研究課題/領域番号 |
21H04990
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関 真一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70598599)
|
研究分担者 |
有田 亮太郎 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (80332592)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
187,980千円 (直接経費: 144,600千円、間接経費: 43,380千円)
2024年度: 17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2022年度: 101,010千円 (直接経費: 77,700千円、間接経費: 23,310千円)
2021年度: 34,710千円 (直接経費: 26,700千円、間接経費: 8,010千円)
|
キーワード | スピントロニクス / 反強磁性体 |
研究開始時の研究の概要 |
現在の磁気記憶素子で用いられている、スピンが平行に整列した強磁性体では、時間反転対称性の破れに起因して、磁気情報の保持・読み出し・書き込みが可能となっている。一方、スピンが反平行に整列した反強磁性体の場合、通常は時間反転対称性が保たれており、強磁性体と同様のアプローチによる情報処理は不可能である。しかし最近の理論研究によると、特殊な結晶構造を利用すれば、実は単純な反平行スピン構造であっても時間反転対称性を破れることがわかっている。本研究では、後者に該当する物質群を集中的に開拓することで、強磁性体が従来担ってきた様々な物質機能を、時間反転対称性の破れた反強磁性体で代替することを目指す。
|
研究実績の概要 |
初年度にあたる本年度は、時間反転対称性の破れた反強磁性体の具体例として、磁性イオンがインターカレートされた層状ファンデルワールス物質であるCoNb3S6/CoTa3S6の物性を詳細に調べた。この物質は、磁化がほぼゼロであるにも関わらず、強磁性体に匹敵する巨大な自発ホール効果を示すことがわかっている。過去の報告では、単純な反平行型の反強磁性構造が実現しているとされていたが、新たに偏極中性子散乱実験による磁気構造解析を行った結果、all-in-all-out型の非共面な反強磁性磁気構造が実現していることがわかった。一般に、伝導電子が非共面なスピンテクスチャの下で運動する際には、余分なベリー位相を獲得することで巨大な仮想磁場を感じることが理論的に予測されている。本物質で観測された磁化に依存しない巨大な自発ホール効果は、こうした仮想磁場に由来したトポロジカルホール効果として良く理解できることが明らかになった。CoNb3S6/CoTa3S6は時間・空間反転対称性の両方が同時に破れた希有な物質系となっており、様々な電気的・光学的手法による反強磁性ドメインの書き込み・読み出しが可能である事が期待される。また、系の磁気対称性に基づく物質設計のための網羅的な「地図」を作成することで、単純な反平行型反強磁性スピン構造によって時間反転対称性を破るような新物質を発見することにも成功し、その詳細な磁性・電気輸送特性の解明と、さらなる類似物質の開拓を現在進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、時間反転対称性の破れた特殊な反強磁性体における仮想磁場を活用することで、従来の磁気情報素子で利用されてきた強磁性体の物質機能を、磁化ゼロの反強磁性体で代替することを目指している。初年度にあたる本年度は、反強磁性体CoNb3S6/CoTa3S6における巨大な自発ホール効果が、非共面な反強磁性磁気構造が誘起する仮想磁場に起因したトポロジカルホール効果として理解できることを突き止めた。また、この物質が時間・空間反転対称性の両方が同時に破れた希有な物質系となっており、様々な電気的・光学的手法による反強磁性ドメインの書き込み・読み出しを実現できる可能性があることを明らかにした。さらに、系の磁気対称性に基づく物質設計のための網羅的な「地図」を作成することで、室温で「↑↓」「↓↑」状態の電気的な区別が可能な反強磁性体を新たに発見することにも成功しており、期待以上に研究が進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる本年度は、前年度に作成した磁気対称性に基づく物質設計のための網羅的な「地図」を利用することにより、時間反転対称性の破れた反強磁性体のさらなる系統的な開拓を目指す。実際に、空間群・Wyckoff位置を指定可能な結晶構造データベース(ICSDなど)を利用することで、既に複数の有望な候補物質を見出すことに成功しており、こうして抽出した候補物質の単結晶を、様々な手法(ブリッジマン法、浮遊帯域溶融法、アーク溶融法、気相成長法、フラックス法など)を用いて順次育成を行う。更に、反強磁性秩序状態での結晶ホール効果の測定を行い、時間反転対称性の破れに起因した仮想磁場の有無や大きさを評価することで、「↑↓」「↓↑」状態の区別・制御が可能な、新しい反強磁性物質の系統的な開拓を推し進めたい。また、前年度に時間反転ドメインの電気的な区別が可能な反強磁性体を実験的に発見することに成功しており、これらの物質を利用した新たな磁気情報の制御手法の開拓にも取り組みたい。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
|