研究課題/領域番号 |
21H04974
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
足立 伸一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 理事 (60260220)
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研究分担者 |
野澤 俊介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (20415053)
板谷 治郎 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50321724)
片山 哲夫 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 主幹研究員 (90648073)
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研究期間 (年度) |
2021-05-18 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
628,420千円 (直接経費: 483,400千円、間接経費: 145,020千円)
2024年度: 65,650千円 (直接経費: 50,500千円、間接経費: 15,150千円)
2023年度: 180,960千円 (直接経費: 139,200千円、間接経費: 41,760千円)
2022年度: 176,150千円 (直接経費: 135,500千円、間接経費: 40,650千円)
2021年度: 146,510千円 (直接経費: 112,700千円、間接経費: 33,810千円)
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キーワード | X線 / 時間分解 / 放射光 / 反応ダイナミクス / 物理化学 / ダイナミクス / 溶液散乱 / 構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
我々がこれまでに開発を進めてきた時間分解X線溶液散乱法は、溶液中の分子構造変化を直接観測できる他に類をみない計測手法である。本研究課題では、X線散乱計測におけるサンプリング周波数を従来から約3桁向上させることにより計測のS/N比を約30倍改善し、第1から第3周期の軽元素のみから構成される分子においても、溶液中の分子構造変化をX線散乱により直接観測することに挑戦する。これにより、本計測手法が適用できる分子種の範囲を画期的に拡大し、超高速分子構造科学における新しい研究分野創成を牽引する。
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研究実績の概要 |
これまで我々の研究グループでは、時間分解X線溶液散乱手法により、フェムト秒からピコ秒オーダーの溶液中における超高速分子構造変化を明らかにしてきた。本計測手法の現状での最大の課題は、従来法におけるS/N比の制限により、実験試料となる分子内に金(Au)やヨウ素(I)といった元素周期表の第5、第6周期より下に位置する比較的重い元素が含まれていなければ、計測が実現しないという点にある。本研究課題では、X線散乱計測におけるサンプリング周波数をkHzオーダーからMHzオーダーへと約3桁向上させることにより、計測のS/N比を約30倍改善し、軽元素のみから構成される分子の溶液中の分子構造変化をX線散乱により直接観測することに挑戦している。この手法アップグレードにより、本計測手法が適用できる分子種の範囲をより低分子の領域にまで拡大し、超高速分子構造科学における新しい研究分野を創成することを目指している。 MHz繰り返し測定に適した励起光源として、最大平均出力80W、最大繰り返し周波数2MHz、最大パルスエネルギー2mJの高出力フェムト秒レーザー(Light Conversion社CARBIDE)を導入し、さらにこのレーザー装置を、ビームラインの性能仕様に合わせたシステムとして整備を完了した。また高分解能光子計数型二次元X線検出器(DECTRIS社EIGER2X 1M)を導入し、パルスレーザー光と同期したkHzからMHz繰り返しのX線パルス毎の散乱イメージを取得・積算することに成功した。これらの計測システム整備を基盤として、後半の2年間で、MHz繰り返しの時間分解X線溶液散乱の研究成果の創出に向けて鋭意取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者らは、2003年より、KEKのPF-ARのビームラインNW14Aにおいて、ピコ秒オーダーの時間分解X線溶液散乱計測のためのビームライン整備に取り組んできたが、本研究課題では、軽元素のみから構成される分子の溶液中の分子構造変化をX線散乱により直接観測することを目標に掲げて、これまでの3年間でMHz繰り返し時間分解X線溶液散乱測定の準備を継続的に進めてきた。今年度は、大型装置の調達・導入と、それらの装置をビームラインの繰り返し周波数等の個別仕様に合わせたシステムとして動作させるための環境整備を進めた。また高速読み出しX線検出器として、高分解能光子計数型二次元X線検出器(DECTRIS社Eiger2 1M)の導入作業を完了した。また、既存のX線自由電子レーザー施設を活用した時間分解溶液散乱実験を進めた。 上記の装置整備と並行して、超高速分子分光学の専門家と連携しながら、我々の測定に適した軽元素のみから構成される有機分子の探索を進めている。具体的には、分子内にドナーとアクセプターを有し、光励起状態で過渡的に電荷分離状態を形成する有機分子や、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence (TADF))を示す有機分子などの検討を進め、いくつかの測定試料の準備を行った。 これまで3年間に実施してきた計測システム整備を基盤として、後半の2年間で、MHz繰り返しの時間分解X線溶液散乱の研究成果の創出に向けて鋭意取り組む予定である。これらの取り組みの成果を踏まえて、本研究課題の進捗状況については、当初の計画通り概ね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進においては、これまでの前半の3年間の装置整備の完了を踏まえて、後半の2年間では、軽元素のみから構成される測定試料として、どのような分子が最初にデモンストレーションするのに適切かを考慮しつつ、新しい時間分解X線散乱計測の実現に向けて挑戦する。 超高速分子分光学の専門家と連携しながら、我々の測定に適した軽元素のみから構成される有機分子の探索を鋭意進めている。具体的には、分子内にドナーとアクセプターを有し、光励起状態で過渡的に電荷分離状態を形成する有機分子や、熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence (TADF))を示す有機分子などを候補とし、いくつかの測定試料の検討を行った。光励起状態で過渡的に電荷分離状態を形成する有機分子としては、これまでに超高速分子分光で計測が行われている、ビアントリル(Bianthryl)やフェノールブルー(Phenol Blue)を測定試料として時間分解X線溶液散乱実験を行った場合のX線散乱強度のシミュレーションを行ったところ、基底状態と励起状態の間で、試料と溶媒との相互作用の構造変化に伴うX線散乱強度の変化が検出できる可能性があると見込まれたことから、令和6年度中に試験的な時間分解X線溶液散乱実験を行うこととした。また、TADF分子としては、2012年に九州大学の安達教授らによって報告された4CzIPN分子についても同様に検討を行った。この分子ではドナーとしてカルバゾール(carbazole:Cz)基と、アクセプターとしてイソフタロニトリル(isophthalodinitrile:IPN)を持つドナー・アクセプター構造を有しており、こちらも有力な測定試料の候補と考えている。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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