研究課題/領域番号 |
21H04889
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中本 高道 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20198261)
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研究分担者 |
奥村 学 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60214079)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
41,860千円 (直接経費: 32,200千円、間接経費: 9,660千円)
2023年度: 15,080千円 (直接経費: 11,600千円、間接経費: 3,480千円)
2022年度: 15,210千円 (直接経費: 11,700千円、間接経費: 3,510千円)
2021年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
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キーワード | 香り近似 / 要素臭 / 嗅覚ディスプレイ / 自然言語処理 / 深層学習 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では香りに対する人間の印象をもとにして少数の要素臭による香りの再現を行い、さらに香りの言語表現をもとに香りを創作する機械を実現する方法を提案する。香りを再現するには少数の要素臭を調合して近似的に対象臭を表現し嗅覚ディスプレイにより再現する。また、香り記述子空間で香りの印象を指定すれば、逆にたどって多次元センシングデータを得ることができ、それを各要素臭データに分解してその要素臭構成比を多成分調合嗅覚ディスプレイに与えれば言語表現に相当する香りを創作する。
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研究実績の概要 |
2022年度はまず保留材の影響の除去の検討を行った。保留材は香水等に含まれており香りの効果を持続させる効果があるが、無臭であるためその影響を除去する必要がある。保留材を加えた精油から独立成分分析により香気成分を抽出して要素臭を作成し、香り再現を行った。精油のみから要素臭を作成し香り再現を行った場合とどちらがオリジナルの香りに近いかを官能検査により調べた結果、両者に有意差はなく保留材除去は有効であることがわかった。 嗅覚ディスプレイに関しては、可搬型20成分嗅覚ディスプレイを製作した。これは電気浸透流ポンプから電磁弁式マイクロディスペンサに香料を供給して射出させ、弾性表面波デバイスで霧化させる方式である。ポンプの印加電圧を可変にして駆動周波数に依らずに液滴の量を同じにできるようにした。 香りのクリエーションに関しては、本年度はマススペクトルから匂い印象を予測する方法の改善を行った。匂い印象のデータは2値スコアの方が連続値スコアよりも多くのサンプルが扱えるが、香りのクリエーションでは連続値スコアの方が都合がよい。そこで、Factorization machineを用いる方法により、数多くの記述子の2値スコアから比較的少数の連続値スコアに変換する方法を提案した。 自然言語処理に関しては,事前学習済み言語モデルに対し,匂いに関するドメインアダプテーションと単語レベルの対照学習を行うことで,匂い情報を獲得する手法TOLEを提案した.これは,先行研究ではword2vecから得た単語埋め込み表現が匂いの情報を獲得しているかの調査を行っているが,一般的なコーパスで学習を行った手法のため,匂いに関するコーパスの少なさから匂いの情報を多く保持できていないことによる.実験の結果,TOLEは匂いに関する記述子による匂いの埋め込み表現と言語の埋め込み表現の間の類似度を向上させることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無臭の保留材の影響除去は香水サンプルで重要になる。2021年度にはマススペクトル上で保留材の影響除去を確認でき、2022年度に官能検査でその効果を確認できた。2022年度では精油に保留材を加えて実験を行った。精油にはあらかじめ保留材が含まれておらず、香気成分のマススペクトルがわかっているので、保留材除去効果を確認できる。香水の場合はあらかじめ保留材が含まれているため、香気成分のみのマススペクトルは不明である。2022年度に、保留材除去の効果を数値解析だけでなく官能検査で確認できたので、今後香水の香り再現実験に進むことができる。 嗅覚ディスプレイに関しては、実演等にも使用できる装置を2022年度に開発することができた。今後はこの装置を使用して官能検査を行うことができる。官能検査はこれまで液体レベルで調合してサンプルを作成していたために時間がかかり効率が悪かった。2022年度に自動化を行っただけでなく、電磁弁式マイクロディスペンサの個体差を補正する方法も確立することができた。今後は嗅覚ディスプレイで簡単にサンプルを切り替えて被験者に提示できるので、官能検査データの効率的な収集が期待できる。 香りのクリエーションに関しては、マススペクトルから匂い印象予測の部分に2022年度は集中した。今年度は要素臭を使用した調合を嗅覚ディスプレイで実際に行い、作成した香りの官能評価までを行う予定である。 自然言語処理に関しては,今年度までの2年間で,これまでのword2vecのような単純な単語埋め込みではなく,文脈を考慮できる事前学習済みモデルを元にした単語埋め込みを,領域適応及び対照学習を用いて改良することで,匂いに関するより高精度の単語埋め込みを実現することができている.
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今後の研究の推進方策 |
まず、香水に関してはサンプル数を150種類程度まで増やして質量分析器による測定を行う。そして、保留材の除去及び要素臭作成を行ったのちに香り再現の官能検査を行う。この官能検査は20成分調合嗅覚ディスプレイを用いて行う予定である。 嗅覚ディスプレイはもう少し持ち運びしやすくなるように、外付けの発振器、RFパワーアンプを内蔵できるように検討する。また、インクジェット素子も一部の成分で使用できるようにして、調合比率のダイナミックレンジの拡大を図る。 香りのクリエーションに関しては、実際に香りを生成するシステムまで作成する予定である。これまでのシステムは、匂い印象に対応するマススペクトルを生成するところまでしかできなかった。今後はそれを進めて、香りレシピを求めて嗅覚ディスプレイで香りを生成するところまでをできるようにする。これまでは香り印象結果の誤差にもとづきマススペクトルを更新していたが、フィードバックの方法を変更して要素臭同士の構成比を更新するようにする。これまではマススペクトルは求まってもそれを実現するために多くの成分が必要となる場合もあった。その都度必要な成分を用意する要素臭同士の構成比にフィードバックすることにより、その問題の改善が期待できる。 自然言語処理に関しては、今年度までの2年間で実現した単語埋め込みのさらなる改良とともに,この単語埋め込みを用いた匂い予測モデルの完成を目指す.
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