研究課題/領域番号 |
21H05044
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分H
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研究機関 | 東京理科大学 (2024) 慶應義塾大学 (2021-2023) |
研究代表者 |
吉村 昭彦 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (90182815)
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研究分担者 |
伊藤 美菜子 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (70793115)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
189,280千円 (直接経費: 145,600千円、間接経費: 43,680千円)
2024年度: 35,490千円 (直接経費: 27,300千円、間接経費: 8,190千円)
2023年度: 39,650千円 (直接経費: 30,500千円、間接経費: 9,150千円)
2022年度: 40,430千円 (直接経費: 31,100千円、間接経費: 9,330千円)
2021年度: 44,200千円 (直接経費: 34,000千円、間接経費: 10,200千円)
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キーワード | 獲得免疫 / 脳内炎症 / ミクログリア / 脳梗塞 / アルツハイマー / メモリーT細胞 / 制御性T細胞 / 自己抗体 / 神経炎症 / アルツハイマー病 / T細胞受容体 / グリア細胞 / T細胞 / パーキンソン病 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は免疫学の立場から、獲得免疫系による中枢神経機能の修復機構の解明をめざすことである。これまで脳内ではミクログリアが免疫細胞として解析されてきたものの、獲得免疫を担うT細胞、B細胞などのリンパ球はようやくその重要性が認識されつつある。しかし、その分子細胞レベルでの意義の解明は極めて遅れている。本研究では特に脳梗塞のような脳損傷やアルツハイマー病などの神経変性疾患のような脳内炎症が関与する神経傷害とその修復過程での獲得免疫系の意義を明らかにする。多彩な免疫細胞―神経細胞の相互作用を解析することで中枢神経組織の組織修復機構の解明およびその異常から生じる病態発生の理解をめざす。
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研究実績の概要 |
免疫系細胞が神経系細胞を巻き込んで引き起こす「脳内炎症反応」は短期的には神経細胞にとって悪影響があるものの、炎症収束後の脳機能修復とその維持に不可欠と考えられる。しかし、その制御破綻による過剰な反応は脳機能の障害、発達行動異常、脳機能損傷などと密接に関係する。そこで、本研究領域ではマウスモデルを中心に脳傷害時のin vivoモデルおよび一細胞RNAシークエンス(scRNAseq)解析を組み合わせることで、多様な免疫神経細胞相互作用からなる中枢神経組織の組織修復機構の解明およびその制御不全から生じる病態発生の理解をめざす。本年度の実績は以下の通りである。 ①発症後3日目の急性期と24日目の慢性期のscRNAseqを施行した。脳梗塞後急性期には浸潤マクロファージや樹状細胞が主体で、慢性期にはリンパ球の集積が主体になることが確認された。scTCR,BCR解析により、各T細胞サブセットでオリゴクローナルに増幅しているTCRを同定しており、そのうちいくつかは脳内抗原に反応性であった。RNAseq解析により脳内におけるTregやメモリーT細胞にPD-1やNR4aといったT細胞疲弊関連分子の発現が高いことを見出した。脳梗塞のみならずAPPマウスにおいてもメモリーT細胞にNR4aの発現が高いことを見出した。②梗塞抵抗性のメカニズムを解明するために、脳梗塞発症後の急性期、慢性期、および反対側の脳細胞のscRNAseqを行った。その結果、細胞性の因子はTreg、液性の因子の一つはオキシトシンであることが示唆された。③アルツハイマー(AD)モデルにおけるscRNA解析からADマウスではミクログリアがT細胞依存的に病原性に変化している割合が増加していた。さらに脳内で増加しているT細胞のTCRを同定した。④脳Tregの特性をin vitroで付与する培養法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この2年間の研究ではscRNAseq解析技術を駆使して各T細胞サブセットでT細胞のオリゴクローナルな増幅が認められることを明らかにし、脳抗原特異的なTCRを単離しTCR導入T細胞の移入実験をおこなっている。さらに脳梗塞慢性期に脳内で増加する自己抗体を単離しており機能面からの獲得免疫系の意義を明らかにしようとしている。このような動きは世界的にも未だほとんど報告されておらず、我々の研究が一歩リードしており、先んずることができれば学術的にも、治療診断面でも意義が大きい。脳内炎症とTregに関しても今後大きな注目を集めるものと期待される。我々の試験管内で脳Tregを作成する、と言うアイデアは画期的であり、今後多くの研究室で改良が進められ、治療への応用が進められる可能性が考えられる。 また脳梗塞再発モデルを用いて脳梗塞耐性に関わる因子としてオキシトシンを発見した意義は大きく、オキシトシンやその受容体アゴニストを用いた脳梗塞再発予防薬の開発も期待できる。ADモデルの増悪化にCD8+T細胞が関与することや、脳-腸連関による好中球の寄与を明らかにすることができた。今後その分子機構を解明するとともに、免疫細胞を標的としたアルツハイマー病の治療の可能性が示された点は画期的である。 さらに本研究の過程で脳内におけるTregやメモリーT細胞にPD-1やNR4aが関与することを見出した。脳内T細胞の機能や維持機構に関する検証が進めば、NR4aが脳内T細胞を規定する新たな転写因子として注目される可能性がある。さらに認知症をはじめとする老化関連疾患とメモリーCD8+T細胞の関係の解明が進み、これらの治療にNR4aが重要な標的となる可能性がある。 このように開始後2年という短い期間でありながら今後進展が期待できるいくつかの重要な発見があり、本研究は順調に研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1)scRNAseqでは同定の困難であった、オキシトシンの産生細胞と受容細胞を免疫染色とリアルタイムPCRにより同定する。再発時のTreg増加メカニズムの解明を目指し、同じTCRをもつTregがリンパ節などでメモリーの特徴を持つことがTregの迅速な浸潤のために重要なのか、scRNAseqのTCRデータより解析する。TregにTCRを導入して浸潤能を検討する。 2)脳梗塞Tregで増幅されているTCRはすでにクローニングを完了しレトロウイルスに搭載している。試験管内で誘導したTregに導入し、脳浸潤性や脳梗塞後の神経回復への影響を確かめる。またアルツハイマー(AD)モデルで増幅されていたTCR導入CD8+T細胞のAβ蓄積に及ぼす影響を解明する。脳梗塞モデルで増幅するBCRを抗体として産生し、各種脳内炎症モデルに抗体を投与して個体レベルでの影響を調べる。 3)scRNAseqの解析からCD8+T細胞はミクログリアの分化を恒常性から病原性に転換する可能性が示された。cRNA解析を用いてCD8+T細胞がミクログリアの性質を転換させるメカニズムを明らかにする。 4)すでにAPPマウスにDSS腸炎を誘導すると凝集したAβが増加することを明らかにした。また好中球由来のMMP9がAβの蓄積に関与することが示唆された。今後カエデマウスを用いて好中球が腸由来なのか、頭蓋骨由来なのかを調べる。 5)脳梗塞モデルやADモデルで脳内に浸潤するTregやCD8+T細胞においてNR4aの発現が上昇することを確認している。NR4a2はパーキンソン病の原因遺伝子としても知られている。今後Treg特異的もしくはCD8特異的NR4a欠損マウスを用いて脳内T細胞におけるNR4aの意義を明らかにする。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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