行った。その結果、BAPNの濃度依存的に付着率の低下が観察された。 3)水中接着プロセスに基づく材料設計:昨年度得られた双性イオンによる付着防止効果に着目し、表面開始制御ラジカル重合を用いて調製したポリメタクリル酸ブチルグラフト化シリカ微粒子(BuMA)、およびN基末端スルホベタイン型モノマー(MAPS)グラフト化シリカ微粒子poly(MAPS)(粒径125 nm)をガラス基板に塗布し、紫外光で架橋させ、ブラシ構造を付与した基板を得た。タテジマフジツボキプリス幼生を用いた付着力測定では、日齢7日目のキプリス幼生の一時付着力は、疎水性poly(BuMA)表面では15.5μNを示し、親水性poly(MAPS)表面では2μN以下と低い値であり、表面の極性の違いにより一時付着力に違いが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた幼生からのセメント関連発現遺伝子解析およびセメント加水分解物のマススペクトル解析に時間を要しており、計画していた実験結果を得られていないものの、サンプルの準備等は終了しており、今年度中に解析が実施できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、予定している付着実験、接着物質固化プロセス解析に向けた実験を順次行っていく。 1)水中接着様式解析:調整したRNAサンプルについて、ナノポアシーケンスによる発現解析を検討し、フジツボ類およびコケムシ類の水中接着に関連する発現遺伝子からその機能の解析を行う。また、フジツボ類やコケムシ類とともに水中接着を実現している他分類群の生物についても、発現遺伝子やタンパク質の相動性解析を計画している。 2)水中接着物質の物性解析:アカフジツボキプリス幼生からのセメントタンパク質が十分量収集できたことから、加水分解後にLC-MS/MS分析を行い、セメントの架橋状況等を調査する。加えて、フジツボ幼生等の付着直後にリジルオキシダーゼ阻害剤のマイクロインジェクション実験を行い、セメントの固化に与える影響を評価し、セメント固化と付着に関する関係を評価する。また、極性の異なる表面上での一時接着タンパク質の残存状況や表面残存時の物性等を各種機器分析等により解析する。 3)水中接着プロセスに基づく材料設計:引き続き双性イオンによる表面解析と付着生物幼生の接着力解析を進めると共に、実海域において浸漬実験を行い付着防止能の評価を行う。特に、付着抑制が期待されるこのブラシ微粒子はポリ塩化ビニル板に固定化できることも確認でき、新たにカルボキシベタイン型モノマー(GLBT)を有するブラシ微粒子も合成し、親水性表面基板が得られている。これらは今後、実海水における浸漬実験に用いる予定である。誘起フェロモンが含まれる海水中ではキプリス幼生の活動が活発になり、一時付着力が増大する傾向は認められたが、実験誤差を超える有意な差が認められた測定例は限定的であった。引き続き検討を行う予定である。一方、ドーパミン骨格を有する新たな水中接着性ポリマーの精密合成を試みたが、重合反応の効率が低く、分子構造の再検討を行っている。
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