研究課題/領域番号 |
21H05017
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 耕一郎 京都大学, 理学研究科, 教授 (90212034)
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研究分担者 |
柳 和宏 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (30415757)
村上 雄太 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (70845289)
内田 健人 京都大学, 理学研究科, 助教 (40825634)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
190,320千円 (直接経費: 146,400千円、間接経費: 43,920千円)
2024年度: 24,700千円 (直接経費: 19,000千円、間接経費: 5,700千円)
2023年度: 42,380千円 (直接経費: 32,600千円、間接経費: 9,780千円)
2022年度: 43,680千円 (直接経費: 33,600千円、間接経費: 10,080千円)
2021年度: 60,190千円 (直接経費: 46,300千円、間接経費: 13,890千円)
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キーワード | 高次高調波発生 / 高強度場物理 / 非線形光学 / 超高速現象 / 原子層薄膜 / 極端非線形光学 / 赤外非線形分光 / 原子層物質 / 強相関電子系 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、高強度光場と固体物質との相互作用によって生じる極端な非線形光学現象の学理を構築することにある。中赤外域領域での高次高調波発生の周波数依存性や偏光依存性を調べるとともに、高次サイドバンド生成やサブサイクル分光の手法を用いて、光照射下での物質系の動的な秩序状態を明らかにする。固体物質として、一電子近似が成立するバンド絶縁体に加えて、強相関電子系物質や電荷秩序を示す物質も研究対象とすることにより、物質を特徴付けるどのようなパラメータが高強度光場による極端な非線形光学現象を決定しているかを明らかにする。これにより、物質を評価する計測技術としての展開を進める。
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研究実績の概要 |
高強度光電場による周期的駆動下でのフロッケ状態形成の効果を検証するため単層WSe2の励起子共鳴近傍で高次高調波発生(HHG)を観測した。通常の高次高調波スペクトルでは励起光子エネルギーの整数倍の光子エネルギーの近傍からの放射が生じるが、そこから大きく外れた励起子共鳴からのコヒーレントな放射が観測された。強度依存性や偏光特性などの検証を行うことで、励起子状態が高強度中赤外光パルス照射下でフロッケ状態を形成していること、そのエネルギーが大きく変化することによってフロッケ状態間の非断熱的な遷移が生じること、形成された励起子コヒーレンスが観測された特異な放射の起源であること、を明らかにした。さらに中赤外光強度を調整することによって非断熱遷移のレートが制御できる可能性があることを明らかにした。 また、HHGとバンド構造、フェルミレベルの三者の関係を物質横断的に理解する為、半導体(6,5)型SWCNT、MoS2、WS2、グラフェンといった試料に対して、HHGのフェルミレベル依存性の実験的解明を進めた。その際、グラフェンにおいて高次高調波のフェルミレベル依存性がまったく見られないという結果を得た。この現象を説明するために、グラフェンからのHHGのドープ量およびギャップサイズ依存性を理論的に解析した。外場強度が増えるに従いドープ量依存性が弱まること、従来の理論計算でしばしば無視されている項がグラフェンのようなギャップの小さな系のHHG計算に重要な寄与をもたらすことを明らかにした。破壊閾値の問題からグラフェンでは実験が困難であることを考慮して、直径1.4nmの半導体型SWCNT薄膜系を対象にレーザー強度・フェルミレベル依存性の研究を進めた。その結果、レーザー強度およびフェルミレベルの位置の両者がHHGに大きく影響を及ぼすことを実験的に解明し、その背景に関する理論計算を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高強度光電場による周期的駆動下では、電子状態はフロッケ描像でよく理解でき、半導体の励起子ではその共鳴エネルギーが大きく変化することが報告されてきたが、高次高調波発生(HHG)にどのように適用できるかは、実験的には明らかにされていなかった。今回、フロッケ状態形成の効果を検証するため単層WSe2の励起子共鳴近傍でHHGを観測した結果、励起子状態が高強度中赤外光パルス照射下でフロッケ状態を形成してそのエネルギーが大きく変化することによってフロッケ状態間の非断熱的な遷移が生じて形成された励起子コヒーレンスが観測されることを明らかにした。さらに中赤外光強度を調整することによって非断熱遷移のレートが制御できる可能性があることを明らかにした。これは、HHGに伴う励起子コヒーレンス生成の制御が可能であることを意味しており、フロッケエンジニアリングとして重要な成果である。が可能であることを示した初めて実験的証拠であり、秋た特異な放射の起源であることを明らかにした。 また、理論的にグラフェンからのHHGは外場強度が増えるに従いドープ量依存性が弱まること、従来の理論計算でしばしば無視されている項がグラフェンのようなギャップの小さな系のHHG計算に重要な寄与をもたらすことを明らかにした点は大きな成果である。以上から、本研究の進捗状況は当初の計画以上であると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
京大グループでは、強相関物質の典型であるPr1-xCaxMnO3に関して、詳細な温度依存性や偏光依存性を計測することで磁性や電荷・軌道秩序の影響を明らかにする。また、これまでの計測では高次高調波の強度を観測してきたが、電子ダイナミクスの詳細を明らかにするために新たに高調波位相が観測可能なシステムの構築を目指す。さらに、HHGに加えて、高強度中赤外光と弱い近赤外光の光波混合によって生じる高次サイドバンド発生による研究を進める。高次サイドバンド生成では、弱い近赤外光の波長・偏光を制御することでHHGよりもバンド選択的に電子ダイナミクスを調べることができる。この特性を活かしワイル半金属Td-WTe2や励起子絶縁体Ta2NiSe5での特異な高強度電場下の電子ダイナミクスを明らかにすることを目指す。 都立大グループにおいては、半導体型SWCNT系におけるHHGのレーザー強度依存性を詳細に解き明かし、物理的機構を明らかにする。また、単層MoS2において、キャリア注入による五次の増大が見られた。比較のため、両極性的なキャリア注入が可能と予想されるMoSe2における高次高調波のフェルミレベル依存性を調べ、バンド構造とHHGとの関係について知見を深める方針である。 理研グループにおいては、Mott絶縁体からのHHGの詳細な理解のために、2leg Hubbard模型の数値解析を行い、HHGの振る舞いの変化を議論する。さらに、HHGの初期過程であるトンネルプロセスに関しても詳細な解析を進める。半導体・半金属からのHHGに関しては、まず、THz領域のHHGの新しい制御方法としてカーボンナノチューブにおけるAharonov-Bohm効果の活用を検討する。さらに、遷移金属ダイカルコゲナイド系の物質を対象に、第一原理計算からのパラメータ評価を介したHHGの理論解析を行う。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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