研究課題/領域番号 |
21H04989
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中畑 雅行 東京大学, 宇宙線研究所, 教授 (70192672)
|
研究分担者 |
小汐 由介 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (80292960)
池田 一得 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (90583477)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
198,900千円 (直接経費: 153,000千円、間接経費: 45,900千円)
2024年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2023年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2022年度: 51,220千円 (直接経費: 39,400千円、間接経費: 11,820千円)
2021年度: 123,500千円 (直接経費: 95,000千円、間接経費: 28,500千円)
|
キーワード | ニュートリノ / 超新星爆発 |
研究開始時の研究の概要 |
超新星爆発は大質量星の中心核が重力崩壊することをきっかけとして起こると考えられており、その爆発エネルギーのほとんどはニュートリノによって10秒程度で放出される。そして星の内部で衝撃波が伝搬し、数分から数十時間後に星から光が放出される。本研究ではスーパーカミオカンデにガドリニウムを導入することによって性能を向上させ、ニュートリノ事象を使って超新星の方向を正確かつ迅速に決定する。それを光学望遠鏡等を用いた観測者へいち早く知らせることによって連携観測をおこなう。
|
研究実績の概要 |
Super-Kamiokandeでは、2020年に硫酸ガドリニウム八水和物の総重量にして約13トンを初導入して、0.01%のガドリニウム濃度で約50%中性子捕獲効率を達成した。その後、約2年間にわたり安定したデータ取得を継続できた。2021年にはより放射性不純物の少ない硫酸ガドリニウム八水和物を安定して製造することに成功した。2022年には、納品された硫酸ガドリニウム八水和物の全ロットに対し、品質確認を行い我々の要求を満たすものであることを確認した。2022年6月から7月には、硫酸ガドリニウム八水和物の総重量にして約26トンを追加導入して、 0.03%のGd濃度で75%の中性子捕獲効率を実現させることができた。以降、安定したデータ取得のために、硫酸ガドリニウム溶解させた水の循環純化装置の改良および保守を行っている。 超新星爆発方向決定プログラムの改良では、ガドリニウムによる中性子捕獲信号を使って逆ベータ反応事象をタグし、電子散乱事象と区別することで、方向決定精度を向上させた。さらに、超新星爆発方向計算プログラムの改良により、これまで約10分かかっていた計算を数秒で行うことができ、かつ方向決定精度もより良い結果を得ることに成功した。2023年は、この新しい計算手法を超新星爆発モニターに実装を行った。 一方で、ハードウェアの改良では、これまで計算時間のボトルネックとなっていたディスクアクセスの向上のために、2022年にSSDの導入を行い、2023年にはモニタープログラムの並列処理の最適化を行うことで、計算時間の短縮を行った。これらの改良により、超新星爆発方向を含めた情報を世界発信するまでの時間が、これまで1時間かかっていたところを大幅に短縮して数分で行えるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を申請した際には、2021年度(令和3年度)に高純度硫酸ガドリニウム八水和物を製造し、2022年度(令和4年度)には0.01%から0.03%ガドリニウム濃度になるように硫酸ガドリニウム八水和物を導入するという予定であった。また、その期間に早期に超新星爆発を検知するシステム(SNWATCH)を構築するという予定であった。26トンの硫酸ガドリニウム八水和物製造では、開発した新しい製造方法を用いて、より品質の良い硫酸ガドリニウムを製造することに成功した。2022年6月1日から7月5日にかけて導入が行われた。これらは年次計画に沿っており、遅れはない。その後、水の透過率も同年9月初めごろまでには安定し、その後各種検出器の較正が行われ、順調にデータ取得が行われている。 また、SNWATCHにおいては、精度の向上と計算時間の短縮に成功している。具体的には、ガドリニウムによる中性子捕獲信号を使って逆ベータ反応事象をタグし、電子散乱事象と区別することで、方向決定精度を向上させ、モデルによっては10kpcの超新星方向決定精度を3度以内という目標を達成できた。一方で、HEALPIXという天文分野で広く使われているスカイマッピングツールを用いる新たな手法を開発し、これまでの最尤法を用いたプログラムと組み合わせ、約10分かかっていた計算を数秒で行うことに成功した。ハードウェアの改良では、これまで計算時間のボトルネックとなっていたディスクアクセスの向上のために、SSDの導入を行った。2023年には、上述の新しい方向計算プログラムの実装と、増設されたSSDを用いた並列処理の最適化を行うことで、計算時間の短縮に成功した。 以上のように研究は当初予定したスケジュールで順調に進んでおり、達成度は「順調に研究が進展しており、期待どおりの成果が見込まれる」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
硫酸ガドリニウム八水和物のSKへの導入は順調に完了した。また、これまで解析にかかる時間においてボトルネックであった超新星爆発方向計算の改良も成功し、数秒で計算結果を出せるようになった。今後の研究目標は主に次の3点である。 1)事象再構成及び事象弁別プログラムの高速化 2)オフライン解析手法の確立 3)マルチメッセンジャー天文の推進 ここで、1)の事象の再構成と事象弁別プログラムは、10kpc超新星爆発の場合、およそ1分かかっており、新たなボトルネックとなっている。方向計算と同様な手法を用いて高速化を行い、全体として観測から情報発信までの時間を1分程度に短縮する。24年度にプログラムの改良を行い、25年度の実装を目指す。2)では、超新星爆発アラームの後、より詳細かつ正確なデータ解析を行い、超新星ニュートリノの性質に関する情報を早急に論文にまとめるための準備を行う。そのため、24年度は、これまでに観測された数Mpc以内で起こった比較的近傍の超新星爆発(年に数回の頻度で起こっている)について、それら起源のニュートリノ探索を行うことで、取得した事象のエネルギー・位置・方向・時間をより迅速に正確に決定するための手順を固める。3)では、情報の早急な発信と受信を行うため、国内外を問わず観測・理論の両面での超新星爆発研究コミュニティとの連携をより一層強化していく。それにより超新星爆発におけるマルチメッセンジャー天文を推進していく。24年度は、ASSASN及びTomo-e Gozen 望遠鏡との連携を進める。並行して、理論の研究者も含めて研究会を開催する等して、マルチメッセンジャー天文の推進を行う。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
|