研究課題/領域番号 |
21H04962
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京医科歯科大学 (2022-2024) 京都府立医科大学 (2021) |
研究代表者 |
内田 智士 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (20710726)
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研究分担者 |
阿部 洋 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80415067)
弓場 英司 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80582296)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
41,860千円 (直接経費: 32,200千円、間接経費: 9,660千円)
2024年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2023年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2022年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2021年度: 12,610千円 (直接経費: 9,700千円、間接経費: 2,910千円)
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キーワード | mRNA医薬 / 中分子医薬 / mRNA工学 / RNA工学 / ワクチン / 薬物送達システム |
研究開始時の研究の概要 |
mRNAワクチンの実用化を受け、今後感染症予防ワクチン以外の分野も含め、mRNA医薬の開発が加速すると想定される。様々な分野へmRNA医薬を展開する際、複雑な送達システムが必要となるほか、mRNAの生物学製造が煩雑であるといった問題がある。これらの問題に対して、本研究では、短鎖の『中分子mRNA』を化学的に合成するほか、送達に必要な機能をmRNAに組み込むことでキャリアフリーmRNA送達を行う。さらに、疾患治療モデルを用いて、中分子mRNAの有用性を実証する。
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研究実績の概要 |
COVID-19に対するmRNAワクチンの成功を受け、mRNAワクチン、医薬品の開発が盛んである。一方で、現在用いられているmRNAには、長鎖の2本鎖RNAや未キャップRNAといった副生成物が多量に混入しており、自然免疫応答を惹起し、翻訳過程を阻害するといった問題を引き起こしている。さらに、長鎖のmRNAを分解酵素から保護するためには、カチオン性輸送担体が必要となるが、輸送担体は組織傷害、毒性の原因となる。 これらの課題に対して、まず、mRNAを短鎖化し、完全化学合成を実現した。化学合成したmRNAは、従来法で調製したmRNAと比べ、培養細胞中で最大で5倍以上のタンパク質発現活性を示した。更に、皮膚がんの腫瘍関連抗原のがんエピトープを発現する短鎖mRNAを調製し、がんワクチンへ展開した。送達担体を用いることなく、組織透過性を向上させるための特殊な装置を用いて、皮内へmRNAを送達することで、優れた抗腫瘍効果を得ることに成功した。 また、並行して、mRNA自体の機能向上も試みることで、輸送担体を用いないmRNA送達技術の構築も行っている。ここでは、独自に開発した相補鎖RNAを用いたmRNAの修飾を行った。この方法では、相補鎖長を17塩基にすることで、mRNAの翻訳活性を損なうことなく、mRNAに様々な機能性修飾を行うことができる。本研究では、この方法を応用し、mRNAを新たな方法で構造化することで、酵素分解耐性を向上することに成功した。その他に、mRNAに様々な親水性ポリマーを結合させた際の効果に関して、有望な知見を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、完全化学合成したmRNAを、輸送担体を用いることなく投与することで、治療効果を得ることを目的としていた。その中で、完全化学合成mRNAを用いることで、従来法で調製したmRNAを上回る機能を得られ、更に、完全化学合成mRNAを用いたがんワクチン治療に成功した。特に、がんワクチン治療は、腫瘍関連抗原を標的とした実際の臨床を反映したモデルであり、その価値は非常に高い。このように、当初の研究目標に対するproof of conceptを2年間で得ることに成功したので、当初の計画を上回る進捗であるといえる。 その他に、並行してmRNA自体の機能向上の技術開発でも有望な成果が得られ、輸送担体を用いないmRNA送達に向けた基盤も構築されている。また、mRNAの純度、副生成物がその機能に及ぼす影響についての知見も得られた。この成果は、高純度mRNAの医療応用を目指す本研究の意義を補強している。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように既に本研究全体のproof of conceptが得られたが、今後はその成果をより深めることに注力する。まず、治療応用に関して、ペプチドを発現する短鎖mRNAのワクチン以外への応用を模索する。ここで、ペプチドを用いて生理活性を得るためには、ペプチドの構造安定化が必要となる。ペプチド医薬の多くは、非天然アミノ酸の導入や環状化等の手法で、構造安定化を行っているが、mRNAからは天然直鎖のペプチドが生成する。このような課題を克服するための配列設計を検討するほか、実際に生体内で機能している生理活性ペプチドの活用を試みる。培養細胞モデル系を用いて、様々なmRNAの機能検証を行い、そこで優れた成果が得られた場合は、in vivoへと展開する。 また、mRNAの設計技術に関して、相補鎖を用いた修飾技術で、酵素分解耐性を向上させるための基盤を構築している。今後は、実際の治療応用で検討するin vivo投与系において、その機能を検証する。mRNA単体での投与のほか、毒性の原因となるようなカチオン性脂質やポリマーを用いない輸送担体の検証を行う。まず、レポーターを用いた評価系が十分な長鎖mRNAを用いて検証し、優れた成果が得られた際は、短鎖mRNAの系に落とし込む。 短鎖mRNA機能に関する生物学的なメカニズム検証も重要である。既に長鎖mRNAと短鎖mRNAの細胞内での翻訳機構の違いに関する知見を得ており、今後、この知見を深める。
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