研究課題/領域番号 |
21H05025
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分E
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
浅沼 浩之 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20282577)
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研究分担者 |
根本 直人 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60509727)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
190,450千円 (直接経費: 146,500千円、間接経費: 43,950千円)
2024年度: 32,110千円 (直接経費: 24,700千円、間接経費: 7,410千円)
2023年度: 27,560千円 (直接経費: 21,200千円、間接経費: 6,360千円)
2022年度: 43,550千円 (直接経費: 33,500千円、間接経費: 10,050千円)
2021年度: 54,210千円 (直接経費: 41,700千円、間接経費: 12,510千円)
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キーワード | 人工核酸 / Pre-RNA world / 化学ライゲーション / SNA / L-aTNA / PNA |
研究開始時の研究の概要 |
本申請では、1)L-aTNAを”ゲノム”に見立てた自己複製(L-aTNA→L-aTNA)・転写(L-aTNA→DNA(RNA))・逆転写(DNA(RNA)→L-aTNA)という人工遺伝システムを非酵素的に実現することで、L-aTNAがPre-RNAワールド仮説の候補になりうる原始核酸であることを実証し、さらに2)この人工遺伝システムを活用したL-aTNA人工アプタマー創成へと展開する。
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研究実績の概要 |
鋳型鎖をDNAおよびRNAに代えて連結反応(逆転写反応)を行った。まず17 merの鋳型鎖上で2本の相補的な8-merのL-aTNAフラグメントの連結反応を行ったところ、Mn2+/CNImを縮合剤に使用しL-aTNA鋳型鎖の場合の連結反応速度が4℃で1.5 h-1だったのに対し、DNAおよびRNA鋳型鎖上ではそれぞれ1.1 h-1、1.2 h-1と、L-aTNA鋳型鎖と遜色ない速度で進行した。次に8-merのL-aTNAプライマーと3種類の相補的な3-merのL-aTNAフラグメントを用いて17merのDNAあるいはRNA鋳型鎖上で逐次的連結反応を4℃で行ったところ、いずれの場合も4℃24時間で完全長のL-aTNA鎖がほぼ100%で得られた。進捗状況で詳細に記すように、DNAおよびRNAの骨格のキラリティーが化学ライゲーションを促進することが明らかとなった。 この結果を受け、DNAの連結反応についても鋳型鎖を32 merのDNAに代えて16 merのDNAフラグメント同士のCd2+とCNImで連結反応を行った。その結果、Mn2+イオンを用いた場合の10倍以上反応速度が向上し、25℃2時間で90%以上の収率で連結反応が進行した。我々が発見したCNImとCd2+の組み合わせによる連結反応はリガーゼに匹敵する速度であった。そこでhalf-sliding型DNAを用いて長鎖DNA二重鎖の合成を、T4リガーゼとCNIm/Cd2+で比較したところ、CNIm/Cd2+の方がT4リガーゼより長いDNA二重鎖を合成できることが判明した。 さらに化学ライゲーションの主鎖骨格が与える影響についてSNAとL-aTNAの比較を行い、らせんの誘起とライゲーション部位の局所構造が影響を与えることが判明した。特に局所構造の相違は顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライゲーション速度に与える影響について、主鎖がL-aTNAと酷似しているが骨格のユニットがアキラルなセリノールで構成される非環状型人工核酸SNAと、ライゲーション速度を比較した。興味深いことにSNAの化学ライゲーションは、求核性の高い一級水酸基を有するにもかかわらず、ライゲーション効率は大きく低下した。そこでSNA鎖中にL-aTNAユニットを部分的に導入したところ、らせん誘起に伴いSNAユニット同士のライゲーション速度の向上が観察された。次にSNA鎖中にライゲーション部位のみにL-aTNAユニットを導入したところ、fullのL-aTNA鎖に匹敵するライゲーション速度が得られた。これらの事実から、らせん構造の誘起と局所構造の両方がライゲーション速度の向上に貢献するが、特にライゲーション部位のキラリティーが重要であることが明らかとなった。さらにキラルな超分子であるDNAとRNAを鋳型にした場合、L-aTNA鎖のライゲーションはSNAを鋳型に用いた場合よりも優位に高いことも判明した。これらの結果は、キラリティーが配列複製を加速することを示した最初の例であり、生命の進化においてキラルな骨格が選ばれたことと密接に関係していると考えている。 これらの結果を踏まえ、RNA→L-aTNAへの効率的な逆転写も実現した。この過程でCd2+/CNIm(あるいはMn2+/CNIm)によるDNAの化学ライゲーションがリガーゼに匹敵する速度で進行することを明らかにした。またL-aTNA→DNA/RNAへの配列転写も、オプションとして提案したDNAランダムプールから人工核酸に相補的なDNAのみを釣り上げてくる方法が有効であることも明らかにした。このように研究機関後半の大きな課題であるL-aTNAアプタマー取得のための進化サイクルに向けた要素研究は現段階でほぼ実現した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って1)L-aTNA二重鎖の自己増幅、2)金属錯体化による連結反応の高速化、3)L-aTNAアプタマー取得 を行う。 2)の金属錯体については、イミダゾール系の配位子を検討すると同時に、生命の起源の観点から、ヒスチジン/金属イオン(Mn2+, Cd2+など)/BrCNの三元系での効率的な化学ライゲーションの可能性を検討する。アミノ酸のヒスチジンで化学ライゲーションが可能ならば、我々が提唱するアミノ酸ベースのPre-RNA仮説が説得力を持つようになる。 3)のアプタマー取得に関しては、研究計画ではトロンビンアプタマーを計画していたが、トロンビンと同様に比較的短い配列でアプタマー取得が報告されているATPも標的とする。また効率的な化学ライゲーションを利用して、ストレプトアビジン修飾磁気ビーズを使わず全て水溶液中でL-aTNA→DNA配列転写する方法も併せて検討し、L-aTNAアプタマー取得へ応用する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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