研究課題/領域番号 |
21H05003
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分C
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木本 恒暢 京都大学, 工学研究科, 教授 (80225078)
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研究分担者 |
金子 光顕 京都大学, 工学研究科, 助教 (60842896)
田中 一 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (40853346)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
191,230千円 (直接経費: 147,100千円、間接経費: 44,130千円)
2024年度: 29,250千円 (直接経費: 22,500千円、間接経費: 6,750千円)
2023年度: 33,670千円 (直接経費: 25,900千円、間接経費: 7,770千円)
2022年度: 42,380千円 (直接経費: 32,600千円、間接経費: 9,780千円)
2021年度: 61,360千円 (直接経費: 47,200千円、間接経費: 14,160千円)
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キーワード | 炭化珪素 / MOSFET / 絶縁破壊 / パワーデバイス / 高温動作デバイス / MOS界面 |
研究開始時の研究の概要 |
エレクトロニクス社会を支える半導体はケイ素(Si)を中心として発展してきたが、Si半導体技術は成熟して、今後の飛躍的な発展が困難になりつつある。炭化ケイ素(SiC)は、高い電界強度や高温に耐える優れた性質を有する新しい半導体であり、現行のSiの限界を桁違いに打破する高耐電圧・低損失トランジスタや、300℃以上の高温で安定に動作する集積回路を実現できる。本研究では、このようなSi限界を越えるSiC半導体デバイスの実現を目指して、SiC半導体における電子の挙動やSiCトランジスタの極限的な特性を実験および理論計算によって明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、低損失パワーデバイスおよび高温動作集積回路の実現に向けてSiC半導体に関する学理革新と深化を目指しており、本年度に得られた主な成果は以下の通りである。 1) SiC MOS反転層内のキャリア散乱機構の解明に関しては、ボディ領域のアクセプタ密度を広範囲で変化させ、異なるプロセスでゲート酸化膜を形成した素子を作製してMOS-Hall効果測定とゲート容量-電圧特性の測定を実施した。この結果、可動電子と捕獲電子密度のゲート電圧依存性、温度依存性を明らかにし、SiC MOS特有の界面捕獲電子によるクーロン散乱の影響を定量的に明らかにした。 2) SiCのpチャネルMOSFETについては、(0001)面に加えてトレンチ側壁面となる(11-20)面、(1-100)面上にも素子を作製し、これらの側壁面上おいて高いチャネル移動度が得られることを見出した。特に(1-100)面上では28 cm2/VsというSiC pチャネルMOSFETとして従来の約2倍となる最高の移動度を達成した。また、SiC CMOS素子を試作し、250℃の高温動作を実証した。 3) SiCの高電界物性に関しては、独自のpn接合素子を作製して電子および正孔の衝突イオン化係数の異方性および温度依存性を初めて明らかにした。さらに、実験により見出した電子の衝突イオン化係数の特異性を、SiC特有の伝導帯構造を考慮したフルバンドのモンテカルロシミュレーションによって物理的解釈を与えた。 4) 様々なアクセプタ密度を有するSiCショットキー障壁ダイオードを作製し、実測特性を理論計算結果と比較検討した。アクセプタ密度が2E18cm-3以上では、実測した順方向・逆方向特性ともに有効質量の小さいスプリットオフバンドの正孔のトンネル電流により定量的に説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全ての課題において、当初に計画した結果を得ており、一部の課題では予想を上回る成果が得られるなど、順調に進展している。以下に課題毎の達成状況を述べる。 1) 高品質SiC MOS界面の形成とnチャネルMOSFETの特性解析に関しては、提案する酸化抑制プロセスにより当該分野最高のチャネル移動度を達成した。また、体系的なMOS-Hall効果測定と理論解析を元に、SiC MOS特有の界面捕獲電子によるクーロン散乱を考慮することにより、室温における移動度を理論モデルにより精度よく再現することに初めて成功した。2) pチャネルSiC MOSFETに関しては、無極性面を用いることにより当該分野で最高のチャネル移動度を達成すると共に、正孔移動度の異方性を見出した。3) SiCの高電界電子物性に関しては、接合の絶縁破壊を決定する最重要物性である衝突イオン化係数の異方性と温度依存性を初めて決定し、その物理的解釈を与えた。SiCデバイスシミュレーションの重要なデータベースとなる。4) SiC接合の高電界特性に関しては、高濃度ドープショットキー障壁におけるトンネル電流の寄与を理論的に明らかにし、これを元に電極形成後の熱処理なしに最良の接触抵抗率を達成した。 いずれも実験研究と理論研究の融合によってワイドギャップ半導体のデバイス物理に明確な理解を与える成果である。これらの成果が国際的に認知され、本年度は国際会議の基調・招待講演も10件以上行うなど、当該分野を牽引する成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
SiC nチャネルMOSFETの高性能化については予想を上回る移動度向上を達成したので、今後はMOSFET特性を予測する物理モデル構築に注力する。この研究課題は MOS-Hall効果測定による実験研究と、反転層内キャリアの電子状態と散乱過程を考慮した計算研究からなる。SiC MOS特有のクーロン散乱を記述する物理モデルを構築し、各ゲート電圧に対する自由キャリア密度、キャリア移動度、捕獲キャリア密度を求め、MOSFET特性を予測できるようにする。SiC pチャネルMOSFETに関しては、しきい値電圧の低減を進めると共に、プレーナ型CMOSを設計・作製し、高温動作を実証する。 SiCの高電界電子物性に関しては、高電界下における電子および正孔のドリフト速度の決定に取り組む。SiCでは従来の半導体に比べて約一桁高い電界まで測定する必要があり、測定素子の構造と計測手法に工夫が必要である。 SiC pn接合の高電界特性については概ね当初の目標を達成したので、ショットキー障壁の高電界特性に注力し、その知見を元にして、低い接触抵抗率を有するオーム性電極を形成する設計指針の提示を目指す。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A+: 研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる
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