研究課題/領域番号 |
21H04790
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分46:神経科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
山元 大輔 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 室長 (50318812)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,250千円 (直接経費: 32,500千円、間接経費: 9,750千円)
2023年度: 12,350千円 (直接経費: 9,500千円、間接経費: 2,850千円)
2022年度: 14,300千円 (直接経費: 11,000千円、間接経費: 3,300千円)
2021年度: 15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
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キーワード | 神経可塑性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、雄が同性愛求愛を行い雌とは交尾をしないキイロショウジョウバエの突然変異体系統、satoriを武器として、性指向性成立の生物学的基盤を解明する。同系統の雄が同性愛行動をとるにあたっては、fruitless (fru)と呼ばれる遺伝子座の機能喪失に加えて、成虫羽化後の一定期間を雄の集団で生活することが必要条件であり、遺伝と環境との相互作用を取り持つ分子基盤の実体が何なのか、この卓越した遺伝学のモデル生物を用いて解き明かす。
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研究実績の概要 |
fruiltess (fru)遺伝子の第1プロモータから作られるprimary RNAは性特異的スプライシングを受けて雌雄で異なるmRNAを産生し、そのうちタンパク質をコードするのは雄型mRNAだけであり、雌型mRNAは機能を持たないとされている。この雄型mRNA産物はFruMと呼ばれている。FruMはニューロンを雄へと分化させる機能を持った転写因子であり、性決定タンパク質の一つである。FruMを発現する脳のニューロンは約2000個あり、そのうちの200個弱はもう一つの性決定タンパク質、Doublesex (Dsx)をも発現している。これらのFruM/Dsx 二重陽性細胞が雄の求愛行動を制御する神経回路のコア部分を構成していると考えられる。そのうち、求愛の意思決定中枢とされるのが、雄の脳半球あたり20個あるP1ニューロンである。FruMを失った変異体であるfru[sat]の雄は、集団生活を経験すると雄同士の求愛を盛んに行うようになるが、隔離しておくとほとんど求愛をしない。野生型雄は単独飼育後、雌に対する求愛活性が高まるが、雄には求愛しない。経験に依存したこのような行動変容の分子基盤を解明するため、単一P1ニューロンの電気生理学的解析とpatch-seqによる転写プロファイリングを行ったが、P1ニューロンの個性と経験による変化とを今のところ十分差別化できていない。そこで、P1ニューロンをマスとして扱って遺伝子発現に対する経験の効果を捉えるアプローチをとった。すなわちtranslating ribosome affinity purification (TRAP)法を改良し、従来の約1000倍の感度を達成(特許出願)、このSTRAP法によりP1ニューロン群として安定なプロファイル測定が可能となり、経験依存的行動変容のエフェクターとして有力な遺伝子の特定に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Patch-seqは単一ニューロンの遺伝子発現プロファイルを明らかにする上で非常に優れた技法であるが、技術的ハードルが高く、脳内のすべてのニューロンについてこれを実行することはほとんど不可能と言ってよかろう。一方、従来のTRAP法は多数のニューロンをソースとして用いなければ発現しているRNAを検出することが困難なため、多量の試料の収集が大きなハードルとなっている。我々は本研究を通じて従来の1000倍の超高感度化を達成することに成功した結果、経験内容の異なる一個体一個体を対象とした解析が射程に入ってきた。これは今後の研究に大きな推進力を与えるものとなるので、十分な成果を上げたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
STRAP法の確立によって、特定のニューロン集団に限定して発現の生ずるGal4ハエ系統がありさえすれば、どのニューロン群であれ、翻訳に使われつつあるmRNAのプロファイルが得られるようになった。R5年度には、既存のP1ニューロン特異的Gal4系統を用い、集団飼育された雄と隔離飼育された雄とで発現プロファイルの比較を野生型、fru[sat]突然変異体の両者で行う。R4に実施した実験の結果の再現性が確認されれば、単一P1ニューロンのpatch-seqを多数のサンプルで行い、STRAP法で得られた結果と符合する経験依存的なプロファイルの変化を示すニューロンが実際にあるのか、あるいは異なる変化のパターンを示すニューロンが集合(加算)されることでSTRAP法での結果が再構成されるのかを見極める。こうした結果から遺伝子プロファイルのパターンによってP1ニューロンのサブタイプが特定できるようになれば、電気生理学的解析の後に記録細胞の細胞質からmRNAのプロファイリングを行い、経験依存的な生理学的変化と因果関係を持って変化する遺伝子を特定する。既に候補として浮上している一つのK[+]チャンネル遺伝子に加えて、経験依存的な変容に対応した多数の遺伝子がプロファイリングから明らかになるため、エフェクターとしてのK[+]チャンネルのみならず、社会経験を細胞、そしてゲノムに刻印するシグナル経路の構成員が自ずと浮かび上がってくると期待される。これにより、経験による行動の変容を支える分子・細胞機構の骨格部が解明できる。
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