研究課題/領域番号 |
21H05006
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分C
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研究機関 | 中村学園大学 (2024) 九州大学 (2021-2023) |
研究代表者 |
都甲 潔 中村学園大学, 栄養科学研究科, 特任教授 (50136529)
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研究分担者 |
松井 利郎 九州大学, 農学研究院, 教授 (20238942)
重村 憲徳 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40336079)
小野寺 武 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (50336062)
巫 霄 福岡工業大学, 工学部, 助教 (20825351)
内田 享弘 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (70203536)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
190,190千円 (直接経費: 146,300千円、間接経費: 43,890千円)
2024年度: 33,540千円 (直接経費: 25,800千円、間接経費: 7,740千円)
2023年度: 35,230千円 (直接経費: 27,100千円、間接経費: 8,130千円)
2022年度: 35,750千円 (直接経費: 27,500千円、間接経費: 8,250千円)
2021年度: 53,950千円 (直接経費: 41,500千円、間接経費: 12,450千円)
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キーワード | 味覚センサ / アロステリー / 味覚受容体 / 非荷電味物質 / 広域選択性 / 非荷電苦味物質 / NMR法 |
研究開始時の研究の概要 |
味を測る装置である味覚センサは脂質と可塑剤,高分子(ポリ塩化ビニル)からなる受容部(脂質高分子膜)を有し,既に実用に供されているが,膜電位計測であるため,電荷を有しない味物質(糖類や非荷電苦味物質)の計測は不可能であった.本研究課題は,この課題を解決すべく,「日本発,世界初の味を測ることを可能とした味覚センサ」と「分子生物学的アプローチで進められた味覚受容研究」を新たな一つの次元に落とし込むことで,アロステリーを利用することで味覚センサの非連続的かつ飛躍的深化を図る.
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研究実績の概要 |
5つのグループが連携し,以下の成果を得た. 1)キサンチン骨格を有する複数の薬剤へ測定対象を拡張し,水酸基を有する芳香族カルボン酸で修飾した味覚センサにて測定を行った.さらに,これら薬剤の苦味強度評価のためのヒト官能試験を実施した.官能試験の結果は,味覚センサ測定の出力値と有意な相関を認めた. 2)甘味センサ開発では,ボロン酸の高い糖結合選択性に着目し,種々のボロン酸誘導体を混入させた脂質膜の電位計測を実行した結果,3-ニトロフェニルボロン酸(3NPBA)でショ糖に最も高い応答値を得ることができた.また,糖ごとに異なる水酸基間の距離や酸解離定数が応答に与える影響を明らかにした.さらに,トリメリト酸を修飾剤に用いたセンサ受容膜で高感度検知を目指す研究もスタートさせた. 3)うま味センサでは,生体模倣として,セリン誘導体を脂質高分子膜に導入したセンサを作製し,その応答特性を調査した.それとは別に2,6-ジヒドロキシテレフタル酸(2,6-DHTA) がうま味物質MSGに極めて大きな応答をすることを見いだした. 1H-/13C-NMR測定における化学シフト観測あるいは,NOE観測を軸として,複合体形成を評価した.その結果,グルタミン酸に対して2,6-DHTAにおいて大きな化学シフト変化が認められ,アスパラギン酸などアルキル鎖長が短い場合,シフト変化量は低下した.これにより,両化合物の有するカルボキシ基間での水素結合を介した複合体形成が示唆された. 4)ラクチゾールと類似構造を有する非ステロイド性抗炎症薬ジクロフェナクが,マウスおよびヒトの甘味受容体TAS1R2/TAS1R3の活性化を抑制することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず苦味受容膜開発については,アロステリーを利用したセンサの応用を図るため,カフェインやテオブロミン以外のキサンチン類の計測を行った結果,キサンチン類である気管支拡張薬のジプロフィリンとプロキシフィリンについて人の官能と同様,カフェインと同様の苦味応答を示すことが判明した.本結果は,当該脂質高分子膜の有用性と汎用性を示すものであり,結果,非荷電苦味物質の創薬応用に大きな前進ができた. 甘味受容膜開発についても,ボロン酸誘導体を混入させた脂質高分子膜にて糖類への優位な応答を得ることができた.ボロン酸が糖類に特異的結合をすることは古くから知られているが,電位計測にてそれを実証した最初の例と言える.また他の方法としてトリメリト酸で修飾した膜も活用することで,さらなる高感度化を図り,良好な結果を得つつある. うま味受容膜の開発については,望外の結果を得ることができた.まず,当初予定として生体のうま味受容に倣いセリン類似物の利用を試みたが,必ずしも良好な結果を得ることができなかった.ところが偶然,苦味検知で用いていた2,6-DHTAがうま味物質MSGに極めて大きな応答をすることを見いだした.この修飾剤は1つのカルボキシ基の両隣に水酸基を有し,対面にもう一つカルボキシ基を有する化合物である.寸法的に対面のカルボキシ基がMSGと水素結合を組むのに適していること,加えて両隣に位置する水酸基との分子内水素結合状態がMSGとの相互作用で不安定化し,溶液中プロトンがカルボキシ基に戻り,応答電位増加となって現れたと考えており,NMR法でもその予測が確かめられつつある.これらの結果から特許出願に至った. 以上,R5年度は苦味膜の拡張・汎用性の確認,甘味膜の新機軸ならびに高感度化の萌芽,うま味膜における全く新しい分子認識膜の発見と開発に成功し,極めて順調に研究が進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
非荷電苦味物質の検知とセンサの創薬応用:R5年度に続いて抗癌作用を有するアセフィリン,抗炎症剤のドキソフィリン,類似のプリン構造を有し痛風の治療に用いられるアロプノールへと創薬応用を目指した研究を進める.アロステリーを可能とする修飾剤についても,さらなる高感度を目指し,小野寺Gと協力し研究を遂行する.合わせて他の医薬品の計測可能性と拡張性も探る.以上,食品であるカフェインに始まり,アセフィリンやアロプノール等の代表的医薬品の苦味の数値化を可能とするセンサの実現を目指す. 甘味受容膜の開発:3NPBA混入膜にて種々の糖類への応答を測定し,結果を統計解析することで,受容メカニズムを明らかにする.合わせて,従来のトリメリット酸を修飾剤に用いた甘味膜で,膜組成を調整することで,さらなる高い感度を目指す研究も遂行する.小野寺G,巫Gならびに重村Gとも活発な意見交換を行い,研究を遂行する. うま味受容膜の開発:新たに見いだした2,6-DHTAについてMSGとの相互作用機作を松井Gと協力しNMR法を活用することで明らかにすると同時に,IMPといった他のうま味物質,ならびに相乗効果検知についても研究を進める.さらに,他の修飾剤の可能性も探る. 上記3つの課題を5グループで実施し,まめに意見交換・検討の場を持つことでPDCAサイクルを繰り返し,迅速化を図り本申請課題の達成に向け努力する.
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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