研究課題/領域番号 |
21H04894
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 裕一 京都大学, 学術情報メディアセンター, 教授 (40227947)
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研究分担者 |
秋田 純一 金沢大学, 融合科学系, 教授 (10303265)
森本 淳 京都大学, 情報学研究科, 教授 (10505986)
戸田 真志 熊本大学, 半導体・デジタル研究教育機構, 教授 (40336417)
安 ち 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (70747873)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,470千円 (直接経費: 31,900千円、間接経費: 9,570千円)
2024年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2023年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2022年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2021年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
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キーワード | 動作支援 / 動作予測 / 体性感覚呈示 / QOLモニタリング / 筋電位計測 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題では,パワーアシストのような動作支援機器が単に装着者の動作を補助するだけでなく,装着者に自尊心を保たせつつ安定した支援が可能となること,その結果として自信や達成感が増強されるように設計を行い,その効果を検証することを目的とする.そのために,(a) 姿勢や筋活動の計測,(b) 皮膚感覚や関節の拘束感などの体性感覚と弱い力を用いた柔らかい支援呈示,(c) 筋活動,生理的計測,表情などの外部表出,またQOLモニタリングを活用する.
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研究実績の概要 |
令和5年度は,以下の取り組みを行った. 1) ユーザの動作意図認識および動作予測: 筋電位による筋活動計測および姿勢計測に基づき,DNNを用いた予測が可能であることを検証してきた.筋シナジーを利用することにより,ゆっくりした動作であれば,500msecぐらいまでの動作予測が可能であること,急激に筋活動が起こる場合には,予測できる範囲が100-400msec程度とばらつくことがわかった.また,アシスト機器は複数日から長期間に渡る利用が想定されるため,そのための手間のかからないキャリブレーション方法について提案した. 2) 立ち上がり支援のための複数機器の協調制御とアシスト時の動作状態の計測・認識: (1)で実装した動作予測を用いて,イス型の立ち上がり支援デバイス,および,人工筋による膝のパワーアシスト機器を協調的に動作させる制御を実装した.また,イス型のアシスト機器を動作させながら,装着者の動作を計測し,動作状態の変容を計測してきた.現在,パワーアシストシステムを人間機械系として動作させながら,筋シナジーを大きく変化させないパラメータを探索問題と求めるための実験系を構築し,その有効性を確認している. 3) 自己効力感を高めるためのシステム設計と表情・心拍による内部状態の計測: 動作中の筋活動の状態を音に変換して装着者にフィードバックする手法,着脱を容易にするための装具の設計など,自己効力感やQOLを高めるための種々の試みを開始し,検討・実験を行っている.装具については英国ブリストル大学と協力しながら進めており,装着を改善するだけでなく,装着者とシステムのインタラクションを可能にする設計を取り込んでいる.表情の計測については,ポジティブ,ネガティブ両面で,粒度の細かい識別が可能であることを実証してきており,動作にともなう心理状態やQOLの評価に利用可能な段階になってきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
a) パワーアシスト機器がユーザの意図に応じて動作する計測・制御について,概ね実現可能性を示すことができた.筋活動計測を用いることによって動作予測が可能であること,それによってアシスト機器起動に対する遅延補償が可能であることを示してきた.立ち上がりのように急激に筋活動が起こる場合には,各筋シナジーを予測できる範囲が100-400msec程度とばらつくことが実験により示された.しかし,アシストが必要な動作段階ごとに分析すると,概ねパワーアシスト機器動作に関する種々の遅延 (計測,通信,DNN計算,機器動作)をカバーできることがわかってきている. b) アシスト機器の制御に応じてユーザの振る舞いの変化について,力学的,運動生理学的な分析が進んできた.以前から,アシスト機器が支援している状態で筋活動を計測し,筋活動の絶対量を分析することを行ってきた.それに加え,筋シナジーの観点から動作変容を計測することにより,ユーザが自然に (動作戦略を変えることなしに)アシストを受け入れられるかどうかなど,アシストの受け入れやすさや違和感などを議論する基礎が整ってきた.それにより,筋シナジーの変容の観点から,動作予測の精度や,先回りして,または遅れてアシスト機器を動作させることがユーザへに対して及ぼす種々の作用・効果を分析することが可能になってきた. c) アシスト機器の振る舞いやフィードバックがユーザの自己効力感や心理的な状態に与える影響について計測するための基礎を構築しつつある.ユーザの筋活動など,言葉では説明しにくい直接的な動作状態を音などに変換して直感的にフィードバックする手法などを実装している途中である.また,ユーザの状態を表情認識と心拍計測により観測する手法を開発している.これらの手法では時間的な粒度を細かくできるため,アシスト時のユーザの状態をより詳細に分析できる.
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今後の研究の推進方策 |
1) 運動主体感・自己効力感を損なわないアシストのためには,ユーザの動作意図の認識および動作予測を行うことが最も重要な項目となる.現在,これらを実現する目処ができた状態となっている.次の段階として重要となるのは,機器の制御がユーザに及ぼす影響を計測・分析することであり,アシスト中のユーザの動作状態,および,心理的な状態を計測することとなる.ユーザの動作予測に応じて,アシストのタイミング,強度を変えながら,動作状態の変容を分析することなどを,理研,東大,京大大学院生2人と協力して検討・実験を始めており,これらを進めていくことにより,多くの知見が得られることが期待できる. 2) ユーザの自己効力感を維持するためには,自分の状態を認知してもらいながら,励ますことなどが必要となる.この方法についても検討・実験を始めており,種々の知見が得られることを期待している.さらに,経時的な変化を評価するなど,より主体的な運動を促すための分析とその提示方法について種々の試みに着手する予定であり,フィードバック及び分析に基づいた励ましなどが,QOLを高めることに寄与することを目指す. 3) パワーアシスト機器を家庭環境などで安全に利用するための環境整備は本研究課題の範囲を越えているが,ユーザが安心して動作できるようなプロトコルを設定すること自体は自己効力感やQOLに大きく関わる.そのため,上記(1)の動作状態認識・予測に応じてアシスト機器の動作を,アシスト,抑制,何もしない,と選択しながら,なぜ選択したかを上記(2)によって説明するプロトコルを設計することが本研究の目標に合致する.そのための検討・実験を大学院生とともに始めている.さらに,着脱を容易にするための装具の動作をこれらのプロトコルに含めることにより,より直感的な動作が可能となり,運動主体感・自己効力感の補強が期待できる.
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