研究課題/領域番号 |
21H04938
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大友 順一郎 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (90322065)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
34,580千円 (直接経費: 26,600千円、間接経費: 7,980千円)
2024年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2023年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2022年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2021年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
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キーワード | 電気化学的促進効果 / 窒素還元 / 二酸化炭素還元 / エネルギー化学物質 / 電気化学反応装置設計 |
研究開始時の研究の概要 |
高いエネルギー密度と可搬性を有するエネルギー化学物質(アンモニア、炭化水素、アルコール等)の新規な電解合成手法を実現するために、電極電位制御による新規な電極触媒反応場を構築し、高効率で小型かつ高速起動が可能な3次元型電気化学反応装置の開発による窒素および炭素の循環手法の確立を目的とする。すなわち、反応を加速化する分極反応場をイオン・電子輸送制御の観点から構築し、再生可能エネルギーの変動に対応した柔軟な操作性と高速製造能を有する低炭素・循環型社会の実現に資する次世代型の反応器システムの構築を行う。
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研究実績の概要 |
電気化学的促進効果を利用した電気化学反応装置の開発を目的として、2年目である令和4年度は、プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)による電気化学セルの作製を行うとともに、窒素および二酸化炭素の電解合成の実験を行った。今年度はアンモニアの電解合成反応を中心に検討を進めた。通常のPCFCは500℃~600℃で作動するが、400℃近傍で作動させるために電解質の膜厚を薄くした電極支持型PCFCを新たに作製し、作動温度の低温化を試みた。電極支持型PCFCによる電解セルは、イットリウムドープセリア酸バリウムあるいはイットリウムドープジルコン酸バリウムを電解質膜に用いて作製した。支持体である電極部分にはニッケルとイットリウムドープジルコン酸バリウムの混合体である多孔質電極を用いた。カソード側に窒素と水素の混合ガスを流通させて400℃でアンモニア電解合成を行ったところ、カソード分極とともにアンモニア生成速度が上昇し、印加電圧-1 Vにおいて約1×10-8 mol s-1 cm-2 のアンモニア生成速度が観測された。この測定結果は、550℃での電解質支持型セルによる観測結果とほぼ同等であり、電極支持型電解セルにより低温化を実現できた。電流―電圧曲線との比較から、アンモニア生成反応の電気化学的促進効果は、電極界面のプロトン流束の増加よりもむしろカソード分極の影響が大きいと考えられる。さらに、電極支持型電解セルの性能向上を目指し、パルスレーザー堆積法を用いてバリウム系およびランタン系プロトン伝導体を用いた電解質積層形PCFCを作製した。その結果、ホール伝導に起因する電解質内部のリーク電流の抑制がモデル計算と実験結果から示唆された。さらに、水蒸気電解反応を想定したシステム評価の研究も実施した。以上の検討を通じて、電気化学的促進効果を利用した電解セルの設計にむけた指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電解セルのコンセプトを発展させ、昨年度の電解質支持型から今年度は電極支持型の電解セルを用いた電解合成の研究を実施した。電極支持型電解セルについては、電解質スラリーをスピンコートによって成膜することで電解質を薄膜化し、電解質の低抵抗化を実現した。また、アノードに鉄系の電極を用いることでアノード過電圧を減少させた。電解質の薄膜化とアノードの高性能化によりセル全体の過電圧はカソードに印可される構造ができあがった。その結果、PCFCの作動温度としては非常に低い400℃近傍の温度域でも高いアンモニア生成速度を観測することができた。この観測結果は、本研究における顕著な成果として位置づけられる。また、電極支持型電解セルの設計指針を精密化するためにパルスレーザー堆積法による電解質薄膜を積層させた積層形電解セルのプロトタイプを作製することができた。これらの検討を通じて、低温域で電気化学的促進効果を利用した高性能電解セルの開発が可能になる。また、反応機構の解明に向けて赤外分光セルの開発を進めている。分極下における電極反応のその場測定により電気化学的促進効果の直接観測が期待される。PCFCの電極―電解質界面におけるアンモニア生成機構については、密度汎関数法により新たな反応ルートを見いだした。さらに、電解合成システム設計の観点から、水蒸気電解セルのシステム評価の研究を進展させ、物質収支と熱収支の観点から水素生成反応の最適化研究を実施した。以上の検討を通じて、電解セルの低温化に基づくアンモニア電解合成反応は大きく進展し、本研究課題は計画以上の成果が得られたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
3年目である令和5年度は、電極構造の最適化と電極材料の依存性について検討する。これまでに構築した電解質薄膜化の手法を踏まえ、電極支持型電解セルの作製を進めるとともに、電極触媒の検討を進める。アンモニア生成反応では、電気化学的促進効果が大きいことが明らかになったが、同様の効果が二酸化炭素の場合でも進行するか検討を進める。一室型の電解セルの検討が中心であるが、二室型の電解セルの構築にも着手し、水蒸気電解と窒素、及び二酸化炭素の還元実験についても検討を開始する。PCFCを電解セルに用いた場合、水蒸気電解時のホール伝導によるリーク電流の影響が大きくなると考えられる。この現象を検討するために、電解質薄膜を積層した積層形PCFCによる水蒸気電解の検討を進める。また、赤外分光による反応機構の解明を進める。透過型および拡散反射型の分光セルにより分極化での中間体の検出を行い、電子移動過程を含む電気化学的促進効果について観測を行う。以上の検討を通じて、作動温度の低温化と高性能化の両者を実現する電解セルを提案する。
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