研究課題/領域番号 |
21H04770
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長田 重一 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任教授(常勤) (70114428)
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研究分担者 |
瀬川 勝盛 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (20542971)
櫻木 崇晴 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (10867906)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2023年度: 12,220千円 (直接経費: 9,400千円、間接経費: 2,820千円)
2022年度: 14,690千円 (直接経費: 11,300千円、間接経費: 3,390千円)
2021年度: 15,340千円 (直接経費: 11,800千円、間接経費: 3,540千円)
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キーワード | フリッパーゼ / スクランブラーゼ / リン脂質 / 三次構造 / 基質特異性 |
研究開始時の研究の概要 |
フォスファチジルコリン (PtdCho) は細胞膜の外層に存在する。一方、フォスファチジルセリン(PtdSer) はフリッパーゼの作用により、内層に局在する。リン脂質の非対称的な局在は様々な生物現象でスクランブラーゼの作用により崩壊する。私達は 細胞膜に存在する2個のP4-ATPases (ATP11A とATP11C) をフリッパーゼとして、TMEM16FおよびXKR8 をCa2+あるいはカスパーゼによって活性化されるスクランブラーゼとして同定した。本研究では、私達が最近決定したXKR8やATP11Cの3次構造をもとにスクランブラーゼやフリッパーゼの作用機構を解明する。
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研究実績の概要 |
フォスファチジルセリン(PtdSer) はフリッパーゼの作用により細胞膜内層に局在する。このリン脂質の非対称的な局在は様々な生物現象でスクランブラーゼの作用により崩壊する。私達は 細胞膜に存在する2個のP4-ATPases (ATP11AとATP11C) をフリッパーゼとして、TMEM16FおよびXKR8 をCa2+あるいはカスパーゼによって活性化されるスクランブラーゼとして同定した。炎症組織やがん組織では数多くの細胞がネクローシスに陥り、ATPが遊離、組織内のATP濃度は数百μMに達する。この高濃度のATPはATP受容体P2X7に結合、PtdSerを暴露させると共に細胞を死滅させる。CRISPR/ Cas9 systemを用いてこの過程に関与する分子をscreeningした結果、neuroacanthocytosis (神経有棘赤血球症) の原因遺伝子として知られている膜タンパク質 XKとlipid transporter VPS13A を同定、これらの分子は細胞膜上で会合していることを見出した。 ATP11A 遺伝子欠損マウスは胚発生途上で死滅する。生体の殆どの組織でATP11AとATP11C遺伝子は発現していたが、胎盤ではATP11Aは強く発現しているがATP11C遺伝子の発現は全くみられなかった。一方、ATP11A遺伝子を胚 (epiblast)でのみ欠損させるとATP11A欠損マウスは正常に誕生したことから、ATP11Aノックアウトマウスは胎盤に異常があると考えられた。実際、胎盤ラビリンス層が未発達であり、合胞体栄養膜細胞の異形成や多数の死細胞が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A)ATP刺激によるPtdSer暴露の分子機構 P2X7を発現するマウスT リンパ球株を高濃度のATPで処理すると細胞は速やかにPtdSerを暴露する。この細胞にCas9 とGECKO sgRNA libraryを導入、ATPの刺激でのPtdSer 暴露が減少した細胞集団をFACSにより分別した。ついで、その染色体DNAを次世代sequencingで解析、Eros, XK, VPS13A 遺伝子を同定した。ErosはP2X7 の細胞膜への局在に必須のシャペロンとして機能した。XKはXKR8と同じfamilyに属するタンパク質である。一方、VPS13Aは細胞内小器官の間で脂質を交換するlipid transporterとして報告されていた。私達はXKとVPS13Aが細胞膜上で複合体を形成すること、この複合体がATPによるPtdSerの暴露、細胞死に必須であることを見出した。
B) ATP11A フリッパーゼの胎盤・合胞体栄養膜細胞形成への寄与 ATP11A ホモ欠損マウスは胚発生の途上 (E14.5-E17.5) 、心臓の異常により死滅した。しかし、心筋細胞特異的なATP11Aノックアウトを作成したが、マウスは正常に発達した。さらに、Sox2-CRE マウスと掛け合わせ、胚特異的にATP11Aを欠損させてもマウスは正常に誕生した。そこでATP11A 欠損マウスの胎盤の形態を光学顕微鏡、電子顕微鏡で観察したところ、ラビリンス領域に異常が見られ、細胞融合によって形成されるべき合胞体栄養膜細胞の形成が不十分であった。以上より、ATP11Aノックアウトマウスでは胎盤の機能が大幅に低下し、これが胚の心臓の発達異常をもたらしたと結論した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究でATPによるP2X7を介したPtdSerの暴露、細胞死にVPS13Aと複合体を形成したXKが関与していることが明らかとなった。XKはXKR8と同等の三次構造を持つが単独ではスクランブラーゼ活性を持たず、VPS13A を必須とする。XKとVPS13Aがどのように相互作用するかこれら分子に種々の変異体を作成し、検討する。ところで、XKはMcLeod Syndromeと呼ばれる神経有棘赤血球症 (neuroacanthocytosis) の原因遺伝子であり、VPS13Aの欠損もMcLeod Syndromeと同等の疾患を起こす。それでは、この疾患の原因がVPS13AやXK遺伝子の変異によるスクランブラーゼ活性の喪失によるのであろうか。VPS13A やXKの変異には missense mutationと考えられる点変異が多数存在することからこれら変異体を作成、ATP刺激によるスクランブラーゼ活性にどのような作用があるか検討する。一方、細胞融合に対するPtdSerの影響に関しては、細胞を融合させることが知られているRetrovirusによる感染系を用いて検討する。すなわち、宿主細胞のフリッパーゼやスクランブラーゼに変異を導入、この過程におけるPtdSer暴露の作用を明らかにする。
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