研究課題/領域番号 |
21H04980
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分A
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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研究分担者 |
木村 勝彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70292448)
坂本 稔 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60270401)
箱崎 真隆 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30634414)
佐野 雅規 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 特任准教授 (60584901)
庄 建治朗 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283478)
若林 邦彦 同志社大学, 歴史資料館, 教授 (10411076)
藤尾 慎一郎 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30190010)
中久保 辰夫 京都橘大学, 文学部, 准教授 (30609483)
小林 謙一 中央大学, 文学部, 教授 (80303296)
松木 武彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (50238995)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
188,890千円 (直接経費: 145,300千円、間接経費: 43,590千円)
2024年度: 34,060千円 (直接経費: 26,200千円、間接経費: 7,860千円)
2023年度: 33,540千円 (直接経費: 25,800千円、間接経費: 7,740千円)
2022年度: 33,540千円 (直接経費: 25,800千円、間接経費: 7,740千円)
2021年度: 52,780千円 (直接経費: 40,600千円、間接経費: 12,180千円)
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キーワード | 年輪年代法 / 酸素同位体比 / 気候変動 / 人口 / 日本列島 / セルロース / 農業生産 / 人口変動 / シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
中世以前の日本列島を対象に、気候・生産・人口の変動史を定量的に明らかにする研究手法を確立する。そのために酸素同位体比を用いた年輪年代法を土台にして、2つの研究手法、即ち「遺跡出土木器の個別年輪年代データの集積による遺跡毎・地域毎の木器の年別出現数ヒストグラム」と「高精度古気候復元データを使った生産量と人口の変動シミュレーション」を実現する。両者の成果を統合し、酸素同位体比年輪年代法によって暦年代が付与された多くの考古資料や文献史料とも照合することで、歴史に対して「仮説提案・検証型」の新しい定量的な研究方法論を創出する。
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研究実績の概要 |
年輪年代法は、木質遺物に年単位の年代を与えると共に農業生産や人口に影響する気候変動を復元できるので、気候変動に起因する生産や人口の変動の推定(「生産と人口のシミュレーション」の実施=仮説の提案)と木器の年毎の出現数に表れた生産や人口の変動の計測(「木器の年別出現ヒストグラム」の構築=仮説の検証)の双方向の研究を可能にする。特に年輪セルロース酸素同位体比を使うことで、近年日本でも広葉樹材や小径材の年代決定と夏の気候の年単位での復元が可能になり、歴史と気候の間の密接な関係性が明らかになりつつある。 本研究では年輪セルロース酸素同位体比の経年変化に加えて、その年層内変化のマスタークロノロジーを構築することで、年輪数の少ない出土材の年代決定を成功させると共に、その年層内変化から個々の洪水や干ばつ等の気象災害の発生まで明らかにすることで高精度の気候・生産・人口の変動シミュレーションを行うことを目指している。 当該年度には、このような方針のもとで、3つの角度から研究を進めてきた。 1.弥生~古墳時代における数十年周期での気候変動の激しい時代を中心に、愛知県の安城市の遺跡群や京都府の遺跡群など様々な遺跡の出土材を用いて年層内変動のクロノロジーを構築してきた。 2.遺跡毎・地域毎の出土木器の年別出現ヒストグラムを作成するために、小径木を含む様々な木材の年代決定を進めてると共に、気候変動が農業生産や人口の変動に与えた影響をシミュレーションするために河内平野など地域を絞って、水害と遺跡動態の関係などを検討してきた。 3.酸素同位体比年輪年代法の分析・解析のための技術を、自治体の埋蔵文化財センターや民間の環境分析会社、大学の考古学教室などの関係者に広めるため、コロナウィルスの感染対策に留意しながら、複数回に亘って講習会を開催してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「生産と人口のシミュレーション」については、特に数十年周期の気候変動の振幅拡大が起きた紀元前4-3世紀、紀元2世紀、6世紀などを対象に、それらの変動を計算することで、各時代における難民発生や住居移転の可能性を議論すると共に、弥生時代の広域の地形復元が進んでいる大阪府・河内平野において、空間的シミュレーションの前提となる地形と水害の関係のモデル化などの作業を進めている。 「木器の年別出現ヒストグラム」については、その前提として、全国各地の遺跡出土材の年代決定を進めると同時に、コロナウイルスの感染防止に留意しながら酸素同位体比年輪年代法の講習会を複数回開催し、技術の普及に努めてきた。同時に「現代~弥生時代」および「弥生時代~縄文時代中期」の長期クロノロジーを国際誌に発表して、国内外の関係者による成果の直接利用を可能にした。 さらに、ヒストグラムをより早く構築するために、大量の木材が出土した遺跡からの多数の資料の収集とその網羅的な年代決定、および、年代決定の確度を向上させるための酸素同位体比の年層内変動の分析を進めた。前者については、弥生~古墳の様々な時代の木材が出土した京都府城陽市の小樋尻遺跡や、弥生時代の矢板列を中心に莫大な数の木材が出土した福岡県北九州市の屋敷遺跡などから、多数の貴重な出土材を収集して分析を進めている。後者については、現生の様々な樹種の木材を用いた基礎的検討を進めると共に、酸素同位体比年輪年代法で年代が決まっている近畿・東海のさまざまな出土材を対象にして、セルロース酸素同位体比の年層内(6分割もしくは2分割)データの取得を進め、特に古墳時代前期のさまざまな層位から大量の木器が出土している愛知県安城市の矢作川流域の遺跡群の資料などを対象に、クロノロジー構築に向けた年層内変動のデータベースの作成を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、以下の3つの項目に並行して取り組む。 1.年輪酸素同位体比の「経年変動クロノロジー」と「年層内変動クロノロジー」の構築と拡充。2.遺跡出土材の網羅的な年代決定(遺跡毎・地域毎の木器の年別出現ヒストグラムの作成)と、さまざまな時間・空間のスケールで起きる気候変動が農業生産や人口の変動に与えた影響の解析(シミュレーションモデルの拡充とそれを用いた様々な計算)及び両者の比較統合。3.酸素同位体比年輪年代法の技術移転のための、地方自治体の埋蔵文化財センターや民間の分析会社の職員や考古学や自然科学の院生・学生に対する、定期的な講習会の開催。 また本研究の中で明らかとなってきた、以下の3つの点にも留意しながら、研究を進める。 A.気候と社会の定量的関係を議論している欧米の考古学・歴史学・古気候学の研究者らとの共同研究 B.酸素同位体比の気候成分の抽出のために必要な水素同位体比の分析条件の改良 C.農業生産力の長期変動モニタリングに必要な堆積物に含まれる作物由来物質を測定する研究との連携
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A-: 研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる
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