研究課題
基盤研究(A)
小胞体で合成される膜タンパク質のうち、折りたたみに失敗して生じた不良膜タンパク質は有害であるため、分解されて細胞内から速やかに除去される。このとき、分解基質はプロテアソームへ輸送されて分解されるというのがこれまでの常識であった。しかし我々は最近、ある細胞質タンパク質が小胞体膜上の基質を認識したのちリソソームへ輸送して分解するという、新たな不良膜タンパク質分解経路を発見した。本研究では、このリソソーム分解経路の詳細をゲノムワイドスクリーニングやイメージング解析などを駆使して分子レベルで解明し、膜タンパク質の品質管理という重要な細胞機能を担う、生命の新たな基本原理として提唱することを目指す。
課題1)Artificial基質を用いた解析本研究課題における中心的なプロジェクトであり、独自に開発したartificialな不良膜タンパク質モデルを用い、この基質のリソソーム分解機序を解析するというものである。今年度までの解析の結果、TOLLIPが基質のミスフォールディングとユビキチン鎖を分解シグナルとして検出し、PI3Pを豊富に含む輸送小胞を用いて選択的にリソソームへと輸送するという、新たな膜タンパク質分解経路を発見した。さらに、TOLLIPはartificial基質に加えて運動神経変性疾患の原因となるVAPBやSeipinの変異体のリソソーム分解も担うほか、TOLLIP欠損細胞ではプロテアソーム阻害などで小胞体に負荷がかかった際の小胞体ストレスが顕著に惹起されやすくなることを見出した。従ってTOLLIPは小胞体におけるタンパク質恒常性維持に重要な役割を果たすことが示唆された。以上の研究成果を報告する論文は投稿済みで、現在国際学術誌において査読中である。課題2)CRISPRスクリーニング当初の計画では、artificial基質などのTOLLIP依存的な基質を用いてその分解制御因子をゲノムワイドCRISPRスクリーニングで探索することを目指していた。しかし上述の通り、スクリーニングに頼ることなくTOLLIP経路のキャラクタライズが順調に進展した。さらにこの解析の過程で、Connexin50の白内障変異体がTOLLIPに依存せず非常に盛んにリソソーム分解されることを見出した。これはTOLLIP非依存的な新たな分解経路が存在することを示唆しており、現在この経路の制御因子をCRISPRスクリーニングで探索することを目指している。今年度はスクリーニングに用いる細胞株の樹立とスキームの確立が完了し、現在スクリーニング本番を実施中である。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題における中心的なプロジェクトである、artificial基質を用いた不良膜タンパク質のリソソーム分解機構の解析が順調に進展し、論文投稿まで漕ぎ着けた。さらに現在は、当初の計画にはない発展課題として、TOLLIP非依存的に盛んにリソソーム分解されるConnexin50の白内障変異体を新たなモデル基質として用い、その分解機構をゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーニングおよび基質のインタラクトーム解析を用いて探索中で、この解析も概ね順調に進展している。このように当初の研究目的の達成に近づきつつある上に、新たな発展課題にも着手することができ、不良膜タンパク質の蓄積というストレスに対する選択的分解を介した細胞応答の理解に向けて大きな進展が得られた。
次年度以降は、TOLLIP経路の内在性分解基質をLC-MS/MSで探索し、TOLLIP経路の生理的意義の解明を目指す。また、TOLLIP非依存的経路の解明に向け、Connexin50の白内障変異体をモデル基質として用いてその分解制御因子をゲノムワイドCRISPRスクリーニングで探索し、基質認識、基質の小胞体からの搬出、リソソームへの小胞輸送のメカニズムの解明を目指す。この際、既に今年度に実施済みであるConnexin50変異体のインタラクトーム解析の結果も踏まえて、特に基質認識を介して直接的に分解に関与する因子に重点を置いて解析を進める。
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すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 2件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 3件、 招待講演 8件)
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