研究課題/領域番号 |
21H04805
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒川 峰夫 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (80312320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
42,380千円 (直接経費: 32,600千円、間接経費: 9,780千円)
2023年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2022年度: 12,480千円 (直接経費: 9,600千円、間接経費: 2,880千円)
2021年度: 17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
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キーワード | 急性骨髄性白血病 / 骨髄異形成症候群 / 白血病 / 難治性白血病 / EVI1 / HMGA1 / 疾患モデルマウス / 治療抵抗性白血病 |
研究開始時の研究の概要 |
難治性白血病の治療開発では、遺伝子異常の同定に加え、エピジェネティクス、代謝、骨髄造血環境など、難治性病態を形成する異常の相互作用を適切なモデルを用いて明らかにし、治療標的化する必要がある。本研究は(1)最も難治性の白血病サブタイプであるEVI1高発現白血病の発症・難治化機構の解明と新規治療法の開発、(2) 骨髄異形成症候群から続発する白血病の難治性機序の解明、(3) エピジェネティクス異常を有する白血病特異的な治療標的の同定、 (4) 再発難治症例検体の単一細胞解析に基づく難治性機序の解明、を中心に、疾難治性白血病の病態解明と治療標的の探索を行い、難治性白血病の新規治療開発の基盤を確立する。
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研究実績の概要 |
難治性白血病であるEVI1高発現白血病モデルマウスにおけるCCND1およびIFN-γ経路の意義についてさらに解析を進めた。EVI1高発現白血病においてはCCND1の阻害により増殖が抑制されることを見出したが、この影響はin vitroよりもin vivoの方が顕著であった。CCND1の阻害によりEVI1高発現白血病細胞においてはケモカイン産生やインターフェロンへの反応に関わる遺伝子群およびPD-L1の発現低下が見られていた。CCND1阻害, インターフェロンガンマ受容体、およびその下流シグナル伝達のハブ分子STAT1の阻害を行ったEVI1高発現白血病マウスは、発症が遅延した。これらのマウスの脾臓の浸潤T細胞では疲弊マーカーが減少していた。これらの結果からCCND1-IFN-γ-STAT1軸がT細胞の疲弊を介してEVI高発現白血病の難治性病態に寄与していることが明らかになった。 急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群において高発現するHMGA1の病態に及ぼす影響について解析した。HMGA1造血細胞特異的欠失マウスではHMGA1欠失は正常造血に影響を及ぼさなかったが、ヒト急性骨髄性白血病細胞におけるHMGA1阻害により細胞分化が誘導されることを明らかにした。またRUNX1変異マウスでもHMGA1が高発現しており、RUNX1変異白血病モデルマウスにおいてHMGA1阻害が白血病進展を抑制することを見出した。これらの結果からHMGA1高発現白血病におけるHMGA1阻害療法の有効性が示唆された。 難治性急性骨髄性白血病の単一細胞解析では、再発前後の白血病細胞の単一細胞解析を行った。再発時の白血病細胞は遺伝子発現プロファイルにより複数のクラスターに分類された。クラスターと各クラスター内の遺伝子変異プロファイルとは関連が見られず、各クラスターにおいては発現亢進が見られる遺伝子群が別々に難治性白血病の病態形成に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EVI1高発現白血病の新規治療標的CCND1について、白血病モデルマウスを用いた網羅的発現解析からインターフェロンへの反応の変容および疲弊T細胞の増加という病態形成機序を明らかにした。さらに今年度は、EVI1高発現白血病細胞がIFN-γの下流でSTAT1を介してT細胞の疲弊を起こすことを明らかにした。これによりEVI1高発現白血病における腫瘍免疫の異常の理解が進み、急性骨髄性白血病における腫瘍免疫異常を標的とした治療法開発の基盤となる知見が得られた。スプライシング遺伝子異常を有する白血病の解析から見出したHMGA1高発現白血病においては、HMGA1が細胞周期と細胞分化を制御することで白血病の病態形成に関与していることを明らかにした。HMGA1高発現がRUNX1変異白血病などの他の白血病にも見られており、広く治療標的化できる可能性を見出した。単一細胞解析に基づく難治性機序の解明においては、発現解析の結果から幾つかの難治性白血病に関わる経路を同定しており、これらの検証により新規治療法の確立が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、我々は CCND1-IFN-γ-STAT1軸の異常 が腫瘍免疫の異常を誘導しており、これがEVI1高発現白血病の治療標的となりうることを見出した。しかしIFN-γは抗腫瘍的な作用を有するサイトカインであり、文脈依存的な作用を有することが想定される。今後はIFN-γ、IFN-γ受容体、STAT1などの欠失マウスを用いて、EVI1高発現白血病をはじめとする難治性白血病における同様の腫瘍免疫の異常が広く急性骨髄性白血病の治療標的となるか検証を行う。本治療戦略が有効な白血病サブタイプの同定を行い、急性骨髄性白血病の新たな治療法の確立を目指す。また、難治性病態においては白血病幹細胞の治療抵抗性への寄与が重要であるが、EVI1高発現が白血病幹細胞維持において果たす役割に関して網羅的に探索を行い、治療標的化を目的とした研究開発を行う。さらに、EVI1高発現白血病においてEVI1の高発現を維持する転写因子やエピジェネティクス異常の探索を介して、EVI1高発現を維持する機構を標的とする新規治療法の研究開発を行う。エピジェネティクス異常を有する急性骨髄性白血病および骨髄異形成症候群に関連した急性骨髄性白血病の治療標的探索においてはASXL1変異とRUNX1変異を共存して有する白血病マウスモデルを用いてASXL1変異がAMLに付与する難治性病態についてトランスクリプトームおよびエピジェネティクスから網羅的に解析することで明らかにし、治療標的化することを目的とした研究開発を行う。難治性急性骨髄性白血病の単一細胞解析から再発時に見出された複数の遺伝子発現異常について、ヒト白血病細胞においてこれらの遺伝子が治療抵抗性に寄与しているかを遺伝子阻害と化学療法をin vitroで行うことで網羅的に検証を行い、治療抵抗性急性骨髄性白血病の新規治療開発を行う。
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